第7話 モブと敗けたくない思い(信念)

「茂。アンタ誰のモンか分かってるワケ?」

「何だよ…またイジメに来たのか…?」

それは中学一年の頃の記憶。あれは確か帰り道だった。

夏休みに入ったあの日。僕は小学校の頃女子からイジメを受けていた。

前髪を切らなかったことやあまり話す相手が居なかったのも原因だろう。

天葵と付き合う様になってからもう少しコミュニティを作っておいたほうが良い

と思った。

そのときのイジメの主犯が未梁だった。今と同じ髪色で、全く変わらない

顔立ち。今でも鮮明に浮かび上がる、自分を見下すあの蔑んだ目。

再び再会した時は最初こそ日和っていたものの、その頃の当時の僕は

引けないという気持ちが会わないうちに出来ていた。

「もう僕はお前のおもちゃじゃないんだ。言いなりにも絶対聞いてやらない。」

そこが人目につく場所だったら良かっただろう。

強気に出たは良いものの、力では向こうのほうが上だった。

いきなり腹に強烈な痛みが走った。よろけながらも膝を地面に付け、かろうじて

立ち上がった。ズキズキと痛む腹を抑えながら閉じたり開いたりをする瞼が未梁を

捉える。そこにいたのは、口角を釣り上げて笑う、あの頃とまた違う笑顔。

「けほッ…。」

「もう1回言おうか?アンタは私の所有物なの。所・有・物!」

よろけている茂の体を思い切り蹴り飛ばし、そのまま地面に踏みつけにする。

必死に暴れているが、ピクリとも動かない。

「もー。何で分かんないかなー。これ見てもその態度が取れるかな?」

抵抗していた茂の体が未梁の携帯に映る写真を見てピタッと止まった。

「あ…姉貴?」

「フフフ…。私の取り巻きに命令したらあっさり捕まってきたよ。

今アンタが間違った選択をしていくごとにお姉さんは…どうなっちゃうかしら?」

未梁の言葉に頷いてしまえば茂は耐えれないほどの痛みを背負う。

しかし、断れば自分のせいで姉が死ぬことになる。

中学生になった茂は、より命の大切さを理解し、正義感を強く持つ次期にいた。

言うまでもなく彼は未梁の手の中に堕ちていった。


茂はその後、2週間の苦痛を味わうことになる。

未梁の家に連れ去られひたすら苦しめられた。逃げようとすれば

容赦なく痛めつけられ、逆らえば骨を折られ、彼女の鬱憤晴らしにスタンガンで

拷問されたりもした。弱っていく彼の心には未梁の瞳がただ輝いているだけだった。





「ハッ…!!」

思い出したくない記憶から茂は目覚める。

あの日の屈辱、怒り、そして痛み。全て受け入れたことで反抗が出来たのだろう。

自分がこれ以上酷いことをされることは無いと確信を持っていたから。

だが、その認識は今覆る。

彼の目の前には、自分が守るべき家族であり、姉弟である姉の美恵だった。

よく家で見るモコモコとしたうさぎのパーカーのまま縄で拘束された姿で。

肩を揺さぶろうとしたが、途中で何かに引っ掛かったように引き戻される。

手を見ると、そこには古びた手錠のようなモノがかかっており、近くの壁にある

パイプにもう1つの手錠がかかって完全に動けずにいる。

「クソッ…!姉貴!起きてくれ!」

必死に叫んでも彼女は起きず、一向に焦りと不安が茂を襲う。

いつ来るか分からない狂った女に姉が殺されるかもしれないという思考が

浮上したからである。そんな彼を、後ろから誰かが抱きつく。

茂は動くのをやめ、つばを飲み込んだ。

「おはよう。私の所有物しげる。状況は飲み込めてそうだね。」

「何で…姉貴は友達の家の筈…。」

「大丈夫、ちゃーんとお友達も一緒だからね!」

あの日と同じように、同じ携帯、同じ髪の毛、同じ髪色で再び茂を堕としにきた。

「さ、人生最後の選択だよ?私の旦那になるか…逆らって皆死ぬか。」

ニタニタ笑う未梁を、茂は睨みつける。今度は姉にまで責任を負わせようとする

このクズに弄ばれるのかと。一生を掛けて自分は中身のない人間なのかと。

だが、天葵の顔が脳裏をよぎり、ただ諦めず喰らいつくことを選んでいた。

「絶対言いなりになんかならない。お前から受ける痛みは全部僕が背負うから、

絶対姉貴に責任なんか負わせない。そのためにもお前の言うことなんか…聞かない」

自分を縛り付ける鎖が天葵になるだけ、それだけで彼は強くなった。

自身を本当に、自分の全てを本当に愛しすぎている天葵に最大の敬意を示すためにも

ここで敗けない、敗けたくないという信念が彼を守っていた。


だが、神様は微笑む人間を選ばなかった。

「そ、じゃあアンタだけ壊せばイイんだ?」

動けない彼の体に馬乗りになり、再び彼に抱きついた。

「ねぇ、私さ。小学校の頃からずーーーーーーっと気になってる男の子が

いたの。全く喋らない、誰とも関わろうとしないそんな男の子。

頭の中で想像してたんだ。こんなペットが欲しいなーって!!!!」

そのまま抱きついた彼の背中に袖に仕込んでいたナイフで

思い切り茂の背中を刺した。

「いっっっっっッ…。」

「アハハハ!やっぱり最高のおもちゃだね!イジメてて正解だった!

頼れる相手がお姉さんだけで本当に良かった!」

ナイフを引き抜き、遠くへと放り投げる。痛みに顔をしかめる茂の顔を地面に

押さえつけ、傷ができた背中に近くから持ってきたガスバーナーを近づける。

「ココは私の新しいお家、だからアンタは帰り方も分からないまま

逃げてもきっと見つけられるね。楽しみだ♡」

「…天葵…。」

火がゴオオオとガスバーナーから噴出され、その火がどんどん茂の前に

近づく。茂の口から思わずこぼれ落ちた自分の愛せるようになった人の名。

そう、神様は微笑む人間を選んだりはしなかった。

近くのドアが壁ごと突き破られ、近くにあった多くの道具が地面に滑り落ち、

次々に物音を立てていく。

その向こうに並ぶ、2つの影。茂に微笑んだ神様からのプレゼント。

「あ!恵美ちゃんいたいた!天葵ちゃん?分かってるよね?」

「…後で謝っとかなきゃ。お姉さんに。茂くん。助けに来たよ。」

世界でたった1人の、最恐彼女が。

「何だアンタら?人んち壊しやがって。」




続く。

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