第27話 トラブル
夜、死神の俺が憑依して来た。
「ルミちゃん、会いたかったよぉ。エルフ指名しますっ」
(おい、お前、メロメロじゃないかっ)
(ルミちゃん、マジ天使。時間が惜しいから、お前と話している暇はねえ)
俺の意識はそこで途絶えた。
三分後、エルフ顔のルミエールがベッドに腰掛けていた。
(死神の俺、完全に骨抜きにされてるが、大丈夫だろうか……)
「昨日より長くて良かったですが、三分って短かすぎです。何とかなりませんか」
ルミエールが妙に艶かしい。
「良かったかどうかの感想は不要だが、ちなみに、明日はハーフ顔に戻すのだろう?」
「よく分かりますね。ドワーフのロリ顔は好みではないみたいです」
「俺たちは美人顔が好きだからな。だが、胸も尻もエルフボディでは弾力が物足りない。エルフ顔でボディがドワーフが最高なんだが」
「全く同じこと言ってました」
「まあ、同一人物だからな。しかし、よく考えたら、ルミとは三種類楽しめるんだな。一粒で三度美味しいって、言ってなかったか?」
「言ってないです。オヤジ度は完全にお兄ちゃんの方が上ですっ」
「そんなはずはない。いや、待てよ。そうか、あいつはオヤジなところを隠そうとする羞恥心があるからだ。俺にはないからな」
「少しはあって下さいっ」
「くだらない話は終わりにしよう。ちょっと待ってろ。あいつの記憶を同期させる」
俺は直近の三分間を除いて、記憶を同期させた。
「素晴らしい。大成功だ。大性交かな」
俺はルミエールにこっちの字だと手のひらに書いて教えた。
「お兄ちゃん、オヤジ全開です……」
「おかしいな。上手いこと言う、と褒められるかと思ったのだが」
「……私もカナさんの憑依が上手く行ったことは死神さんから聞きました。ですので、今回は予定通り、父に憑依してもらいましたよ」
「うむ。計画通りだな。ただ、一つ腑に落ちないことがある」
「何ですか?」
「不思議なことに、カナは一度もトイレに行かなかった。死神のアホの俺は、今か今かとトイレに行く瞬間を待ち構えていたのだがな。我ながらど変態で困るが、それは置いておいて、カナは尿管結石か何かか?」
それとも、人形のように美しい少女は、この異世界では排泄行為とは無縁でいられるのだろうか。
「恐らく『完全代謝』しているのではないでしょうか」
「老廃物まで完全にエネルギーに変換しているという意味か?」
「そうです。呼吸法の達人ですね。そういう人は、ほとんど食べなくても大丈夫で、体臭が全くしないです。ちなみに、わ、私もトイレ不要です」
「お前、嘘つくときにどもる癖直せよ」
「う、嘘じゃないです」
まず、カナについて少し分かった。カナの金髪碧眼はレベルアップによるもので、実は日本人だった。江戸後期の寺子屋の集団転移の唯一人の生き残りで、歴代の転移者たちから妹のように可愛がられている。
「カナは睡眠が不要で、夜は他の時代の転移者と協力して、ダンジョンで魔石回収をしている。早く歳を取って大人になるのがカナの夢だ。いつまでも中学生の体では嫌みたいなんだ」
「あの子何歳なんですか?」
「歳は二百歳以上だが体の成長は十五歳で止まっている。その割に異常に胸が大きいが、あれは美容ポイントを『豊乳』に極振りしているからだ。カナはほとんど毎日のように美容のことを考えている」
「美容ポイントってなんですか?」
「カナのロールは『美容整形医』だ。魔石からごく少量の美容ポイントを抽出して、美肌、美白、豊乳、小顔などに割り振ることが出来るらしい。カナがナビゲーターをしているのは、魔石から美容ポイントを抽出するためだ」
「すごいですね。自分以外にも割り振り出来るのですか?」
「出来る。ヒミカを含めた他の転移者から可愛がられているのは、カナのこの特殊技能ゆえだ」
「他の転移者の方々ってどんな感じですか?」
「昨夜は、センメという忍者っぽいのと、ターシャという聖女、リヨンという尼僧と四人でダンジョンに潜っていたが、全員惚れ惚れする美女で、ものすごく強かったぞ。死神の俺がびびって背筋が凍るような猛獣を次々に葬っていた」
「是非とも、エルフとの一戦にご協力頂きたいです」
「俺のこともカナが彼女たちに話して、地上に興味を持ち始めたらしい」
「男性の転移者はいないのですか?」
「何人かいるようだが、昨日は会わなかった」
「そうですか。ところで、死神さんは、父の居場所はどうやって探し当てるのでしょうか?」
「どうなっているのか分からない。転移者以外は初めてだから、上手く行くかどうかも分からない。今までは瞬間的に移動していた。昨日のカナもそうだった。明日の朝、確認しよう」
「一日に何回も呼べるのですか?」
「半日以上経過していないと呼べない。一日に二回までだな」
「今度から、一日二回でお願いしますっ。六分出来ます」
「お盛ん過ぎやしないか。普通はそんなにしないぞ」
「回数ではなくて、時間で考えて下さい。一日三分でお盛んっておかしいですっ」
「ふむ、確かにそうだな。それに、上手く行っているかどうか、マメに確認した方がいいな。一日二回呼ぶようにしよう。では、寝るぞ」
「はい、おやすみなさい」
美人になつかれるのは初めてだが、この俺でも、ぐらりと来そうなぐらい魅力的なのだから、死神の俺がイチコロになるのはよく分かる。三分しか会えないという制限が、逆に燃える要素にもなっているのかもな。
***
翌朝、ルミエールの部屋に行くと、学校の制服に似た服を着ていた。
「ルミ、その格好はどうした?」
「死神さんがこの衣装を着て欲しいって言うのです。この前、実は絵梨花さんがとても可愛かったので、同じのが欲しいってお願いして、頂いて来たのです」
誰の制服だ? それはさておき、何という破壊力だ。まずい、誘惑に負けそうだ。
「俺の意識がないところでやってくれないか。大人の女が制服を着ると、ものすごくエッチなのだ」
「あら、お兄ちゃんにも効果あるのね。どうかしら」
ルミエールがスカートをぱたぱたさせて、パンチラ攻撃をして来た。
「非常にまずい。オヤジ魂に理性が負けそうだ。死神の俺に交代する」
あんな反則技を使われては、さすがの俺も一線を超えてしまう。俺はすぐに死神の俺を呼んだのだが、応答なしだった。
「応答がない……」
ルミエールが抱きついて来た。
「こら、待て。まだ死神ではない。何かあったようだ。呼びかけに反応しない。一日以上一緒になれないと、俺もあいつも弱って行って、最後は消滅してしまう」
ルミエールが事態の重大さに気づいた。
「ということは、半日しかないってことですか。エルフ国に行くしかないです。アナさんにお願いして、転移魔法で連れて行ってもらわないと間に合わないです。すぐに報告に行きましょう」
俺たちは聖女のいる本邸に向かった。
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