第15話 こういうのは徹底的に叩き潰すに限る

「カインのこと知らないくせに悪口言わないで!」


「そうですよ! カインくんは臆病なんかじゃないし、アリアさんはちょっと頼りないけど、とっても可愛いお姉さんなんだから!」


「え? ちょっと頼りなかったかな……?」


「待って待って! ちょっと待ってください!」


 俺に続いてアリアとレナが反論すると、女教師が慌てて止めに入った。


「ダメです。この子はまずいです! 逆らったらなにをされるかわかりません! この子はあの名門のラン――」


「うるさい」


 俺は女教師を押し除け、絡んできた男子生徒に一歩踏み込んだ。


「どこの田舎貴族か知らないが、お前の言う実戦とは、パパやママの権力を使うことじゃないだろうな?」


「なにぃ!? 誰がそんなもん使うか! オレはオレだ! この拳以外使う気はねえよ!」


「ふぅん、なら後ろのお友達はなんだ?」


「お友達だ?」


 男子生徒が振り返る。そこには数人の生徒が、まるで将を守る兵隊のように集まってきていた。


「大層なことを言う割に、喧嘩を売るのに取り巻き同伴とはな」


「うるせえ、こいつらは関係ねえ! オレに友達なんかいねえ!」


「友達じゃないなら、なんなんだ」


「知るかよ。うちの家名に媚びて勝手についてきやがってるだけだろ。鬱陶しくって仕方ねえぜ!」


 言い放ち、男子生徒は「散れ!」と取り巻きたちに乱暴に手を振る。


 取り巻きたちは「ひどいぜ」「長い付き合いだろぉ」「家名じゃねえよ」とそれぞれに落胆を見せる。


「ふん……底が知れるな」


 こいつは大したやつじゃない。


 個人としてどんなに強くても、ついてきてくれる者への認識も扱いも悪いようでは大成できまい。


「お前には試験じゃ遅れを取ったが、実戦じゃオレが上だってのを教えてやる」


「それより先に言うことがあるんじゃないんですか!?」


 そこにレナが割って入る。


「あなたのどうでもいい力比べなんかより、カインくんやアリアさんに謝るほうが先だと思います!」


「けっ、オレが負けたらそうしてやるよ」


「だったら私がわからせて――わぁっ」


 珍しく熱くなっているレナだったが、後ろからアリアに両肩を引かれて勢いが止まる。


「ダメだよ、レナちゃん。こんな人、相手にすることなんかないよ。カインも」


 俺は首を横に振る。


「いいや。こういうのは徹底的に叩き潰すに限る。でなきゃこの先、いくらでも絡んでくるだろうからな」


 しかもこいつ、当代きっての美少女アリアをブスと言いやがった! 俺の大事な獲物アリアをブスだと!? 安い挑発なのはわかっているが、俺がこの手でぶちのめさないと気が済まん!


 男子生徒はにやりと笑って、女教師に詰め寄った。


「話は決まったぜ、先生。1対1タイマンだ。場所、用意してくんねえかなぁ?」


「は、はひぃ! すぐ用意しますぅ!」


 女教師はその場から逃げ出すように走り去った。


 やがて俺たちは、実技試験でも使われた訓練場へ案内される。


 騒ぎを聞きつけてきた野次馬も、かなり集まったようだ。


「いいですか? 特例なんですからね!」


 女教師が審判として俺と男子生徒の間に立つ。


「なんでもありの実戦方式だ。気絶か降参したら負けだぜ」


「なんだ、殺しはなしか。実戦が聞いて呆れる」


 女教師は怯えた顔を見せる。


「模擬戦! あくまで模擬戦ですからね! 過剰な暴力があれば止めに入りますよ!」


「止められるものならな」


「本当にやめてくださいよぉ! 退学になっちゃいますからね!」


 退学は困る。まあいい。俺も、思い上がったガキの命を奪うほど落ちぶれちゃいない。


「じゃあいいですね? はじめ!」


 女教師の掛け声で、俺と男子生徒の模擬戦は始まった。




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