第24話 温泉大作戦!?

 心地いいお湯に身を投じてしばらく。

 ぼーっとしている俺に向かって、一人の冒険者が声を掛けてきた。


「よーォ相棒! まさかお前とここで会うなんて思わなかったぜェ。いや~、ここの風呂は堪んねぇよなァ」


 えーっと、どちら様でしたっけ?

 そんな言葉が、口を出る寸前で引っ込んだ。


 頭に栗でも乗せているのかとツッコミたくなるようなトゲトゲ頭と、その気になれば凶器として突き刺せそうな逆三角形の顎ヒゲ。昨晩、ウェイトレスさんに三人分の酒を持って来させたのがこの男、シャプソンだ。


 酒に酔った勢いもあったけれど、たぶん、お互いにどこか似た雰囲気を感じ取ったのだろう。酒が入って三十分も経つ頃には、俺たちは打ち解けていた。


「おお、シャプソンじゃないか! お前もここに泊まってたのかよ?」

「いや、俺はただ風呂に入りに来ただけだぜェ。ここの風呂は最高でよォ。なんつーか、週に一回は入らねェと気が済まねーのよォ」

「ふぃ~~。まったくもって同感だぜ、シャプソン」


 全身に切り傷を刻んだガタイのいいモヒカン頭が、よっこらせと俺の隣に腰を降ろした。


「よっ、アンちゃん!」

「うおっ、モヒカンヌまで!?」


 モヒカンヌもまた、昨晩仲良くなった冒険者の一人だ。

 けっこうな肥満体形だが、本人曰く、それは敵の油断を誘うためであって、脂肪の内側にはギッシリと筋肉が詰まっているらしい。どこまで本当かは分からんが、浴槽から溢れ出たお湯の量を見た限り、かなりの重量なのは間違い無さそうだ。


「ここの風呂は一部の冒険者たちから”週越しの湯”って呼ばれていてな。この風呂に入らねぇと週が始まらねぇ、週が始まらなきゃ一日が始まらねぇ、一日が始まらなきゃなぁんにもできねぇってなヤツもいるくらいだ。もちろん俺とシャプソンもそのうちの一人だぜ?」

「へぇ、そいつはスゲーな。でも、そう言いたくなる気持ちも分かるぜ。広いし綺麗だし露天スペースまである。一日の疲れもすっ飛ぶってなもんだ」

「なんだよ、疲れるようなことでもあったのか?」


 シャプソンがニヤケ面を向けてきたので、俺は今日一日の出来事を語った。

 ナルシスからクエストを譲ってもらったこと、そのクエストが闇バイトだったこと、そしていろいろあって指名手配犯のギギドドを捕まえたこと。


「マジかよォ、まさかお尋ね者まで捕まえちまうとはなァ! おい相棒、この俺シャプソンが断言してやる。お前は将来サイコーの冒険者になれるぜェ!」

「ダハハハ、間違いねぇ! 案外、こういうヤツが歴史に名前を残すのかもしれねーなッ!」

「へへっ、そりゃそうよ。なんたって俺はレイ様だからな! 魔王を打ち滅ぼし世界に平和を齎す英雄――他の誰でもない、勇者に相応しいのはこの俺だ! そうだお前ら、もし良かったら俺のパーティに入らないか? もちろん最初は仮のパーティで構わない。それで互いに様子を見て、合いそうだなって思ったら――」

「いや、そいつぁ遠慮しておくぜ」


 数秒前までは和気あいあいとしていた空気が、一瞬で凍てつくのを感じた。ひょっとしたら失言だったかもと思ったが、返ってきたのは予想だにしない言葉だった。


「魔王が封印されてから早数百年……冒険者ってのは、昔と比べて随分と様変わりしたって話だ。田舎者いなかもんのお前は知らんかもしれねぇが、正義の心で冒険者やってるヤツなんざ殆どいねぇのさ。富・地位・名声……冒険者をやる理由なんてそんなモンだ」


