第29話 使命
「あっ、まだ条件があった」
魔術書を確認していたエルフの俺が叫んだ。呪縛解除には、もう一つ条件があった。
「愛し合っていないとダメらしい」
(一気にハードルが上がってしまったな)
「他に条件はないか? 地上の人間というのは、俺も該当するのか?」
俺はエルフの俺に確認した。
「召喚された者以外の人間というニュアンスだから、俺も該当するようだ。だが、お前に愛はあるのか?」
「お前の影響で少しあるぞ。強くはないがな。だから、チャームもかかるようになったはずだ。まずは絵梨花で試してみようと思う」
チャームは好意を増加させる魔法だ。好意がないとまったく効かない。今まで俺にはチャームが効かなかったが、効くようになってしまった。聖女の目がきらりと光ったのは気のせいではないだろう。
「お前、女性たちの前でセックスする宣言を堂々と言うなよっ」
「さて、そろそろ帰るとするか。聖女官邸に着き次第、すぐにお前を呼び出すが、それでいいか? 次は臨終憑依に一旦戻って欲しい」
「人の言うことをあからさまにスルーしていると、いつか誰からも話してもらえなくなるぞ。ちょっとは社交性を身につけろよ。で、臨終憑依の件だが、このエルフから離れると、今の行動の記憶を思い出すと思うが、大丈夫かな」
この質問にはルミエールが答えた。エルフの俺の目尻があからさまに下がる。
(どんだけ惚れてるんだよ)
「多分、大丈夫と思います。報告すると、父がまずい立場に陥るからです。ねっ、お父さん」
「ルミの推測は正しいだろう。意思を乗っ取られて、庁内に案内して、マル秘情報を我々に提示したのだからな」
「それに、私の存在が明るみに出ると、お父さんの立場は悪くなります」
「ルミちゃんの言う通りだな。ヒミカは底が知れないから、彼女への憑依はまだ控えた方がいいし、それに、次、誰が死ぬかの確認はこまめに必要だ」
「よし、決まりだ。転移後、すぐに呼ぶぞ。聖女、転移をお願いできるか」
「ちゃんと退出してからね」
受付で退出の手続きを終えた後、俺たちは聖女官邸まで戻って来た。
聖女は午前中の仕事はキャンセルしたが、午後からは仕事に復帰するという。俺とルミエールはいったん別邸まで戻って来た。
「ルミ、呼び出しの準備はいいか? また、何か着替えとかしなくていいのか?」
「お兄ちゃんに見られるのは恥ずかしいから、自分の部屋で用意して待っているから。体も清めておくから、お兄ちゃんもきれいにしてから死神さんを呼んでね」
「おう、それはそうだな。特に局部は念入りにきれいにしておく」
「それ、言わなくていいですっ」
ルミエールは部屋に帰って行った。
しかし、人のために体を洗うのって、イラっとするな。このイラつく感情、ルミエールを守りたいという欲求、聖女に協力したいという気持ち、絵里香への好意、この4つが俺の今の感情だ。
俺は体を洗った後、バスローブのままで、死神の俺を呼んだ。
「おう、ちょっと遅いと思ったら、ちゃんと体を洗っておいてくれたのか。気が利くじゃねえか」
「ルミに頼まれたからな。さっさと乗っ取れ」
俺の意識は三分間どころか、これから三日間途絶えることになった。
***
次に意識が戻ったとき、俺はダンジョンの屋敷の客室にいた。
目の前にルミエールと聖女がいた。
「俺はどうしてたんだ?」
「やっと、回避できました」
ルミエールがほっとした表情を見せた。
「臨終憑依が俺だったのか。記憶はどこまで同期すればいい?」
「えっと、説明するので、記憶の同期はしないで欲しいです……」
(こいつ、ここぞとばかりにやりまくったな……)
「あれから三日経っているわ。私たちはエルフに追われて、ここまで逃げて来たのよ」
聖女がエルフと呼び捨てにしている。
「ルミのオヤジさんがチクったのか?」
「ええ、ルミさんのことは知らぬ存ぜぬで通すみたいよ」
「お父さんを見くびってました。相当な悪です」
「で、エルフは?」
「ヒミカさんたちが迎撃に出てくれて、いったん退却したわ。さすがのエルフもヒミカさんたちには手も足も出なかったわ。ヒミカさんを呼んでくるわね」
(ねえ、私とはまだ何もないわよ。ヒミカさんから話があると思うけど、最初に私との約束を果たしてね)
聖女が去り際に耳元にささやいた。部屋に行く約束はまだ遂行されていないようだ。
ヒミカがカナを連れて部屋に入って来た。
「元に戻ったようだな。エルフと敵対したため、食料が心もとない。レベル100の護衛をお前につけたいのだが、私たちはお前を愛していないため、クラスメートからお前に好意を持っているものを選出して、鍛えることにした」
「俺に好意を持っている?」
「四人いるぞ、色男。それと、ここの聖女とルミエールにも訓練を施している」
「そんなに簡単に愛せないです」
「少しでも好意を持てばいい。四人は全員チャーム持ちだ。チャームをかければ、お前の愛は問題ない。長期的には人間をダンジョンに招待して、集団見合いをする予定だが、まずは橋頭堡として、お前たちに地上に進出してもらう必要があるのだ」
「四人って、絵梨花、加世子、恭子、麗亜ですか?」
「その通りだ。意識はしていたのだな」
「いや、そのほかは接点ないですから……」
「問題はする順番だが、絵梨花は『悩殺技』持ちのため、最後にしろ。一度したら最後、骨抜きにされるからな」
「これは転移者の皆さんのため、仕方がないということでしょうか」
「そうだ。お前の使命だ。四人はすでに納得している。あと、別枠だが、今回の功労者の聖女が、一番手を希望している。最初は聖女からだ」
俺はその後、逡巡する間もなく、五人の女性と順番にさせられた。
(一日に五回とか、よくできたな、俺。さすが高校生の肉体だ)
そして、絵梨花一人にメロメロになると思いきや、確かに絵梨花への思いが一番強いが、他の四人に対しても愛おしさを感じる精神状態になってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます