第28話 エルフの首都

 聖女に話したところ、すぐに俺とルミエールを連れて、エルフの国の首都エルグランドに転移してくれた。


 エルグランドには人間やドワーフもいる。というか、労働力としての人間やドワーフの方がはるかに多い。俺たちがいても違和感はないはずだが、念のため、ルミエールにエルフに化けてもらい、俺と聖女が付き従う形で行動した。


 転移した先は官庁街だ。広大な敷地に白い建物が点在しているが、人通りはまばらだ。


「お兄ちゃん、ここで死神さんを呼んでみてはどうでしょうか」


 俺は試してみたが、反応はなかった。


「反応ないな」


「エネルギー庁の父のところまで行くしかないですね」


「エネルギー庁には魔石の原石を届けに行くと報告してあるの。魔石を持って来ましたと言えば、担当者の方に通してくれると思うわ」


「早速行こう」


 エネルギー庁の位置をところどころに掲示されている地図で確認しながら歩いて行くと、割とすぐの場所にあった。


「この建物よ」


 ビルをイメージしていたのだが、病院のような低層の横に長い建物だ。玄関扉から俺と聖女で入って行った。ルミエールはお父さんと会うのはまずいらしく、外で待ってもらうことにした。


 受付は人間の女性のように見えた。


「どのようなご用件でしょうか」


 受付嬢はどこの世界でも綺麗どころをアサインするのだろうか。透明感のある美しい女性だった。


「聖女のアナスタシアです。魔石をお持ちしました。お取次をお願いします」


「しばらくお待ちください」


 受付の女性が額の辺りを二本の指で押さえている。おっさんはこんなとき、指がきれいに手入れされているかどうかまでチェックする。


(あれは「フォン」の魔法よ。魔法で話をしているのよ)


 俺が女の指をじっと見ているのを勘違いしたようだ。聖女がそっと教えてくれた。


「担当のエルフ様がいらっしゃるそうです」


 しばらく待っていると、エルフの青年が現れた。めちゃくちゃイケメンだが、耳の先端が尖っている。


「こちらにどうぞ」


(こいつ、ルミの父親だ。目元と口元がルミのエルフ顔の雰囲気によく似ている)


 俺たちは会議室の一室に通された。テーブルについて、エルフの青年がすぐに話をして来た。


「よお、まさか訪ねて来るとはな。ルミちゃんはどうした?」


 聖女は驚いているが、俺は薄々そんな感じがしていた。


「やはり、お前だったか。ルミは外で待たせている。お前、ルミの親父さんの個体を完全に制御しているのか?」


「俺にも理由がよく分からんが、制御というより融合みたいなんだ。ちょっと待ってくれるか。受付に言ってルミちゃんを連れて来てもらう」


 エルフの俺が眉間に指をあてている。伝え終わったらしく、視線を聖女に向けた。


「そちらは聖女さんか?」


「はい、アナスタシアです。ユウトとルミさんにはいつも助けてもらっています」


「ははは、俺も勇人だがな。ルミちゃんが来たら、資料室に行こう。召喚のことが詳しく書いてある」


「そうか。少し聞きたいのだが、その融合は解除できるのか? 三分チャージのために朝から何度も呼び出しているのだが、一向に応答がない状態なのだ」


「解除できると思うが、このエルフの本体が騒ぎ出すぞ。エネルギー庁にいるエルフは事務次官であるこのエルフだけだ。職員は全て人間かドワーフで、長官はエルフだが、登庁していない」


「なるほど。では、俺たちがいなくなってから解除だな」


「あ、ルミちゃんだっ。ルミちゃああん」


 聖女が死神の俺の豹変ぶりにドン引きしている。すぐにまた俺に囁いて来た。


(ユウト、ルミさんが会いたくないって言っていたのは、娘を溺愛しているからかしら? このエルフ様はユウトの分身が制御しているのではないの?)


(死神の俺がルミにメロメロになってしまったんだ)


(まさかあなたたちっ)


(俺ではないのだがまあ、そういうことだ)


 ルミエールは最初、自分の親父の態度に戸惑っていたが、死神の俺だと分かったようだ。ただ、父親の姿のため、非常に接しづらくしている。触られるのも嫌なようで、死神の俺がガックリとうなだれている。


(娘に嫌われた父親のようなだな)


「資料室に行くぞ……」


 死神の俺はガッカリしながらも、資料室に皆を案内した。途中でルミエールが死神の俺にそっと腕を組んだ。死神の俺の喜びようったら、見ていられないほどだった。


(あなたの分身、本当にメロメロじゃない。ルミさん、油断ならないわね。もう半分のあなたまで取られないように、私もうかうかしていられないわ)


(もう騎士になっているから大丈夫ではないのか?)


(形だけの騎士では意味がないわ)


 聖女が神妙な顔をしているが、何を考えているのだろうか。そうこうしているうちに資料室に着いた。


「これが呪縛の解除方法だ」


 エルフの俺が棚から本を取って、机の上に広げた。


 その本には呪縛の解除方法が事細かく記載されていた。


「なあ、こんな簡単に解決しちゃっていいのか」


 その方法とは、地上の人間と性交すれば呪縛は解ける、という単純なものだった。


(まずは絵梨花の呪縛を解除するか)


 そう決意を固めていたとき、聖女が俺に囁いた。


(今晩、私の部屋に来てね)

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