第9話 モブと彼女のいない通学路(ソロ)

「え?休む?」

素っ頓狂な声が部屋の中に響く。

立て続けの襲撃でココ数日は柄崎家で過ごしていた茂は、

頬を以上なくらいに赤くさせ、鼻水が少し垂れている天葵を前に

していた。

「ゲホッ…風引いたかも…。でも今日金曜日だから…私は休むけど

茂くんは行ってきてね。」

「めずらしい…。まぁちょっと寝て休めば治るか…じゃあ

今日は天葵無しで登校か…結構心配だな。」

「それは安心して…お姉ちゃんに頼んでペットに任せることにしたから。」

入ってきてとリビングとつながるドアの向こうへ呼びかける。

向こうからガチャッとドアを開けて茂の姉の美恵と天葵の姉の季奈、

そして季奈の手元のリードに引きずられて水島が入ってきた。

「…待って季奈…何で私の下着が無いの?」

「え?昨日脱がせたから…。」

完全に違和感しか無い面子に驚く茂だったが、その一方で水島の方へ

意識を向けていた。以前襲われた経験から少しばかり警戒したほうが

良いだろうと思い、目線を水島に当てる。だが、茂の想像していたよりも

何十倍も奇妙な変化を遂げていた。

まず外見だが、以前よりも髪の色が薄くなっており、更に着ている服も

特別いいものではないものの、金のないフリーターのような白シャツを

着ている。さらに以前は茂の視線を必ず合わせようとしていた彼女は

今は誰の顔も見ないようになっていた。

「何で水島がここに?」

「お姉ちゃんに一週間躾けられてからずっとこんな感じなんだ…けほッ。」

ニコニコしながら季奈は手からリードを放す。水島は下を向いたまま

茂に近づく。なにかされるかと身構えたものの、近くによってきた

まま軽く背中をペコリと下げるだけだった。

あまりの変わりように驚きつつも時計の針がいつものバスの時間の8時半前に

差し掛かろうとしていることに気づく。

「ヤバッ…じゃあ天葵また放課後な!」

青い顔をしながらこちらに手を振っている天葵にそれだけ言い残して

玄関へ急ぐ。水島もついて来られるくらいのスピードで

玄関へと向かった。

「ねぇ…茂を狙ってるのって女の子だけ?」

「どうしたの急に?もしかして美恵ちゃん…そっちの世界に」

「違うって…ただ何年か前に茂に必要以上にくっついてた男が

いたんだけど…茂の前からいなくなってから怪しい噂が立ってて…。」

「……。」

天葵の部屋に残った姉二名と天葵一名。水島という厄介そうな

新しい戦力の追加に眉をひそめる天葵だったが、自身の体調を整えることが

最優先だろうと判断し、そそくさと布団の中に戻っていったのだった。





一方 通学路


茂は急ぎ足でいつものバス停に着き、ギリギリでバスの中に飛び込んだ。

朝のバスというイメージはかなり混むというものがあるが、この付近から

来ている生徒は茂や天葵くらいで更に団地というのも相まって人は

少ない。いつもの入口近くの座席に空いていることを確認して座る。

バスの中には大抵サラリーマンが三人と茂、そして天葵くらいしか

この時間帯は乗っていないのだが今日はサラリーマン以外に

大柄な男性が5人近く座っており普段よりも圧迫感がある。

それだけの変化で気にすることもなく、茂はスマホのアプリを開く。

最近茂がハマっているゲーム、「飯屋大合戦」。

多くの料理を擬人化したキャラクターたちが自身のチーム、飯屋を作り、

他の飯屋たちと戦いを繰り広げる人気ゲームである。

最近は天葵とバスの中でマルチをしていたが、今日は久しぶりに

ソロプレイで挑むことにした。

ゲームのステージを選択する画面に飛んでいき、戦闘開始という

ボタンを押す。やがて画面の中には自分の持つキャラクターが現れ、

その反対側には近くでやっているプレイヤーのアカウントのキャラが出現する。

ソロプレイのいいところは自分の知らない人との対戦が簡単にできる上、

近くにいるプレイヤーとの戦闘という他の人もやっているという小さな喜びを

感じることが出来るからである。

表示されたキャラのアイコンをタップし、攻撃を仕掛ける。

茂の使う主なキャラクターは、和菓子モチーフのキャラクターで出来た編成。

最近出た三色団子先輩をリーダーに、羊羹ガール、わらビーナスといった

二、三番手そして大福ニキ、どら焼キッズの計五体で出来たパーティーを使って

戦っている。敵のキャラクターのゲージがみるみるうちに赤くなっていき、

茂のキャラクターは完全にゲージを満タンにしてゆっくりと相手を潰す。

(この人の使うキャラクターって課金キャラばっかだな…)

