第16話 相手が悪かったと今更気づいたか?

 模擬戦開始直後、男子生徒は瞬間的に距離を詰めてきた。


 放たれた拳を、手のひらで受け止める。踏ん張った床に亀裂が走る。


「よく受け止めたなぁ! だがお得意の魔法攻撃はできねえだろぉ!」


 一気呵成に拳や脚の連撃で攻めたててくる。それらを冷静に、一撃一撃を丁寧に受け止めてやる。


 どうやらこいつの強みは、身体強化魔法を使っての格闘戦らしい。


 言うだけのことはある。こいつの実力なら、俺の村を襲った程度の魔族なら単独で一掃できるだろう。


 といっても、俺の敵じゃない。発射まで溜めのある魔法攻撃でさえ、やつの拳より速い。


 しかし徹底的に叩き潰すなら、相手の得意分野で、言い訳できない敗北を与える必要がある。


 つまり格闘戦だ!


「喋ってると舌を噛むぞ」


 俺は隙をついて、強化した拳を顔面に叩き込んでやった。


「なに、こいつ!?」


「お前に合わせて拳で相手をしてやる。もっとかかってこい」


「舐めんじゃねえぞ!」


 弱犬が遠吠えするように叫んでから、再び攻勢に戻ってくる。


 俺は次々に繰り出される攻撃を見切っては、その度にカウンターをぶちこむ。すぐ気絶しないよう手加減して。


「ぐ、ぅ! マジかよ……!」


「最初の威勢はどうした。相手が悪かったと今更気づいたか?」


「……ああ、くそ。確かにお前は強い。こんなすげえやつに会えるとは、嬉しいぜ! このオレが本気で戦えるんだからなあ!」


 男子生徒は一旦後退すると、さらに魔力を集中させた。


「うぉりゃああ!」


 その突進はさっきまでとは比べ物にならない速度と重さだった。


 受け止めることはできず、咄嗟に両腕で防御した。体重差で大きく弾き飛ばされる。


 こいつ、マジか!?


 ただの身体強化魔法じゃない。限界突破オーバーリミットだ。


 通常の身体強化魔法より遥かに効果が高いが、身体への負荷がまったく考慮されていない。


 攻撃の反動だけでも全身に痛みが走るし、踏み込みひとつで足を骨折することもあり得る。継続しているだけで死ぬことさえある危険な魔法だ。


 たかが模擬戦でこんなものを使うなんて、よほどのバカだぞ!


「――うぉああ!」


 続く、かかと落としは回避。床が砕け、破片が飛散する。


 しかもかなり使いこなしている。大した才能だが、それで危険性が緩和されるわけでもない。


 放っておけば、勝手に自滅して死ぬだろう。


 だがそうなると、俺が模擬戦で殺したことになってしまうのか?


「ちっ、退学は困るんだよ」


 俺は瞬間的に魔力を集中させ、身体強化魔法の効果を最大化する。限界突破オーバーリミットではない、あくまでの通常の強化魔法だ。


 男子生徒が放った拳に、こちらの拳を合わせる。


 岩同士が衝突するような音。


 力負けした男子生徒の拳が砕け、ひしゃげていく。


 俺はその胸板に、飛び蹴りで追い打ちをかける。


「がああ!? まだ、届かねえのか!?」


 床を転がった男子生徒はしかし、まだ瞳に闘志を燃やしたままだ。


 立ち上がり、さらに魔力を集中させようとする。


 バカが! これ以上は即死もありうるぞ!


 俺は床が砕けるほどの勢いで踏み切った。風より速く、男子生徒の鳩尾に肘を叩き込む。


「が――っ!」


 それで男子生徒は気絶した。どさり、と顔面から倒れ込む。


 手加減はしてある。すぐ目を覚ますだろう。


「勝者、カイン・アーネスト!」


 さっそく女教師が勝ち名乗りを上げるが、直後、頭を抱えた。


「って、もおぉ~。ラングラン家のご子息がボロボロじゃない~。これって私のせい? 私のせいになっちゃうのぉ~?」


 ……ラングラン?


 俺は倒した男子生徒を見下ろす。


 まさかこいつ、グレン・ラングランか!?


 しまった! 俺としたことが、またやってしまった!


 グレン・ラングランは、本来の歴史ではアリアと模擬戦をおこなうはずだったのだ。その縁でのちに勇者アリアの仲間となり、非常に重要な役目を果たすはずだったのに。


 俺がまたその機会を潰してしまった。


 いや、まだ間に合うか? 挽回しなければ!




------------------------------------------------------------------------------------------------





読んでいただいてありがとうございます!

お楽しみいただけているようでしたら、★評価と作品フォローいただけましたら幸いです! 応援いただけるほど、執筆を頑張れそうです! よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る