第40話 開戦前

 ドワーフの国に戻って数ヶ月が過ぎた。


 ドワーフの国から救国の英雄として迎えられた俺たちだが、衣食住を提供してもらっているお返しとして、俺のような戦闘バカは軍事訓練の教官として働き、絵梨花や美香など治癒力のあるものは病院に勤務している。


 また、加世子や麗亜のように生産スキルを持っているものは、職人気質のドワーフからは特に歓迎され、生産ギルドの技術教官として尊敬を集めていた。


 聖女アナスタシアは王国に居を移したが、夜だけここに転移して来て、俺と大人の時間を過ごしてから、王国に戻るという生活をしている。


 ルミエールはドワーフ国初の女性の首相に就任し、意外にも辣腕を奮っている。死神の俺でいる時間を延ばすよう再三要望されているが、やり方が分からないので、相変わらず一日六分で我慢してもらっている。


 上記のような状況であるため、このままそれなりに幸せで充実した人生を過ごせればいいのだが、いくつか問題があった。


 まず、第一に、現在、俺の伴侶は、絵梨花とアナスタシアとルミエールの三人にまで減っているのだが、この三人が俺と永遠の時を過ごしたいと言い出している。自たちが先に老いて行く姿を見せたくないそうだ。


 これについては、ルミエールがドワーフ国の情報部を使って調査をさせている。公私混同ではないかと指摘したら、「国益のため」だそうだ。ルミエールの首相在位が長くなれば国が栄えると豪語していた。


 次に、絵梨花以外のクラスの女子が、人間の王国で暮らしたいと言い始めている。ドワーフの男はお好みではないらしい。女子の生産スキル持ちは、ドワーフの男からは大モテなのだが、彼女たちは人間の男がいいらしいのだ。


 この問題は、週末にアナスタシアが人間の国に彼女たちを連れて行って、貴族のパーティなどに参加させることで解決した。


 ちなみに、市岡と佐竹はイブとニーナにフラれたので、王国にはそんなに行きたくはないようだ。


 そして、三つ目の問題が、エルフへの恨みだ。ドワーフのエルフへの恨みは深く、俺たちの元で強くなって、エルフに恨みを晴らしたいらしい。


 だが、俺たちはエルフの国には行けないため、まずは王国に駐留しているエルフと一戦交えようということになった。これであれば、転移者とエルフの双方にとって、契約違反にはならないからだ。


***


 王国に駐屯しているエルフの状況調査のため、俺と絵梨花は、二人で王国の王都に転移した。アナスタシアによると、王都には1000人以上のエルフがいるらしい。


 王都は映画で見るような中世ヨーロッパに似た景観をしている。道路は石畳で、建物は煉瓦造りのものが多い。


 今日は雨が降りそうな曇空で、昼だというのに、街は少し薄暗い感じがした。


 季節は十二月。日本と同じで、人々は何だか忙しそうだ。


「まずはアナの言っていた基地に行ってみるか」


 俺は横にいる絵梨花にささやいた。街の中心部から少し離れた郊外にあるというエルフ軍の駐屯地にまずは行ってみるつもりだった。


「うん」


 すぐにアナスタシアから教えられた方向と距離で転移したところ、少し間違えて、基地の中に転移してしまったようだ。だが、幸いなことに、何もない格納庫のような建物の中で、誰もいなかった。


「どうやら基地の中に転移してしまったようだ」


「検索してみるね」


 絵梨花は「異性検索」という周囲二キロ以内の男だけを検索する魔法を持っている。そのうえ、「お気に入り」という魔法で男にマーキングをして、「足あと」という魔法で、男の追跡をすることが可能だ。


「マッチングアプリかっ」と死神の俺が突っ込んでいたが、若干機能に違いがあると思う。マッチングアプリは、検索、いいね、マッチング、メッセージの順だろう。それに、「足あと」は自分のプロフを見たかどうかの確認機能のはずだ。


 それにしても、絵梨花のロールは、一体何なのだろうか。ナビゲーターだったカナに「鑑識」というスキルがあり、カナのスキルを引き継いだ絵梨花は、他の人のロールは見られるのだが、自分のロールを決して明かそうとしない。


「かなりの人数がいるね。数え切れないぐらい」


「人間もいるのか?」


「うん、ドワーフもいるよ」


 ドワーフ国のときは、ドワーフがエルフを敵視していたため、エルフを殺してもむしろ手助けしてくれたが、人間の場合は違う。エルフは人間に尊敬されているため、人間がエルフを守ろうとしたりして、非常に厄介なのだ。


「アナからは人間は殺さないで、って言われているからな。ドワーフも当然殺してはダメだろう」


「『メッセージ』で呼び出して、一人ずつ殺す?」


 絵梨花には「メッセージ」という魔法もあり、男を騙して自分のところに来させることが出来る。確かにマッチングアプリとよく似ているが、「メッセージ」は男を騙す機能だったのか。


「ここが霊安室になるのは嫌だろう? それに、ドワーフたちが恨みを晴らしたいんだ。俺たちがやってしまっては意味がない」


「じゃあ、私がここに呼び出すから、桐木くんの転移魔法で、エルフたちをドワーフ国に転移させれば?」


「それは妙案だな。ルミに言って、収容所を作ってもらうか」


 こうして、王国にいた男のエルフは、ドワーフ国のエルフ強制収容所に悉く転移させられることになった。


 この事件を契機にして、エルフとドワーフが、王国を戦場にして戦争を始めることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る