第21話 男子校生と観覧車2

綺夏さんが会計を済ませ、レストランを出た俺と綺夏さん。


「ふぅ、食べた食べた。直樹君、美味しかった?」


「初めて食ったんですけど、美味かったです」


「それは良かったよ。お姉さんがご馳走した甲斐があるってもんだね」


「ああいうところによく食べに行くんですか?」


「いやー、いつもはコンビニとかで買って宅飲みだよ。今日のは美味しかったよね、ワイン」


飲む話でもワインの話でもねえよ。飯だよ飯。この酔っ払い。


「食後の休憩でって、その休憩じゃないよ。あは。ちょっとお散歩しよっか」


ちょくちょく親父ギャグ挟むのなんなの。

綺夏さんが近寄ってきて、腕を…今度はちゃんと組んでるな。痛くねえ。


おお、クリスマスん時に居た公園が見えるな。

向こうから見ると結構綺麗だったけど、こっちから見ると暗いだけだな。


肝試しには良いかも。今度、あいつらと肝試しに来てみるか。

なんか出る噂とかあんのかな。あったらいいな。ネットで探してみよう。


「ねーねー、アレ乗ってみよ」


あいつらとの肝試しについて考えてたら、いつの間にか観覧車の所に戻ってきてたらしい。


「そうっすね。夜景とか綺麗そうっすね」


「じゃあ、乗りに行こう!」


 ――――――――――――


意外と乗る人多いんだな…観覧車。


観覧車って乗って景色を見るのも好きだけど、動いてる観覧車を眺めるのも好きなんだよな。

特に夜ってイルミネーションが綺麗なんだよな。

え?似合わねえ?うるせえ、んなことわかってるよ。


眺めてるうちに順番が回ってきた。

なんかいやに静かだな…んだよ、寝てんのかよ。

立ったまま寝るとか器用だな、俺に寄りかかってるからか、どうりで重いと思った。


「順番来たすっよ」


「ん…、あっ。ちょっと寝ちゃってた。淋しかった?ゴメンね?」


いえ、重かったです。


 ――――――――――――


ゴンドラに乗り込む。

俺と綺夏さんが向かいあって座ったんだけど、俺が外側を向いてて外がよく見える。

やっぱり観覧車は外側向いて座るのが良いよな。遠くまで見えるし、他の乗客見えねえし。最高だよな。


「あ、だんだん高くなってきたよ」


綺夏さんの言うとおり、ゆっくりではあるけれど、徐々に高くなっていく。

数分もするとあの肝試ししたい公園が見え、近くを通る高速…走っている車も見える。

遠くにタワーマンション群が見え始め、昼間見ると面白くもない風景なのに、冬の暗さと施設内のライトアップやイルミネーション、車のヘッドライトやテールランプ、タワーマンションの明かりが、幻想的とは言わないけど、それでも綺麗だと思える光景が広がっている。


「綺麗だね」


綺夏さんが呟く。


「そうっすね」


「そろそろ頂上に着くね」


頂上に着いた時、観覧車が止まった。

スピーカーからアナウンスが聞こえてきた。

車椅子の人がゴンドラから降りる為に止まったみたいだ。

数分は止まっているらしい。


「一番高い所で止まってラッキーだね。遠くまでよく見えるよ」


「眺めいいっすね」


何気なく綺夏さんの方を見る。

薄暗いゴンドラ内の照明に照らされた綺夏さんの瞳がキラキラしていた。

内心、おばさんとか言ってたけど綺夏さんが可愛く見えた。


「ねえ、直樹君」


綺夏さんが近づいてくる。

目の前に綺夏さんの顔が…そっと目を閉じる綺夏さん。


雰囲気に飲まれ、俺は


そっと唇を重ねる。


「ん、んふ、んんん」


吐息が漏れる


「ん…」


ぬるっと口の中に…


え、ちょ、マ? 舌入れらてね?


