不穏な動き


 翌早朝から馬車へ荷物の積み込みが行われていた。

 村人に話を聞くと、町へ行くのはもう少し先だったようで、今回のキャラバンは想定外だったため荷物が中途半端だったらしい。

 それもあり、荷物はそれほどなのだが、積み込みに時間がかかったらしい。


「普段、荷馬車の警護をしている村の連中だ」


 紹介されたのは、腕っぷし自慢と見た目で分かる、筋骨隆々の若者といぶし銀なおっさんの混成4名だった。

 それぞれの手には、弓と剣とを持っていた。


「こっちは、町まで案内するついでに荷馬車の警護もお願いするマモルだ」

「よろしく」


 村長ダヒムに紹介してもらった4人の警護の内、長であろういぶし銀のおっさんに向かって手を出すと、深堀の笑顔で俺の手を握り返してきた。


「よろしく」


 握り返された瞬間、手に圧力を感じた。

 グローブ越しに感じるのだから、素手ならばかなり痛みを感じるくらいには握られているかもしれない。

 その意図を感じて俺も握り返す。


 外骨格服ボディーアーマーの人工筋肉がググッと膨らむと、いぶし銀のおっさんの眉が少し跳ねた。

 おっさんの手から力が抜けるのを感じると、俺もすぐに力を弱めた。


「ふふっ――オードウェルだ。あっちの若い奴らは、リンダ、ホルグ、ノッグだ」


 若い――と言っても、俺よりだいぶ年上と思われる――3人から挨拶を受け、俺も軽く挨拶をして答える。


「村長からは、腕っぷしが強い奴としか聞いていないが、実際、どれくらいできる?」

「野盗18名を倒せるくらいだ」


 6人と12人に分かれており、しかも森の中で不意打ちをしての結果だったが、平地でかかってこられても問題なく撃退することができると考えているので、こう答えるにとどめた。


「そいつはすごいな。今回の旅程は楽できそうだ」


 ホルグが茶化すように反応した。


「ここのところ、長いこと野盗が出てくることはなかったから少したるんでいるんだ。だが、シュナハのこともあるからな。警戒はしてくれ」

「分かった」


 寝る前と早朝に道程と森を調べておいたが、野盗の死体には大量の腐肉漁りが群がっていた。

 道に関しては特にこれといった問題はなさそうだったが、死体がある場所とは全く違う森の中に集団で固まっている人間の群れが居たのでここは注意が必要そうだった。


「さぁ、出発だ」


 村長ダヒムの号令で荷馬車の準備ができたことを知らされた。

 



 ずんぐりむっくり、しかし筋肉質と分かる大柄の馬2頭に曳かれた馬車は、土と砂利が混ざった道をゴトゴトと牧歌的な音を立てて進んでいく。

 馬車には御者と、幌の骨組みの上に弓を持つリンダ。

 馬車の三隅には、前からオードウェル、ホルグで後方はノッグと俺という形になった。


 俺は徒歩の3人とは違いバイクに跨っているので、初めこそ異様な目で見られていたが、異様な光景の方が野盗やモンスターに襲われる可能性が低いことから、異様は異様なりに歓迎された。

 休憩を挟みつつ、歩き始めてから数時間が経った。


 町までは2日の道程を予定しており、一日目は無事に終了したことになる。

 翌日も朝から歩き出したが、ここで問題が起こる。

 いや、問題は前々日から分かっていた。


「森に野盗だと?」

「あぁ」


 頷くと、オードウェルはアゴに手をやって悩み始めた。

 俺が殺した野盗と同じように、森の中にある熱源だけで判断しているが、まともな人間の集団だったら森の中でこちらを伺うようなことはしないだろう。

 現に、一人だけ平原に出て来て俺たちを見ている奴が居る。

 これを怪しいと言わず、なんというか。


「リンダ! なんか見えるか!」

「いや、分からねぇ」


 一段高いところに位置しているリンダも、オードウェル同様に草の影に隠れている野盗が見えないようだ。


「今は頭を上げることなく、完全に伏せている。俺が動いてから、ずっと身じろぎしていないから、かなりの手練れだ」

「疑うつもりはねぇが、本当に居るのか?」

「こっちは、空に目が付いている仲間が居るんだ。間違わないさ」


 そういうと、オードウェルは空を見上げた後、再び俺を見た。


「嫌な予感しかしねぇな。ちょっと急ぐか」


 一言、呟くと、オードウェルは御者に何か話し始めた。


「全員、馬車に乗れ。急ぐぞ」


 号令を下すと、バイクに跨っている俺を除く3人は馬車に乗り込み、それを御者が確認すると手綱をはたき、馬を少しだけ加速させた。


「斥候が動いたら教えてくれ」

「分かった」


 ――とは言ったものの、オードウェルの「嫌な予感」とは裏腹に、野盗は俺たちが随分と離れてから動き出した。

 その後も監視していたのだが、斥候が野盗の群れに戻っても、その群れは特に目立った動きをすることなくその場にとどまるだけとなった。



「バレていた……か?」


 ジャスパーは草の上でひっくり返り、空を見上げながらどこに問題があったか考えていた。

 しかし、相手にこちらの位置がバレるような行動はしていなかった。


 だが、一人よく分からない乗り物に乗った奴を除いて、歩いていた護衛を全て馬車に乗せて急ぎここを離れていったところを見ると、自分の存在がバレていたとしか思えなかった。

 十分、いや十二分に距離が取れてからゆっくりと、馬車が遠くに行っていることを確認しながら起き上がると、急いで仲間の元へ戻った。




「なんで合図を出さなかった?」


 野盗の頭であるエルドアは、戻ってきたジャスパーを見るなり、睨みつけて問うた。


「様子がおかしかった。何かが違った」

「違うぅ?」


 隻眼でありながら、残った目は野獣のように荒々しく、睨みつけられれば身がすくむ思いをする。

 それに、荒々しいだけではなく、戦場を駆け回った体は傷だらけだが、そのどれもが浅く、動きに支障が出ていないのが、頭の強さを表していた。


「イチパシ村の連中だろう。せっかくの獲物だってぇのにビビりやがって」

「バーレの奴らが死んだのと同時に、新しい人間が増えていた。多分、あいつがやったんだ」


 バーレとは、自分たちが支配している場所よりやや南を根城としている野盗の連中だ。

 なるべく関わらないようにしているのだが、それでもいざこざと言うのは発生してしまう。


 それをなくすために定期的に使者を交わしているのだが、それが昨日、来なかったのだ。

 だから使者は周囲を探索したのだが、バーレの連中が居なくなっていた。

 エルドアはこれ幸いと南に下ってきて、初めての仕事に馬車を襲う計画を立ててジャスパーを斥候として放ったのだった。


 しかし、ジャスパーとしてはバーレの連中が居なくなったのは新しく護衛に参入していた正体不明の傭兵――と思われる――が犯人、もしくはそれに類する人間と考えた。


「まぁ、良い」


 ペッ、とエルドアは唾を吐き捨てた。


お前ジャスパーが言うことが本当なら、護衛たちあいつらが居ない村を襲えばいいだろう」


 「そうだよな?」と凶悪な笑みをジャスパーに見せるエルドア。

 ジャスパーとしては、それでも不安はぬぐい切れなかったが、野盗に所属している身として、頭のエルドアに逆らうことはできないので、頷くしかなかった。



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