第14話 試験結果に異議がある!

「ふたりとも試験はどうだった?」


 俺たちは掲示板の近くで集合した。


 さっそく尋ねると、レナはどこか満足気にうなずいてみせる。


「全力を出し切れたと思う。どんな結果でも納得できそう」


「それはよかった。アリアは?」


 一方のアリアは非常に歯切れが悪かった。


「あー、えっとー……。わたしは、ちょっと自信ないかなぁ……」


「なにか妨害でもされたのか?」


「そういうんじゃなくて、わたしもわたしなりに全力を出したんだけど……」


 アリアは困ったような顔を浮かべて、あはは、と苦笑いする。


 まあ、自信がないのは無理もない。


 これまで他人と比べられたことがないのだ。


 比較対象がいなければ、たとえ虎であったとしても己を猫だと勘違いすることもある。


 結果が出れば、否が応でも己の実力を知ることになる。それで自信もつくだろう。


「あっ、結果が来たみたい!」


 試験官が掲示板に触れる。わずかに魔力を発すると、掲示板に文字が浮かび上がっていく。まずはSクラスの名簿と、それぞれの試験結果が羅列される。


「カインくん、Sクラスだ!」


「わあ、さすがカイン! すごい! ぶっちぎりの一位だ!」


 俺の名前は、Sクラスの名簿の筆頭にあった。


「ふん、当然の結果だな」


 筆記試験は満点。実技試験に至っては、測定不能と記されている。


 その結果に、掲示板を見ていた他の生徒が少々ざわついた。よほど珍しいのだろう。


 そんなことより名簿だ。Sクラスは合計7人。受験者の3%程度の人数のようだが……。


「アリアの名前がない……」


「そ、それはそうだよぉ……。わたし、自信ないって言ったでしょ~」


 初めての試験で緊張しすぎたか?


 いずれこの俺の宿敵となるアリアだ。実力をすべて発揮すれば、Sクラスには入れると思っていたのだが……。


 続いて、Aクラスが表示される。15人程度の中に、知った名前がある。


「わ、私、Aクラス……?」


「やったね、レナちゃん! すごいすごい!」


「カインくんが色々教えてくれたから……」


「ああ。俺はレナならこれくらいやれると思ってたぞ」


 ドミナ系魔族は魔力に秀でた種族だ。その中でもレナは非凡な才能がある。それを俺が磨いてやった。もう少し時間をかければSクラスにも届いただろう。


 しかし、同じように教えてたアリアの名前がないな……。


 その後、Bクラス、Cクラスも表示されるが、一向にアリアの名前が出てこない。


「……あはは、わたしはDクラス確定だね~……」


 そんなことがあり得るのか?


 Dクラスはいわば、その他大勢だ。


 今のアリアが、俺の知る勇者アリアほどの実力を発揮できていないにしても、少なくとも癒やしの力が目覚めている。あれひとつでも、CやBに相当するはずだ。その上、俺が指導した身体強化魔法もある。


 Dクラスのわけがない。


「……ふん、そういうことか」


 俺は察した。王立ロンデルネス修道学園、なかなかやるじゃないか。


 いずれ魔王をも超えるアリアの潜在能力を認め、Sクラスの更に上、SSクラスを新たに創設したに違いない!


 俺は腕組みをして、SSクラスの発表を待つ。


 その前にDクラスの名簿が表示される。


「ほら、やっぱり……。わたし、Dクラスだー……」


「……は?」


 俺はアリアを見て、名簿を確認し、またアリアを見た。


「は?」


 何度確認してもDクラス。


「はぁあ!?」


「お、怒らないでよぉ。わたしも頑張ったんだけど……」


「抗議してくる!」


「えっ、ちょっ」


 俺は目についた試験官にずかずかと近づき、食ってかかる。


「試験結果に異議がある!」


「ぴゃぃい!? カイン・アーネストくん!? なに、なに? なにが問題!?」


 実技試験のときのメガネの女教師だ。


 妙に怯えているがちょうどいい。このまま畳みかける!


「アリア・アーネストの結果が問題だ! やつは勇者の力にも覚醒してる、才能あふれる人材だぞ! この俺と同等か、それ以上の実力になる! それがDクラスとは試験に問題があったとしか――」


「やめてー! カインやめてー、恥ずかしいよぉ!」


 顔を真っ赤にしてアリアが止めに入ってくる。


「邪魔をするな。お前の名誉のためにやってるんだぞ!」


「名誉のためなら余計やめてー!」


「なんでアリアがDクラスなのか理由を教えろ!」


「えぇっ! いやその、実技の成績が悪かったからですけど……」


「どういうことだ?」


「アリアさんは、ゴーレムになにかしてたようですが……その、魔力反応がなくて点数が出なかったので……」


 当然だ。アリアの癒やしの力は、魔力によるものではない。


「強化魔法のほうは、どうだったんだ?」


「ごめん……わたし、慌てちゃって思いつかなくて……そのまま試験時間が終わっちゃって……」


「じゃあやっぱりアリアの力を測定できない学園側の問題だろうが!」


「ぴぇえ!? そんなこと言われても、実技試験は毎年あれを使ってるんですぅ~!」


 と、そこに第三者の足音が近づいてきた。


「おいおい、みっともねえガキだな」


「あぁ?」


 俺は機嫌が悪いのもあって、そいつを睨みつけた。


「実技試験のゴーレムを史上初めてぶっ壊したっつーから、どんなすげえやつかと思ったら……まさか身内がいねえと嫌だって喚くガキだったとはなぁ」


 アリアと同じか、少し年上の男子生徒だ。逆立った金髪に、質の良さそうな装飾品。どこぞの名門貴族の子弟だろう。


「そんなブスのお姉ちゃんに頼ってるようじゃ、試験にだけ強いタイプだろうな。実戦じゃ使い物にならねえ臆病者だろ、お前」


「今なんて言った?」


「臆病者のシスコン野郎」


「その前だ! アリアがブスだと!? 目ぇ腐ってんのかボンクラが!」




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