舌に絡まり

纏わりつく

口の中を舐められ

舌を吸われ

絡みつく


「ん、んんー」


なんで頭抑えてんだよ、あ、力強えな…あ、


さっきよりも激しく力強い


「ふぅ、キスしちゃったね」


綺夏さん、にっこり。


俺のファーストキスはディープキスでした。

そして、ファーストキスはワインの味。


「やっとしてくれたね。いつキスしてくれるのかなって思ってたけど、なかなかしてくれないんだもん…嫌なのかと思っちゃったよ」


「ねぇ、何で黙ってるの?」


「おーい、直樹君?」


「もしかして、キスするの初めてだったから緊張しちゃってるの?可愛い。ね、気持ちよかったでしょ」


「さっきのが直樹君のファーストキスだね。直樹君のファーストキス貰えて、お姉さん嬉しいよ」


「な…なんで初めてだって知ってるんすか。初めてじゃないかもしれないじゃないすか……」


「ううん、知ってるよ。キスが初めてだってこと。女の子と付き合ったことが無いのも。もちろん童貞だってこともね」


「あーあ、中村…美幸ちゃんは残念だったね。浮気疑われて別れたりしなければ、今頃はきっとお楽しみに最中だったかもねー。うんうん、残念だったね……私は嬉しいけど。あは」


嬉しさや恥ずかしさよりも恐怖で頭の中がいっぱいだった。

なんでそんな事を知ってるんだ…

その場の雰囲気に流されて俺は何てことを…


「俺じゃなくてもいいじゃないっすか…なんで俺なんすか…」


「ご飯食べてる時にも言ったけどね、直樹君が良いなって思ったんだよ。別に直樹君が嫌ならいいよ…直樹君のお友達の悟君とか良君はなかなかのイケメンだよね。お姉さん、普通の子が好きだけど、イケメンもいけるんだよ。でもいいのかな、あの子達には可愛い幼馴染とか可愛い妹が居るから…もしね、こういう事しちゃってるのがわかちゃったらどうするんだろうね」


ニタァと笑う。


「悟君は、幼馴染に殺されちゃうかもね。妹に嫌われちゃったら良君は、生きていけないかもね。さて、どうする?直樹君」


観覧車が動き出す。


「えいっ」


何故移動して隣に座る。バランス悪くなって傾いてんじゃねえか。


「うふふ、じゃあさ、こういうのはどうかな?」


ニマニマ笑う綺夏さん。

そっと手を俺の腿に乗せ、腿の内側に滑らせる。

つつーっと俺の股間をパンツの上から撫で回し…優しく上下に擦り始める。


「ん、元気だね。お姉さんが色々教えてあげるね、直樹君」


無言を肯定と受け取ったのか


「この後、お姉さんの家に行こうね。今日は大丈夫だから」


軽くキスされた。嫌悪感しかねえよ。

おい、いつまで擦ってんだよ…


観覧車を下りた後、


「じゃ、行こっか」


為す術もなく綺夏さんにお持ち帰りされたのだった。










『汚れつちまつた悲しみにいたいたしくも怖気づき汚れつちまつた悲しみになすところもなく日は暮れる……』











これだけは言っておきたい。

綺夏さんとは付き合ってねえし、あの日以外会ってねえ。

あれ以来、何度かお誘いの着信やメッセージがあったが全て無視して拒否したし、無理やり登録させられた連絡先は速やかに削除&ブロックした。

ああ、別に残念になんか思ってねえよ。いやマジで。若気の至りっつーか、黒歴史過ぎんだろ。

その後、先輩からこの件の謝罪と共に綺夏さんが同僚の人と出来婚するんで会社を辞めたと聞いた。

その晩、相手が俺じゃなくて本当に良かったと枕を濡らした。

そして、この事は誰にも告げず墓場まで持って行こうと心に固く誓った。


暫くしたある日。

見知らぬアカウントからメッセージがあった。

「直樹君、久しぶりだね。私、人妻になるけど、気が向いたら連絡してね、またいっぱい遊ぼうね。連絡待ってるね、綺夏」


この日から、ウォーキングするデッド化した綺夏さんに貪り食われるという悪夢を度々見るのだった。

ああ、ドラマは結局イッキ見出来ず、また毎日1話ずつ見てたんだけど、最終回まで楽しく見させてもらったぜ。

その後にやってるスピンオフも楽しいよな。

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