第19話 男子校生とクリスマス
朝、駅に向かう途中、大通りで信号待ちをしていると
「昨日はお愉しみでしたね」
背後から香澄に声をかけられる。
「余計な出費だったけど、ケーキは美味しかったぞ」
「それは良かった。来年もよろしくね」
「気が早すぎんだろ。つか、来年もバイトすんのかよ」
「来年もというかずっとやってるよ。知らないとか酷くない?」
「ぜんぜん酷くねえよ」
「あそこのお店、二階で食べられるんだよ。デートの時に使ってね!」
「クリスマスプレゼントに彼女欲しい、彼女欲しいので誰か紹介してください!」
「あ、信号変わった。今日も学校?頑張ってね」
ちっスルーかよ。なんで口尖らせてんだよ、香澄、女子校通ってんじゃん。友達超可愛いし、学校で聞いてくれても良いじゃん。良い時期じゃん。クリスマスだし。出会いを供給してくれよ。需要しかねえじゃねえか。
って、あいつ、私服だったな、試験休みか?試験休みから冬休みに突入するとか優遇されすぎだろが三期制。
うちの学校、二期制だからまだ冬休みにならないんだよな…羨ましい。
どうでもいいけど今日はクソ寒い。
――――――――――――
ん、まだ22時か…なんで22時なのにこんなに眠いんだ。
アレか寒いから冬眠したくなったのか。
風呂入って春まで寝るか。
あ、電話だ。誰だよ思ったら先輩か、放置でいいや。
え…まだ鳴ってんの。これ出ないとダメなやつなのか。面倒くせえ。
「ただいま、電話に出ることができません。このままお待ちになるか、電話をお切りになり二度とかけてこないでください」
「もしもーし、直樹くん。私だよ。やっほー」
なんで先輩の電話から井上さんが電話かけてくるんだよ。
嫌な予感しかしねえ……
「聞いてる?」
「ちょっと風邪ぎ「今、充夫と車で近くまで来てるんだけどさ。直樹くん、暇だよね。迎えに行くから待っててね」です」
電話切りやがった。
なんだよ、車って。どこに拉致られるんだよ。眠いんだよ、冬眠したいんだよ俺は。
井上さんって話を聞いてくれないんだよな、なんでかしらんけど。俺に拒否権無いっぽいし…理不尽過ぎでしょ、理不尽暴力系彼女なんでどこに需要あんだよ。
先輩早く別れてくれよ…何で今回に限って長続きしてんだよ。俺、嫌がらせとかしてないんだけど。早く別れますようにって初詣でお願いしようと思う。
………
先輩の彼女、井上さんと会ったのは、ひと月位前の事だった。
借りたCDを返しに先輩の家へ行ったら居やがった。
初めましての挨拶とか他愛もない会話をしていたと思ったら、三人でファミレスで飯喰ってました。いつの間にか。
先輩は止めてくれなかった。が、奢りだったし家まで送ってくれたので許した。
後で先輩に理由を聞いたら、お前気に入られたぞ…力になれなくてすまん、とだけ言われた。
すまんってなんだよ。理由教えてくれよ先輩、理由。本気で怖えよ。
………
全く意味の無い回想が終わった頃、先輩の車の排気音が近づいてきた。
メッセージが届く、あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの
メリーさんじゃねえよ!
着ちゃったもんはしょうがない、早く行って早く帰って…これんのかな。
「やっほー」
後部座席の窓が開き、手を振ってくる井上さんは…とても元気いっぱいだ。
何で後部座席を占有してんだよ、彼女なんだから助手席座れよと思いながら、助手席のドアを開けると、そこには先輩が非常に申し訳そうな顔をしていた…止められなかったんだな。止める気あるのか知らんけど。
「お疲れっす…ところで、先輩、昨日はお愉しみでしたね」
思いっきり頬をぶん殴られる。酷ぇ。
「ちょ、後輩のお茶目な挨拶じゃないですか。そこは笑って済ませるとこでしょ」
井上さんは頬赤らめないで、リアル過ぎて笑えないから。
という俺も頬を赤らめる。頬が痛えよ。口ん中切れてない?熱いお茶沁みない?
なんだよ、先輩、今日は眼鏡じゃないのか。ラーメンでも食いに行ってたのかな。
眉毛無いし目つき悪りぃからヤ〇ザみたいなんだよ。こっち見るなよ。コンタクト使うなよ。怖くて漏らすぞ。
休日に眼鏡じゃない先輩と暇つぶしでモールとか歩いてると高確率で小さい子が泣きそうになるんだよな…絶対トラウマもんだよな。かわいそう。
「で、何処行くんすか?」
「俺も知らん」
マジか…何処行くか知らないで俺を誘うのやめてよ。クリスマスなんだから昨日に引き続きラブラブでいいじゃん。ラブアンドピースだよ。俺にも平和くれよ。
――――――――――――
着いた先は、湾岸部の商業施設だった。
ここ最近出来たんだよな…人工の砂浜とかあるんだっけか。
少し離れて観覧車とか見える…彼女と来たら最高なんだろうな、彼女いないけど。
クリスマスらしくライトアップされてて天国のような光景なんだが、一緒に居る面子が地獄だな。
と思ったら、通り過ぎる。
目的地は、施設の向こう側にある公園の駐車場だったらしい。
夜間でも閉鎖されていないようだけど、誰もいないし、ここって公衆トイレくらいしか無いぞ。
どーすんだよ、ここで。寒いだけじゃん。
「キレイだねー」
「反対側から見る景色もいいもんだな」
「ねー」
なんか既に二人の世界を構築していらっしゃる。
俺いる意味ある?なくない?なんで連れてきた
そんな釈然としない思いを抱いたまま俺は
公衆トイレの屋上に登り…
叫んだ。
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