第7話 死ね、変態魔族め!

「あぎゃあ!? また君たちぃい~!?」


 奇形魔族が怯んだ隙にアリアが飛び出す。赤髪の少女を抱えて、距離を取る。


「大丈夫!? 怪我はない!?」


「お姉さん……? 無事だったんですね。私、てっきり……」


「うん、わたしたちは大丈夫。一緒に逃げよう!」


 アリアは他の子供のところに駆け寄り、手を引いてくる。


 その間に、赤髪の少女はアリアから離れて奇形魔族のほうへ歩んでいく。


「あれ!? ねえ、ダメだよ!」


 アリアの声に振り向かず、赤髪の少女は俯く。


「いいんです。私のことは放っておいてください……。どうせ、助かっても生きていく場所なんてないですから……」


 今にも泣きそうな顔が印象的だった。


「いっそここで囮にでもなったほうが、誰かの役に立てるから……」


 バカなことを言うな!


 俺は少女の手を強引に引っ掴んで止めた。


「お前は間違ってる!」


 牽制射撃をしながら、俺は声を荒らげた。


「生きていく場所がないなら作ればいい!」


「でも私は……」


「純血かハーフかは知らないが、魔族なんだろう。そのせいで人間にいじめられて、捨てられて、こんなところまで来てしまったんだろう」


「なんでわかるの……?」


「お決まりなくらい、ありふれてるからな」


 俺が魔王だった頃も、いや、魔王になる前から、数え切れないくらい見てきた。


 見た目も特性も人間とほとんど変わらない魔族は、人間と共存できていた。それがゼートリックの侵攻をきっかけに、魔族と一括りにされ、迫害されるようになってしまったのだ。


 ゼートリック系魔族と違って、人間に害を為すことなどなかったというのに。


 だから俺はあの頃、人間を敵視していたし、原因を作った南の魔王ゼートリック4世とも敵対した。


 同胞が生きていく場所を作るために。


「だからって、こんなところで死ぬな。負けるな。俺がお前の味方になってやる!」


「わたしも! わたしも味方になるよ!」


 赤髪の少女を、背後からアリアが抱きしめる。


「お姉さん……」


「生きる場所がないんならね、わたしたちがなんとかするから! わたしたちと一緒に行こうよ!」


「でも私、魔族だから……人間の敵だから……」


敵じゃないよ! あの子たちを守ってくれてた、いい子だもん!」


 アリアの発言に、思わず口角が上がってしまう。


 お人好しめ。


 だが、俺にはない高潔さだ。それでこそ勇者となる者! 後で褒めてやるぞ!


「もうひとつ、お前は決定的に間違ってる」


 赤髪の少女が俺を見上げる。


 俺は奇形魔族を睨みつける。


「この程度の窮地、俺なら誰も死なせずに切り抜けられる」


 俺は牽制射撃を止め、より強力な魔法のために両手で魔力を練り上げていく。


 その隙に奇形魔族は傷を再生させ、汚い声で叫ぶ。


「あぁああ! 痛い、楽しくないぃ! もうみんな死んじゃえぇ!」


 まったくもって醜悪なやつ。


 もし同胞だったとしても、こんなやつは生かしておけない。


「死ね、変態魔族め!」


 両足を踏ん張る。両腕から、練り上げた魔力を一気に放出する。


閃爆魔砲ブラストキャノン!」


 高熱を伴う魔力の塊が、奇形魔族の巨躯をまるごと飲み込む。


 魔力はその背後の壁を融かしながら突き進み、はるか先で爆発する。


 轟音とともに、火傷しそうなほどの熱風が吹き荒んだ。


 奇形魔族は跡形もなく消し炭となった。


「ふん……こんなものだな」


 アリアも赤髪の少女も、声も出せないまま目を見張っている。


 俺の魔法の威力が、想像を遥かに超えていたのだろう。


「……す、凄い……凄いよぉ! さすがカイン!」


 やがて感嘆の声を上げるアリア。


 俺は制止すべく手を突き出す。


「今は抱きつくな。――ごふっ!」


 吐血と同時に両腕、両足からも血が噴き出す。


 立っていられず、崩れ落ちる。


「カイン!?」


 地面に叩きつけられる前に、アリアに抱きとめられる。


「なんで? どうしてカインが血塗れになっちゃうの!?」


「う、ぐ……」


 湧き上がってくる全身の痛みに、声を出すこともできない。


 代わりに、赤髪の少女が口を開く。


「魔法を使った反動だと、思います……。体の強さに見合わない魔法を使うと、こうなるって……」


 本来なら、強力な魔法を使うときには身体強化魔法も併用する。だが、今の俺の魔力では、併用できるほどの余裕はなかったのだ。


 まあ、死にはしない。魔力が回復してから、治療魔法を使えばいい。


「そんな! それじゃあカイン、死んじゃうの!? わ、わたしのせい? みんなを助けてってわたしがお願いしたから……!?」


「……そうかもしれません……。私の、味方になってくれるって、言ったのに……」


 いや、大したことないんだって。


「どうすればいいの!? どうしたらカインを助けられるの!?」


「……わかりません。治療魔法なんて、私には使えないですし……」


「うぅぅ……うぁああん! カイン~! 死んじゃやだぁああ!」


 泣くなよ! 死なないんだって!


「ごめんごめんごめん~! いなくなっちゃやだぁあ! 目を開けてぇえ!」


 って、痛てててて! そんなにきつく抱きしめるな! やめろって! 痛てええ!


 やばいやばいやばい。感覚がなくなってきた。痛みさえ薄れて、意識が……。


 いや? 意識、はっきりしてるな?


 目を開けると、アリアの全身がほのかに発光していた。


「……アリア?」


「カイン! 目が覚めたの!?」


「その光は……?」


 そこでアリアは初めて気づいたらしく、自分の両手や体を見やる。


「なにこれ?」


 戸惑うアリアをよそに、俺は自分の体を確認する。怪我はすっかり治ってしまっている。


 そうか、と俺は確信する。


「覚醒したんだ、アリア」


「覚醒? わたしが? もしかして、勇者様の力!?」


「いや、どうだろう……」


 俺は頭を抱えた。


 覚醒には違いないが……なんで癒やしの力なんだ!?


 俺の知ってる勇者アリアは、癒やしの力なんて持ってなかったぞ!?




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