だが途中で茂は少しの違和感を感じた。

よくよく見てみると相手の編成しているキャラクターの半分以上が課金で

手に入るレアキャラクター。そんなキャラクターを編成しておきながら

果たして茂のキャラを一体も瀕死にしないことが出来るのか。

その時の茂は何かのバグかただのプレイミスだろうと思いその対戦には

深く考えないことにしたのだった。

茂の座っている座席の付近にいた大柄な男の間に、誰かがいる。

そのことに茂は気づいていない。その人物が茂のことを端末を操作して盗撮している

ことにさえ、気づかなかった。

「…ヒヒッ…。」



茂はバスを降りていつも通り靴箱に靴を置いた後広場に行く。

予冷が鳴るまではここに居たほうが質問をされるよりもマシだろうと思ったのだろう

そんな茂の正面の席にバスの入口付近でギリギリ乗れた水島が座る。

以前自分を襲った相手、そして自分が襲った相手との関わりは言わずともがな

最悪の空気が発生する。二人は目線を合わせること無くただ自分の足元に

視線を逃がす。流石に両者この空気をどうにかしようと思ったのか

口を開く。先に開いたのは、水島だった。

「…茂さんは気づいてたんでしょ?バスの中で盗撮しているあの男のことに。」

開きかけた茂の口がそのまま固まり、体もぴくりとも動かなくなった。

「え…盗撮…ですか…」

「大男のことを利用して小柄なツリ目が頬を赤らめながら茂さんのこムグ…」

「…ちょっとあっちの方で…」

流石に聞き流せない内容を前に、詳しく話を聞くべく茂は水島の手を引いて

奥の学食コーナーへと早歩きで進んでいった。


「それで…その…ツリ目というのは…」

「大男に指示を出していたのでしょう。季奈様に教えられたのですが…

おそらくこの方かと。」

がらりと人の少ない学食コーナーに二人の声が木霊する。

近くのカーテンの隙間からこぼれ出た光が予冷20分前の9字10分を指す時計に

反射して眩しく光る。

その中水島が柄崎季奈から預かったある男の資料が茂に渡された。

「名前は神竹司沙かんじくつかさ。幼い頃に親を亡くし、その後小学生で

得た知識と以上なほどに回転する頭脳を最大限に生かして中学生で起業を果たした

ある意味バケモノの素質を持った現高校生社長ですね。」

資料をぱらりとめくっていくとテレビで見かけるような有名人の横に淡い紫が

かかった髪、そして特徴的な赤い目をした女子の気にする顔面偏差値が完凸な

好青年が映る写真が何枚も印刷されている。

「そんな人が…何で僕を?」

翌々考えても考えなくても気にするであろう、自身と全く関係のないような、

更に何なら自分よりも一個上の三年生が何故自分のことを撮影するのも

よく分からない。遊び半分で盗撮するなら少なくとも大男に指示を出したりは

せず、なら目的があってやったとしてもメリットが皆無なところがなんとも

気持ち悪い。

その茂の問に対する答えを、水島は持っていた。正確に言えば、知っていた。

柄崎季奈に変えられたあの日の前から。

「結論だけ言わせてもらいます…。貴方が狙われる理由は全部共通して

同じなんです。私と天葵さんを除いては。」

「ってことは未梁は恋愛的な意味で争ってなかったのか?」

「はい。それを証拠に未梁は以前の私のように嫉妬と怒りに狂って

突っ込んでくることは無く、更に必ず奪うではなく、【手に入れる】という

天葵さんとは違うモノをもっています。」

その場に緊張が走る。自身を狙う人間の意図を知らず狙われる茂に、

真実ほんとうを知っている水島の口が今。その真実こたえを告げる。

「西木田茂さん。貴方の体の全てはこの地球上で存在しない物質が

幾つも存在している。私達がよく言う地球外生命体と同等なのです。」

そう答えた水島の目は、口元を震わせる茂の姿を捉えて離さなかった。

真実じじつを知った少年の運命は酷く汚く輝くことになるだろう。

その現実を突きつけるように、時計の針がカチッと進んだのだった。











続く。












「(作者より」)

今回のお話で出てきたゲームの飯屋大合戦は、

作者が並行して連載中の「元厨二病、現裏社会の最強さん」の序盤で

登場したゲームです。いつかこのゲームを主体にしたお話を書こうと

思ったりしています。



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