第41話 クラスメートの分断

 エルフの強制収容所には八百人近くが収容されていた。エルフには近くの鉱山で鉱石の発掘をさせている。言ってみれば、ちょっと前までの俺たちと同じだが、エルフたちは無駄に美男子過ぎた。


 毎週末、人間の王国に通っていた加世子たちが、ここに通うようになっていた。加世子たちはエルフの男たちの作業の様子を見ながら、何やらキャッキャ言っている。


「加世子、カナたちがエルフに殺されたのを忘れたのか?」


 俺は加世子に声を掛けた。


「殺したのはキリネでしょう。日本と中国もそうだったけど、仲の悪いのは上層部だけ。一般市民はそうではないはずよ」


「エルフは純血主義で、混血を極端に嫌う。ただでさえ恋愛感情の薄いエルフだ。期待しない方がいいぞ」


「そ、そんなんじゃないわよ。発掘方法の技術指導をしているだけよ」


 放っておこう。いずれ人間の国に行くようになるだろう。


 と思ったのが間違いだった。加世子と麗亜がエルフの男に唆され、エルフの集団脱走を幇助してしまったのだ。しかも、まずいことに、脱走を阻止しようとしたドワーフの看守が、エルフの攻撃で死傷してしまった。


 レベル100の加世子と麗亜が相手では、ドワーフでは対応が出来ない。俺はルミエールから事態の収拾を依頼され、絵梨花、恭子、美香、市岡、佐竹、セイラの戦闘系のクラスメートを集め、対応を検討した。


「エルフの男が人間の女性を好きになることは絶対にない。あいつら、ホストに騙された女みたいになっているんじゃないか?」


 俺の素晴らしい比喩は、二十五年前の絵梨花たちには通じなかったようだ。


「桐木くん、何言っているのかよく分からないけど、とにかく加世子と麗亜は騙されてるってことね」


 俺は絵梨花に頷いた。


「それで、今、あの二人はどこにいるんだ?」


 市岡の問いに、俺はルミエールから聞いたことをそのまま伝えた。


「エルフの国に連れて行かれた。許可があれば、転移者でもエルフの国への入国は可能だからな。だが、まずいことに俺の臨終憑依が、加世子と麗亜の間を行ったり来たりしている。このままだとあいつらは死んでしまう」


「話しかけて、戻って来させられないのか?」


 市岡が心配そうに聞いて来た。


「俺の声は完全に押さえ込まれている。さすがレベル100だ」


「エルフの国の中では、俺たちには手が出せないぞ」


 市岡に言われるまでもなく、それは重々承知していた。


「収容所に残っている男エルフとの交換を申し入れようと思う。ルミエールには許可をもらった。ただし、王国の女エルフを収容所に収容するのが条件だ」


「なるほど。で、俺に女エルフの拉致をしろ、ということか?」


 市岡が皮肉めいた笑みを浮かべた。


「いや、お前はそういうのはしないのだろう? 佐竹とセイラに頼もうと思っていた」


「セイラの護送船団か」


「そうだ」


 セイラには大人数を結界の船に乗せ、移動させる道術を使うことができる。佐竹は護衛だが、欲を言えば、オールマイティの市岡を護衛につけたい。だが、市岡はエルフであっても、女性に暴力を振るおうとしないのだ。


「セイラさんを守るための護衛ということであれば、俺も動くぞ」


 まさかの市岡の提案だった。


「そうか。それはありがたい。では、市岡と佐竹でセイラを守ってくれ。二人なら完璧だ」


「了解した」

「おう、任せてくれ」

「了解だよ」


 三人に任せれば安心だ。


 と思ったのが間違いだった。今度は、市岡と佐竹が女エルフに騙されて、エルフの国に連れて行かれてしまったのだ。セイラは隙を見て逃げ出して来た。


「もう、市岡くん、エルフのお姉さんに完全に骨抜きにされちゃったよ」


 セイラは憤まんやる方ないといった態度だが、佐竹はどうしたのだろうか?


「佐竹くん? エルフの女性って信じられないぐらい綺麗揃いなんだよ。すぐに騙されたんじゃない?」


 佐竹はセイラの眼中にはなかったようだ。


「女エルフはどうしたんだ?」


「まだ王国にいるわよ。市岡くんは情報部の女性にたぶらかされたみたいよ。多分、佐竹くんもね」


「セイラは誘惑されなかったのか?」


「今回は男は来なかったの。でも、来ても私は大丈夫。私には王国に好きな人がいるから」


 エルフがまさかこういった絡み手でくるとは、完全に油断してしまった。というか、なぜこんなに簡単に騙されてしまうのだろうか。


「市岡、佐竹、加世子、麗亜か。俺たちとまさか敵対することはないと思いたいが。仕方ない。俺と絵梨花で行くか」


 俺と絵梨花は女エルフを拉致するため、王国へと転移した。

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