第26話 悩殺技

 今更ながら気づいたのだが、俺はロールを二つ持っているが、「殺人鬼」は俺で、「死神の使者」が憑依体なのだろう。


 今夜は、俺の部屋で、「死神の使者」の俺を呼ぶことにした。恒例の三分間チャージだ。


 実はルミエールも部屋にいる。少し実験をしたいのだ。ルミエールも合意済だ。そうなのだ。これは合意の上での行為だ。


「今日は夜の呼び出しか。お、誰、このセクシー美人は?」


 死神の使者の俺が憑依した。


「ルミエールだ。お前としてもいいそうだ」


「何っ!? してもいいって……、聞き違いか?」


「お前も絵梨花にフラれて気の毒だ。それにいつも周りは子供ばかりだろう。ヒミカは大人だが、怖すぎるしな。どうだ。するか?」


「よ、よろしくお願いします……」


 ルミエールが恥ずかしそうに俯いた。


「するっ。やっぱり大人の女だな!」


 次の瞬間、俺の意識は奪われた。この三分間の記憶は同期対象から外しておこう。


***


 死神の使者は帰って行ったようだ。


「あれ? ここは?」


 気づいたら、ルミエールのベッドの上で、俺は素っ裸で、随分とスッキリとした爽快感を全身に感じていた。


(やったな、これは)


「ふう。たった二分で三回もやられちゃいました。お兄ちゃんもついでにやっときますか?」


 ルミエールはシーツで体を隠しているが、どうやら何も身につけていないようだ。


「やらない。ということは死神の俺とはやったんだな」


「はい、三回ともあっという間で物足りなかったです。いくら何でも早すぎやしませんか。賢者タイムが多くて、さすがにもう少し長くして欲しかったです」


 そんな感想は不要だ。


「それで、テイムを死神から奪えたのか?」


「出来たと思います。カナさんに憑依するようにお願いしました」


 ヒミカで失敗するとゲームオーバーになりそうな気がしたため、まずはカナで試してみることにした。ただし、彼女の私生活まで全て見えてしまうため、バレたら殺される。


(俺は乳を揉んだだけで、ワンパンで殺されたからな)


「これが成功すれば、死神の支配から逃れたということになるな」


「ですね。結果が楽しみです」


「そういえば、イブから性行為禁止と言われていた。恐らくあれは本邸だけと考えていいだろうが、今日のことは話すなよ」


「だ、誰がエッチしましたって、話すんですかっ」


「さて、俺はもう寝るぞ」


「お兄ちゃん、私と会話する気あります? 自分の言いたいことだけ喋ってませんか?」


 俺はルミエールの部屋を出た。一カ月近く溜まっていたので、爽快感が半端ない。


「あー、スッキリしたぁ」


 こういうとき、いつまでも口に出して、スッキリしたって言ってしまうのは何故だろうか。


(ルミエールには相応の恩返しが必要だな)


 俺は毎日三分ずつ死神の俺の人格と記憶の同期をしているが、その際に、感情が震わされる感覚を味わうときがある。


 以前に一度、死神の俺と話しているときにイラつく感覚があり、それ以降、少しだけだが、普段もイライラするようになった。


 今日は感謝の気持ちの波が襲って来るような感じがした。死神の俺はルミエールに非常に感謝していたようなのだ。そして、今、俺にもルミエールに対して感謝の気持ちが芽生え始めている。普段の俺なら、恩返しなど考えない。


(多分、ルミエールに恋するな、死神の俺は。あるいは、すでに恋しているかもしれない)


 死神の俺が恋をしたら、殺人鬼の俺にも影響が出るような気がする。


***


 翌朝、ステータスを見てみた。


 氏名 桐木勇人

 水準レベル 25

 役割ロール 殺人鬼、死神の使い

 技能スキル 殺人技、臨終憑依、一念通天、

    剣術、ボクシング、槍術

 魔法スペル キル、パージ、ダブル

 称号タイトル 絵梨花の騎士

    アナスタシアの騎士

    ルミエールの義兄


 ルミエールが義妹になっていた。ルミエールを守ろうとする意思をはっきりと感じるのは、これが理由なのだろう。


 俺は着替えを済ませて、ルミエールの部屋をノックした。


「おはよう。お兄ちゃん、どうしたんですか?」


「朝ご飯を一緒にどうだ?」


「え? はい、もちろん行きます。ちょっと待ってて下さい」


 別邸には一階に食堂があり、バイキング形式で朝食を取ることができる。


「昨日は私が誘っても来なかったのに、今日はお兄ちゃんからのお誘いで驚きました」


「ルミ、組織の仕事で困っていることがあれば言ってくれ。出来ることなら、なんでも手伝うぞ」


「どうしたんですか、急に。昨晩のことでしたら、本当に気にしなくていいですよ。私はお兄ちゃんの半分で大満足ですから。死神さんは間違いなく『キリキユウト』でした。もう私のものです。絶対に離さないですよ」


「そうか」


「ふふふ、何だか変ですね、お兄ちゃん。ひょっとして、お兄ちゃんにも影響出てますか? 私のスキルは、どんな相手でも支配出来る究極のテイム技ですから」


「俺自身は支配まではされていないようだが、確かに影響はあるようだ。なんというスキルなんだ?」


「男にしか効かないのですが、『悩殺技』というスキルです」


(絵梨花と同じスキルだ。ルミは恐らく絵梨花と同じロールだ)


「恐ろしいスキルだな。朝食を済ませたら、早速、死神の俺を呼んでみるか?」


「よ、夜にして下さい……」


「また、するのか? 一回でいいんじゃないのか?」


「もう、またとか言わないで下さい。しばらく毎日お願いしたいです。今日はエルフ顔でとリクエストされているんです」


「たった三分の間に色々話しているんだな」


「ええ、彼と会うのが待ち遠しいです」


「俺は前の世界ではそんなにモテなかったが、いったいどうなってるんだ?」


「まだ自覚ないのですか。お兄ちゃんは史上最強の人間ですよ。誰もが憧れる強者です。アナさんなんて、すぐに国王に許可をもらって、お兄ちゃんを騎士にしたじゃないですか。あれは自分のもの宣言なのですよ」


「そうなのか」


「ええ、だから私は、正式に聖女の騎士になる前に、アナさんを殺して、お兄ちゃんを奪おうとしたのです」


 こいつ、やっぱり殺す気だったか。


「今は?」


「殺さないですよ。お兄ちゃんに嫌われますし、アナさんのことも好きですしね。それにもうその必要はないです。どうやら、お兄ちゃんのタイトルに私の名が刻まれたんですよね?」


「そうだ。『ルミエールの義兄』というタイトルが今朝増えた」


「安心しました。今、お兄ちゃんを絵梨花ちゃん、アナさん、私の三人でシェアしている状況ですが、人格の半分は私が手に入れました。これ以上は欲張りませんが、手に入れたものは誰にも渡しませんから」


 やはり女は怖い。

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