 モヒカンヌが言葉を切ると、シャプソンまでもが似たようなことを言い始めた。


「魔王復活のときは近い。そう言われ続けて十年~二十年と時間が流れた。正直、このまま復活しないんじゃねェかって気もしてくるぜェ。それによォ、仮に魔王が復活したとしても、そのときは勇者様に任せればいいんじゃねーのかァ? わざわざ勇者でも無い有象無象が頑張る必要なんて無ェってことよォ。そういうワケで、魔王と戦おうなんてヤツのパーティに入るってのは考えらんねェなァ。悪く思うなよ、相棒!」

「悪いことは言わねえ。冒険者をやるってんなら自分の欲望を満たすためにやりな。ただでさえ命賭けなんだからよ」


 そう言って、モヒカンヌは浴槽を出て行き、シャプソンもそれに続いた。


 二人が去ったあと、俺はなんとも言えないモヤモヤ感に襲われ……気分を変えるべく、露天スペースへと足を運んだ。


#


 露天スペースに赴くと、そこにも数多くの冒険者が居た。そのなかに、シャプソンやモヒカンヌ同様、昨晩仲良くなった冒険者の姿が二つあった。


 一人はロイド。

 俺より四つ年上の十九歳だ。

 細身長身の優男といった風情だが、ナルシスとは異なり己惚れた感じはしない。

 そしてその隣に立つのがブレイブだ。

 ブレイブもロイドと同じ十九歳。

 ロイドとブレイブは表裏一体って感じで、ブレイブは背が低い。その割には力が強いそうで、それは鍛え抜かれた肉体を見れば一目瞭然だ。


 昨晩出会ったばかりの二人だが、見ただけで分かるくらいに挙動不審だった。俺はゆっくりと二人に近付き、背後から声を掛けた。


「オイお前ら。そんなにソワソワしてどうしたんだよ?」


 すると二人はビクゥッ!! と背筋を震わせ、慌てたようにこちらへ振り向き……そして、ほうっと安心したように息を吐いた。


「なんだ、レイくんか。まったく、脅かさないでほしいものだね」

「ったく、心臓が止まっちまうかと思ったぜ」


 うーん、妙な反応だな。

 俺を見て安心した――ということは、逆に考えると、俺じゃなかったら安心できなかったのか?


 指摘すると、二人は「うぐっ」と息を呑んだ。


「レイくん、君ってば意外と勘が冴えているみたいだね?」

「どうするよロイド。俺個人としては、レイには教えてやっても良いと思うけど? 昨日喋った感じ、コイツは俺らと同類だろ」

「うぅむ、どうだろうねえ?」


 二人はしばし逡巡した後、意を決したようにヒソヒソ声で語り始めた。


「実はこの風呂場なんだけどね、歴戦の勇ある者が検証した結果、ある疑惑が浮上したんだ」


 高難度ダンジョンに挑む冒険者のようなロイドの表情にやや気圧されつつも、俺は続きを促した。ロイドを引き継いだブレイブは、まるで闇商人のような眼差しを向けてきた。


「この木の衝立……一見するとなんでもないように思えるけどね。実はこの衝立の先には、女湯があるんじゃないかってウワサがあるのさ」


 その言葉を耳にした途端、俺のスイッチが真面目モードに切り替わった。


「ロイド、ブレイブ。その話、詳しく聞かせろ!」


 頷きを返す二人の表情は、命賭けで戦う冒険者のそれになっていた。 


――――――――――

ここまで読んでいただきありがとうございます!!

本作の更新ですが、まだストックは残ってるのですが、1度ここで止めさせていただきます。すみません!!

ちょっといろいろと作戦を考え中です。

5月の間は、現在投稿中の【ダンジョンのお掃除屋さん~ダンジョン配信大好きだけど画面に映るゴミが気になりすぎるので、お掃除していきます!~】に注力すると思いますので、こちらの作品も☆☆☆や♡やフォローなどで応援して頂けると幸いです!!m(__)m


 

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勇者の剣が抜けなかった俺が出会ったのはポンコツ魔女っ娘、中二剣士、爆発ヒーラーでした。全員美少女だけどクセが強すぎるんだが?? 藤村 @fujimurasaki7070

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