第13話 男子高校生の話3

 全校集会が終わり教室に戻ってきたが、担任が来る前にトイレに行ってこようと廊下に出た。

 廊下の曲がり角を曲がろうとしたその時、


 ドンッ…グシャ


 何かが勢いよくぶつかり倒れた…見ると小学生の女の子が倒れてた。


「前を向いて歩いてください、痛いじゃないですか」


 と、ふらふらと立ち上がり文句を言ってきた。

 どうやら違ったらしい、小学生じゃなくて小学生のような身長の女の子だな。

 プクリと頬を膨らませたその顔になんか既視感を感じる。あ、これって雪菜ちゃん(友人の妹)が怒ってる顔にそっくりなんだ。


「ぶつかったのは悪いけど、急に出てきたのはそっちじゃないの?」


「急いでいたんです。避けてくれればいいじゃないですか。あと真っ先に倒れた私を心配してくれてもいいと思うのですが」


 いや、背が低いというのもあるけど、出会い頭にぶつかったんじゃあ避けようが無いと思うんだが。

 あと心配も割と直ぐに立ち上がってなかった?


「急いでるなら早く行った方がいいよ」


「そうでした、急がないと。まだ許していませんからね」


 そう言って足早に去って行った。

 何だか不穏な捨て台詞を残して行ったんだけど、何処のクラスだろう?あんな小さい子見た事ないぞ。


 ――――――――――――


 担任が教室に入ってきた。

 引き戸の窓から頭は見えるのが顔は見えない…多分、良の言っていた転校生だろう。


「新しく転校してきた岩田 あゆみさんを紹介します。入ってきなさい」


「はい」


 返事と共に入ってくる転校生…あの小さい子だ。

 うちのクラスか、何か言ってきそうで嫌だな。


「私の名前は岩田 あゆみです。前の学校ではあゆみって呼ばれてました。こちらの学校でも、頑張りたいと思います。よろしくお願いします」


「ということで、皆よろしくお願いね。皆、岩田さんのこと色々知りたそうだし、次は私の授業だし、とりあえず親睦でも深めとく?」


 話のわかる先生だとかなんだとクラス中が騒々しい。

 良も真美子も何て声を掛けようかとそわそわしててちょっと面白い。


「あ、あの私、皆のこと知りたいので自己紹介とかしてもらってもいいですか?」


 岩田さんが意外と乗り気だった。

 うん、見た目通り小学生っぽいな。


 ――――――――――――


 次々とクラスメイト達が自己紹介をしていき、真美子と良が思っていた以上に普通に自己紹介を終え、俺の番になった。


「えーと、「あー!あなた、今朝の!」」


 突然の岩田さんの叫びにクラスメイトが一斉に俺の方へ向く。

 ずかずかとやってきた岩田さん、俺の前にくると指を差して


「まだ終わっていませんからね!」


 突然の展開にクラス中がどよめく

 

 良はなんか面白そうな事が始まったとばかりにニヤニヤしてるし、真美子はちょっとこの女誰みたいな感じで睨んでくるし、クラスメイト達は興味津々に見てくるし…この子の指が目に刺さりそうで怖いけど、俺は努めて冷静に事のあらましを話し始めた。


「いくら遅れそうだとしても廊下を走ってはいけません。そもそも…」


 何故か俺まで一緒に説教された。

 理不尽だ。


 ――――――――――――


 昼休み。


 真美子からの食事の誘いを断り、休み時間に渡そうと思っていた美緒のお弁当を持って、急いで美緒の教室へ向かう。

 良は、部活仲間と学食で食べるらしく。授業終了と同時にダッシュで学食へ向かって行った。


 美緒の教室に到着、すると同時に教室から出てくる美緒。


「あれ、義兄さん。何の用ですか?」


「お弁当忘れてただろ、だから届けにきたんだよ」


「え、ありがとうございます。丁度、学食に行こうかと出てきたところなんです」


「それは良かった。じゃあ、これ、はい、お弁当」


 うわ、危なかった。もう少し来るのが遅れたら折角のお弁当が無駄になるところだった…無事、美緒にお弁当を渡せて良かった。


「ちょっと待って。義兄さん、私も一緒に行くから」


 教室へ戻ろうとした俺を美緒が呼び止める。

 振り返ると


「皆ごめんね。義兄さんとお弁当食べる約束してたの忘れてて」


 美緒が友人たちにお断りをしていた。

 いいよーとかそんな返事を返しつつ美緒の友人たちは学食に向かって行った。


「俺の教室で食べるの?」


「な、何を言ってるの、に、義兄さんのきょ、教室とかありえないから。キモっ」


「一緒に行くって言ってたから、てっきり俺の教室で食べるのかと」


 嫌なのはわかるけど、そんなに顔を真っ赤にして否定しなくてもいいと思う。

 教室なら真美子も居るから偶には三人で食べるのも良いかなと思ったんだけどな。


「嫌なら仕方ないよな、中庭か屋上のどっちかだな」


「別に嫌ってわけじゃないんだけど、恥ずかしいというかまだ早いというか……天気が良いから屋上にする」


 そういって美緒が屋上に向かって歩き出す。

 始めの方、小声でぼそぼそ言ってて聞こえなかったけど、何言ってたんだろう。

 青空の下で食べるお弁当って美味しいんだよな。


 ――――――――――――


 いつも思うけど、結花さんの作ったお弁当は美味しい。

 けど、今日のお弁当は、青空の下で美緒と食べたからなのか、いつもの数倍は美味しかった気がする。

 今度、良や真美子も誘って屋上で食べようと思う。

 結花さんも誘わないと拗ねそうな気もするけど、引継ぎ準備とかで生徒会が忙しそうだしな…いや、結花さんとも食べたいから結花さんも誘おう。食べ物の恨みは恐ろしいって言うしな。


 お弁当も食べ終わり、美緒と別れて教室へ戻る。


 教室に入ると、岩田さんが何か言いたそうにこっちを見るけど、言いたい事があれば言えばいいのにと思う。


 岩田さんの前を通り過ぎる


 ガシッ


 腕掴まれた。なんで。


「私と一緒にお説教されたからって、許したわけではありませんからね」


 え、一緒にお説教されたから、喧嘩両成敗なんじゃないのか。

 なんでそんなに根に持ってるんだ、ちょっとヤバい子なのか。

 そんな恨がましい目をして…上目遣いで見られても…

 予鈴が鳴り瞬間、俺の腕を掴んでいた手が離れたので、慌てて自席へ向かう。


「逃がしませんからね」


 ゆっくりと地を這うような低い声で呟いた…。

 聞かなかったことにした。

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