第20話 男子校生と観覧車

 俺は今、観覧車を目の前にしている。

 数日前―クリスマスに、石田先輩とその彼女の井上さんに強制連行された公園の対岸にある商業施設だ。

 なんで、こんなところにいるかと言うと…先輩に呼び出されたんだよ。

 今日は、石田先輩とは違う先輩で小澤先輩。


 事の始まりは数時間ほど前――


 今朝、両親が泊りでじいちゃんの家に行くと出かけので、俺は一人、家でのんびりしていた。

 毎日1話ずつ見ていたウォーキングするデッドなドラマも残すところファイナルシーズンあと十数話となったので、昼飯を食いつつイッキ見しようかと、買ってきた某牛丼屋の特盛牛丼と某ファストフード店のフライポテトLサイズ、そしてコーラ1.5Lのペットボトルをテーブルに広げ、見始めた矢先


 スマホから何とも言えない微妙な着信音が流れ出す…誰だよ勝手に着信音変えたやつはよ……


「いまドラマ見て忙しんで来年に掛けてきてください」


「丁度いいや、夕方からレインボータウンに来いよ。ちょっと人足りなくてよ」


「いやいや、ドラマ見るのに忙しいんすよ。未成年は飲酒禁止なんで断ります」


「酒飲みに来いって言ってるわけじゃねえ。女も居るから来いよ」


「どうせ山口さんでしょ。知ってますよ。この前も石田先輩と井上さんに強制連行されたんで間に合ってます」


「なんだよ、石田に付き合えて、俺らには付き合えねえっていうのか?あ?」


「いやー家出るのも面倒くさい「あーもしもし、直樹君? 英人に代わってもらったんだけどさ。私の友達もいるんだけど、一人で寂しがってるんだよね。だからお願い。6時にレインボータウンに来てね。観覧車のとこ。サービスするよ」ですけど」


「ってことでお前ぜってえ来いよ、逃げんなよ」


 あ、切られた。

 なんでこう先輩達の彼女って人の話聞かねえの?

 人の話聞かない系彼女とか流行ってんの?

 俺も先輩の誘い断る系後輩とか目指していい?

 とはいえ、行かないと面倒くさいからな…先輩達。

 仕方ない飯喰ったら行くか。


 ――――――――――――


 というわけで、観覧車前。

 もうすっかり辺りは暗くなっている。

 カップルばかりじゃねえか、ちくしょう。

 こいつら皆ウォーキングするデッドになればいいのに… 

 あ、集合場所聞いてねえぞ、探すの面倒くせえな。


「おーい、なーおーきーくーん」


 あ、先輩の彼女の山口さんが手振ってる。見つかった…チッ。


「お疲れ様です」


「待ってたんだよー、ねー」


「んじゃ、お疲れ様でした!」


 がしっと肩を掴まれる…痛え


「直ぐ帰っちゃダーメ」


 クスクス笑いながら肩掴むのやめて欲しいんですけど。

 顔は笑ってるのに目が笑ってないの怖え…って山口さんってゴリラなの?


「綺夏が独りで淋しいって言うからさ、直樹君が一緒に居てあげて。ね?」


 肩ミシミシ言ってるんだけど、俺の肩大丈夫?


「こんばんは。初めまして、浅井 直樹君。今日はお姉さんと一緒に遊ぼうね」


 なんで話進んでんの?オートモードなの?スキップしたら終わったりしない?

 そういえば名前フルネームで名乗ったっけ?なんで苗字知ってんだろ…


「そういうわけで、最後までよろしくね。直樹君」


 へ、最後ってなんだ?人生の最後?死ぬの俺、今日死んじゃうの?

 山口さんは先輩と腕組んで、手のひらヒラヒラさせて人込みに紛れて行く。

 死にたくねえよ!


