ケイスロットなんていうの?最後に言い残した名前を教えて

 地上に落ちたドラゴンは、俺たちを探し始める。ドラゴンからするとアリを森の中から三匹みつけるようなものだ。

「よくも我の翼を、人間め、どこにいる?」

 漆黒の竜は鱗で覆われた。長い尻尾を旋回させて俺たちを見つけようとしている。

 爆風とともに、砂ぼこりが舞う。目に染みるのを片手で防ぐ。気づくと辺りにはなぎ倒された木々が散らばっている。身を隠す場所がなくなって俺たちのいるところがドラゴン側からはっきりとわかる。砂ぼこりがはれていくと、ドラゴンの大きさに驚く。漆黒の鱗で覆われているボディ。森を薙ぎ払うほどの強靭な尻尾。ティラノサウルスのような手や爪はちょっとでも触れただけで貫かせるようだ。こちらに視線を向ける瞳は、漆黒にふさわしいというべきか。黒光りして黄色い縦線に俺たちが反射して見えている。魔剣を構えるより早くドラゴンが動き出す。巨大な身体に似合わず俊敏な動きをしてこちらの攻撃を警戒しているようだ。空気が熱いのを感じていると、ドラゴンはブレスを放つ準備をしている。

 ドラゴンの体内から形成される火炎魔法。ドラゴンブレス。放たれるブレスは、街を焼き払い、王国を一撃で破壊できるほどの威力があるようだ。こっちは生身の人間。耐えられる保証はない。しかしこちらには、魔剣の炎がある。負けるわけがない。

「ドラゴン退治か。悪くないチュートリアルだ!!」

 俺は魔剣を二つ構える。右手にクラリエ、左手にクワイエ。先ほど考えていた。イケている勇者ポーズをしてドラゴンに立ち向かおうとしている。

「愚かなものよ、最後に名を聞こう」

「おれは、やえはやと、ドラゴンを倒してこの異世界を魔剣で支配するもの!!」

 こざかしい!!口に溜めていたブレスを放つ。

 熱さに服が耐えられなくなっていく。俺の体はオート回復がついているから火傷したとしてもすぐに回復できる。魔剣の二人は、ふん、この程度か!みたいな感じで余裕があるようだ。

「はやと、跳ね返していい?」

「こちらもよろしいでしょうか?」

「ああ、いいぜ。最後にドラゴン。お前の名前は?」

「我の名は、この世界の守護する古龍種の1体。アズカバリー・ケイスロット……」

 ドラゴンの名前を聞くことなく自身のブレスを魔剣で吸収後、倍にして放出した。

「最後、なんていうの、ねえ、敵の名のりくらいの時間やれよ。もやもやするじゃんか!ケイスロットなに?なんていうのー」

 ドラゴン退治は完了した。俺の求めている異世界主人公とは違う勝ち方である。


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