第28話 義姉の話

 私の名前は、笹田 結花。

 これは、まだ私が北本 結花になる前の話。


 私が小さい頃 ― 幼稚園の頃だろうか ― は、父と母は仲が良かったと思う。


 それは幼い頃の記憶。


 私が幼稚園に入園した頃、妹の美緒が生まれた。

 休みの日には、抱っこ紐で小さな美緒を抱っこした母と父とよく出掛けたものだ。

 遊園地、動物園、水族館、子供の楽しめるテーマパークにも行った。

 両方の手で父と母と手を繋ぎ、色んな動物を見て回ったり、沢山のお魚を見るのが好きだった。

 中でもレジャーシートに皆で座りお弁当を食べる時間が一番好きだった。


 美緒が入園する頃、母は仕事に復帰した。

 母は、主に海の生物に関する研究をしている所謂、海洋学者である。

 私が生まれ、美緒が生まれ、美緒の手が余り掛からなくなった頃というのは、本人の弁で実際は悪魔の三歳児と呼ばれるイヤイヤ期全盛期だった。

 その頃の私は、小学一年生で新しく出来た友達と遊びたかったが、学校から帰ってくると美緒が私にくっ付いて離れないので一人で遊びに行く事を諦め美緒と一緒に遊んでいた。

 美緒は、父や母に対しては我儘を言ったり、急に不機嫌になったりしたが、姉の私には特にそういった事は無く、お姉ちゃんお姉ちゃんと何処に行くにもニコニコとついてきた。

 友達と遊ぶのを諦めたと言っても、美緒を連れて公園へ行けば誰かしら友達がいるので、美緒も一緒に遊ぶ事が多かった。友達の大半が妹か弟がいる子だったので、小さな美緒とも仲良く遊んでくれたのだった。

 また、美緒は父母のいう事は聞いてくれないが、私のいう事は素直に聞いてくれるので、私の友達からも評判は良かった。美緒ちゃんが私の妹だったらなーと不平不満を漏らす子も割と居たぐらいだ。


 本格的に母が仕事に復帰すると、段々と帰る時間が遅くなっていった。

 父も仕事(当時は仕事だと思っていた)が忙しく、いつも帰ってくるのは終電ギリギリとかそんな感じだったと思う。

 両親共に帰りが遅くなるのは良くないと早い段階で、母方の祖母の家に預けられる事になった。

 初めの頃は、祖母が私の家に来ていたのだけれど、母の帰りが遅くなると祖母も帰りが遅くなる。祖母の帰りが遅くなるのを心配した祖父が、通いではなく預かったらどうだと提案したそうだ。

 祖母の家は、同じ町内だったので転校する必要も無かったし、近所という事で割と頻繁に顔を出してくれていたので、私も美緒も祖母・祖父に懐いていた。

 また、祖母の家には母の妹も居て、家に誰かしら居る状態だったのも母としては承諾する決め手になったようだ。

 因みに、母の妹は大学生。私たちはお正月とかみんなで集まる時にしか会う事のないお姉さんという認識だった。


 生活の場が祖父母の家に移り、私と美緒は今までと然程変わらない生活を送っていた。寂しい時は、祖母かお姉さんが一緒の布団で寝てくれたし、お姉さんも一緒に住んでみて分かったけど、穏やかでとても優しい人だった。若くて美人でお母さんとは大違い!


 その頃から、父は祖父母の家に段々と来なくなり、家に戻らない日も増えたらしい。

 母は相変わらず飛び回っているようで、日本国内は疎か国外にまで出向くようになり、短い時で数日、長い時で数週間帰ってこなかった。


 そして、父が浮気をしているという事実が発覚する。


 父は、美緒が生まれる前どころか私が生まれる前から浮気をしていたようだ。

 私が幼心に、仕事が大変なんだなと思っていた時ですら、仕事ではなく浮気相手と会っていたらしい。

 その後、詳しい事はわからないが母と父は離婚した。

 私が四年生に上がる前の事だった。

 私も美緒も母から、父と別れたという話を聞いても寂しくも悲しくも無かった。

 もう会えないんだよってって言われても涙も出なかった。

 休みの度にお出掛けしていた頃ならいざ知らず、同じ家に住んでいても一週間顔を合わせない事が多々あるくらい私たちの関係は希薄なものだったのだから。


 母と父が離婚したからと言って何かが変わったわけではない。

 父は入り婿だった為、離婚しても苗字は変わらなかった。

 祖母、祖父、お姉さん(叔母さん)と暮らす日々は楽しかったし、偶に帰ってくる母のお土産とお話はとても楽しくて、母が帰ってくる日が待ち遠しかった。


 そんな楽しい日々も終わりを迎える事となる。

 私が中学一年生の時の事だった。


 大事な話があると私と美緒は、母から告げられた。

 それは、母が再婚を前提にお付き合いしている人との再婚の話だった。

 母が言うには、相手の男性は同じ職場の同僚で、以前から知り合いではあったが、母が仕事に復帰してからは同じプロジェクトに参加していて仲を深めていったそうだ。


 相手の男性には小学六年生の息子が一人居て、その息子が小さい頃にお母さんが病気で亡くなったんだって。


 私と美緒は、母の言うとおりに一度、会ってみる事にした。

 だって、母には幸せになってもらいたいから、反対する気はないもの。

 でも父みたいな人だったら絶対反対だけれどね。


 そして、相手の男性(北本要さん)との息子(悟君)に会う日がやってきた。


 北本さんは、挨拶もそこそこに私たちに頭を下げて母を絶対に幸せにすると言ってくれたし、私たちにも幸せになって欲しい、その為に努力は厭わないとも言ってくれた。

 また、悟君には小さい頃から寂しい思いをさせてしまったから、私たちには出来る限り家族として賑やかな生活を送ってもらいたいとお願いされた。

 それと、この日が初めて悟君に会った日になるのだけれど…その話はまた後でね。


 その後、北本さん親子と交流を重ね、私たちは母の背中を押すことにした。

 

 こうして、要さんは義父となり、悟君は義弟(美緒ちゃん的には義兄だね)になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る