朝食
「良かったらいかがです?」
風景を眺めていると、少し控えめに肩を叩かれる。振り返ると、着物を着た普通の女性が、竹の皮に包まれた何かをさしだしている。
「ありがとうございます……でも、
遠慮しておきます。お金ないので」
良い人だなー、と思いながらも掌を向けてやんわりとお断りする。でも、女性は更にその包みをさしだす。
「急に色々あって人の子サンは大変でしょう?遠慮なさらず、嫌でなければ貰って下さい」
人の子て……あなたも人間でしょうよ、と多少困惑しつつもご厚意に負けてありがたく包みをいただく。
解くと中にはホカホカのおにぎりが2つ入っていた。片方をクロミツに渡すと猫姿のままかぶりついている。
シャケおにぎりを堪能していると、女性はニコニコで首を伸ばしている。
あ、妖怪だった……。
「どこへ向かうのですか?」
「えっと……雨の都、?です」
人間の女性改めろくろ首さんは頷きつつじゃあもうすぐですね〜なんてはんなりしている。首伸ばした状態で頷くの面白いからやめて欲しい。なんてことは頭の隅に置きつつ、楽しく話に花を咲かせる。妖怪のおどろおどろしいイメージとは裏腹に、列車内はあったかく優しい雰囲気が漂っている。
最も怖いのは人間だとかよく言うが本来怖いはずの妖怪がこんなに穏やかならそりゃ人間の方が怖い。
「おにぎり、ありがとうございました。お話も楽しかったです」
「ありがとうございました!」
肩に乗せたクロミツと共に、改めてお礼を言うと女性は優雅に手を振って見送ってくれた。
「私達の国をぜひ、楽しんでくださいね」
駅員さんの一つ目小僧にも見送られ駅舎を出る。
雨音の響く、一昔前の商店街のような街並みがそこに広がっていた。
「ここが雨の都」
細く降る雨は、現代の日本に降るものとは違って柔らかく糸のようだ。いつも苦しめられていた頭痛は微塵も感じなくて居心地がいい。
「低気圧なのに頭痛起きない」
「この国には痛みも疲れもないからね」
クロミツ曰く生の象徴である痛みや空腹や疲労はこの世とあの世の狭間のここでは感じることがないらしい。
さっきは朝ご飯を恵んでもらったけど、狭間の国では食事も睡眠も娯楽の一つでしかないそう。
異世界道中猫又紀 ととり。 @umijaga
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