第4話『んー、そしたらさー……僕が行くとしたら、何してくれるのかなー?』

 大通りから路地を入ったすぐのところにそのカフェはあった。なかなか新しいようで、意外と客もいっぱいいる。女性ばっかり。


 そりゃそうだよな、俺の集落でだって、男は昼間っから酒場にたむろってた。だいたいカフェなんて初めて見たし。

 俺たちは通りを挟んだ反対側の、店の前で横一列に並んでいた。


 ……なんとなく、入るのにためらわれる。ウィンドーから見える中は、あまりにも女性ばかりで華やかで別世界のようで、明らかに場違いな気がするのだ。


 コウは道案内だけ済ますと、ここ、とばかりに頭で示して一歩下がった。


「えーと……」

「……ここはやっぱ、レツが用事があるんだし」

「えええええ! 無理無理無理無理! シマ行ってよ!」

「あ! 見習い君なら大丈夫じゃね? 俺らほどムサくないし」

「えええ! 俺だってカフェなんて初めて見たし!」


 俺を含む三人はお互いを押しだそうとしてぐるぐるし、その横でコウは半分他人事みたいに眺めていた。


「っていうか! 普通こういう時、その団長を知ってる人が行くべきじゃん!」

「なにー?」


 え? もみくちゃしていた俺たちは一斉にそっちを見た。


「レツにシマにコウちゃんも。やっほー、みんな揃って何してんの?」


 そこには、金髪でやたら綺麗な人が手をひらひら振っていた。


 テラスっていうのかな、カフェの外に出したテーブルには小さな花が飾られている。

 手を振っていた人は持っていた本を置いて立ち上がると、俺たちの方へやってきた。周りの女性の視線が彼を追っているのがわかる。

 女性の間に居ても何らおかしくないような、もちろん、男性だ。


 明るい金髪はふわっとカールした巻毛で、やけに長いまつ毛が濃い碧眼を引き立てる。しかもやたら綺麗などちらかというとかわいい系の見た目なのに、やたら長身だった。なんだこの違和感。


「団長! 団長を探してたんだよー!」

「わー! 嬉しいー! なになにー? また何か新しい遊び?」


 レツの言葉に普通に答えて飛びついたレツの頭を撫でている。でもどちらかと言うと、団長のが撫でられてる方が似合いそうな見た目だった。でも明らかに身長は団長のがでかい。あー! すっごいこの違和感!


「団長、あのね、俺ね、勇者になっちゃった!」

「マジで! すっごい! おめでとうー!」


 まるで自分のことのように喜んでいる。全体的に白でまとめた格好。なんか見た目から醸し出す雰囲気からまさに、

「白魔術師……」

 ぼそりと思わず口から洩れた。

 すると団長は、ふっと視線を上げて俺を見た。真正面から見られてちょっとビビる。


「あれ、何か新しい子だね。どこの子?」


 俺は何となく身構えた。

 どこの子って、そんなにガキじゃねぇのに……でも言い返せなかった。何となく雰囲気が。これが会えばわかるってやつなのか……? 


「そうじゃなくって! あのね団長、俺勇者になっちゃったから旅に出なきゃなの! そんでパーティーが必要なんだけど……あのー団長も一緒に行ってくれる?」


 団長はレツの言葉に視線を彼に戻した。ちょっとだけ首をかしげる。


「旅に、出るの?」

「う……うん」

 レツは一瞬ひるんだけど、ちゃんと頷いた。団長はレツを見てからシマを見た。


「これって決定事項?」

「一応。ちゃんとレツが決めたんだ」

「コウちゃん知ってた?」

「さっき聞いた」

「ふーん……シマはともかく、一緒に来てるって事はコウちゃんは承諾したんだね。そっかー……」


 ぼんやりとそう言いながら、団長は指先を唇に押しあてて何か考えているようだった。


 なんだろ、仲間にいろんな職業の人がいて、ギルドに頼まなくてもみんなパーティーになるには問題ないんじゃなかったのかな。てっきり、みんな即OKなのかと思ってた。さっき、コウだって即答だったし。


「んー、そしたらさー……僕が行くとしたら、何してくれるのかなー?」


 え?

「ほら、やっぱ何か見返りがないと」

 団長はそういうとにっこり笑った。


 えええ、友達相手になにその打算! 笑顔だけは罪がなさすぎて逆に怖い!


「こ、コウちゃんが行くからご飯が美味しいよ!」


 レツは必死になって言う。

 突然引き合いに出されたコウは、一瞬ぎょっとしたけど、とりあえず何も言わなかった。

 っつか、そこでぎょっとするってどういう意味だ……


「あー、確かに旅のご飯ってマズイもんねぇ……そっかーコウちゃんいたらその辺はクリアかー」


 え、あのちょっと取っつきにくそうな武闘家って料理上手なの?!

 っつか、当たり前のようにそう言ったけど、それってつまり5レクス圏内とは言え外に出てモンスター退治とか行った事あるって事じゃん!

 ……あ、でもその辺はみんなそう、なのかな?


「んー、でもちょっと考えさせてもらうわ。僕これでも一応売れっ子だからさ。その旅って、今すぐ出るってわけじゃないんでしょ?」

「うん、一応用意とかもあるし」

「それで、旅ってこのメンツで行くの?」


 団長はそう言うと、一人ひとりに視線を送る。


「いや……まだ」

「キヨも誘う!」


 シマが答えるより先に、レツが言いきった。キヨって、仲間がまだいるんだ。


「え、キヨ帰ってきてるの?」

「さっきギルドに行って確認してみたら、どうやら戻ってきてるらしくて。団長誘ってから会いに行くつもりだったんだ」


 シマは苦笑しながら答えた。

 それで二人は自分の仲間を誘えるのにギルドに居たんだ。あ、でもあの時はテキトーに登録してある人を紹介してもらうって言ってたんじゃなかったかな。


「そっかー、キヨリンにもしばらく会ってないから、僕も一緒に行っていい?」

「もちろん! キヨも喜ぶよ」


 レツはそう言うと、今度は団長と一緒に歩き出した。シマもコウもあとからついていく。


 俺は、そう言えば団長って名前なんて言うんだろとか考えながら、でもまだパーティーになるって決まったわけでもないから聞くに聞けなくて、ぼんやりとその後について行った。

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