「ちょ「さあ、直樹君、私たちも行こっ」」


 なんか腕組むっつーより肘関節極められて動けないんだけど。


「ね、どこ行きたい?」


「とりあえず名前とか教えてもらってもいいすか?」


「ああ、そっか。そだね、私は久保 綺夏。芳子ちゃんの同僚なんだよ」


 ああ、先輩の彼女って年上で社会人なんだっけ。

 

「久保さんっすね、今日はお世話になります」


「名前で呼んでね」


「いや、でもよく知らないし、年上っすから、名前呼びはちょっと」


「名前で呼んでよ。ダメなの?嫌?」


 んんん?言い方があいつにそっくりだな…


「じゃあ、綺夏さん。山口さんと同僚って事は、山口さんと年齢近いんすか?」


「うふふ、芳子ちゃんより年下だよって言ったどうする?」


 見えねえよ。同い年にも見えねえから聞いてんだよ。


「実はもうちょっと上なんだ。直樹君は年上のお姉さん好き?」


「いい「そっかそっか、じゃあ今夜はお姉さんといろいろ遊ぼうね」い?」


 なんで食い気味なんだよ、最後まで言わせろよ。いいえだよ。お断りだよ。

 人の話最後まで聞けよ、おばさん!


「私、若い子って初めてなんだ」


 突然何言い出してんのこいつ。


「私ね、中高大とずっと女子ばかりでね。年齢の近い男の子と知り合う機会が無かったんだ。就職したらしたで、知り合うのは年上とかいいとこ同い年?だからさ、――君みたいな若い子とデートするの嬉しくて」


「先輩の友達とか紹介してもらえば良かったじゃないすか」


「直樹君みたいな高校生の男の子とデートするの嬉しくて」


 言い直してんじゃねえよ。あとデートじゃねえ。


「ね、とりあえずご飯食べに行こっか」


「イタ、イタいって」


 なんでこの人、腕組…関節極めたまま飯食いに行こうとしてんだよ。


「ええーここに一緒に居たいの?ここにずっと居ても良いけど、先ずはご飯食べに行こっ。ねっ」


 違えよ、痛えんだよ、痛い…くそっ、更に極めやがる…俺の右手大丈夫かな

 ちょっと引っ張るなよ、腕痛えよ。


 ――――――――――――


「なんでも好きなもの頼んでいいよ、お姉さんがご馳走してあげるね」


 全然ファミリーじゃないレストランに連れてこられた。

 メニューが全くわからねえ。

 なんだよ、アンチパスタって反パスタかよ。パスタに虐げられてるの?反抗期?

 意味わかんねえよ。あとこれ何語?


「何頼んだら良いかわからないんすけど」


「こういうお店初めて?」


「初めてっす」


「直樹君の初めてもらっちゃったね」


 その親父ギャクなんなの。


 結局、本日のおすすめコースなるものを頼んだ。


 料理が来るまでの間、気になっていた事を聞く事にした。


「なんで俺が呼ばれたんですかね?」


「芳子ちゃんの彼氏君と何度かお店に来た事があったでしょ?私のこと覚えてる?忘れちゃった?その時から直樹君が気になっちゃってさ。だから芳子ちゃんにお願いして、君を呼んだってわけ」


 先輩の彼女は衣料量販店?の店員として働いてて、何度か先輩に連れられてお店に行った事があるけど、綺夏さんは記憶に無いんだよな。ま、おばさんには興味無えから覚えてねえ。


「確かに何度か行った事はありますけど、会ったことありましたっけ?」


「直接会った事は無いかな」


 会ったことねえのかよ!おばさんとか関係なく覚えてるわけねえだろ…


「じゃあなんで俺の苗字知ってたんすか?」


「えーそんなの当然だよ」


「当然?いやいや、何言ってんすか。話したのって今日が初めてっすよね」


「そうだよ、今日が初めてだね。ずっと話したいと思っていたんだー」


 話が嚙み合わねえ…もしかしてヤバいやつなのか


 ――――――――――――


 やっと料理が来た。来たけどさ。正直、どう食っていいのかわかんねえ。

 なんでフォークとナイフとスプーンが左右に並んでんだよ。どれか1本選べば良いのか?…お箸くれよ。

 考えても全然わからなかったので綺夏さんの食ってるのを見様見真似で何とか完食したぜ。

 しかし、なんで皿に対して料理の量が少ねえんだろうな。お洒落なの?もっと盛ってくれよ。大盛りでお願いします。

 パン食い放題なのは良かった…味?美味かったよ。


 綺夏さんが会計しているのを覗いたら、値段は信じらんねえくらい高かったけど、綺夏さんがガンガン飲んでたワインのせいだろうな。

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