冒険者ギルドへの登録

 野盗の斥候らしき熱源を見つけた後、何かやってくるかと思っていたが杞憂に終わった。

油断なく、急ぎ目に来たおかげで予定よりだいぶ早く町へとやってこれた。


「ここが、アリーダだ。なんとか着くことができたな」


 オードウェルが息をくと、仲間もそろって安堵の息を吐いた。

 俺が野盗の存在を伝え、途中までみな、馬車に乗って急いだが、それでは馬が消耗してしまうということで、ところどころで歩いたのだが、それでも速足だったので人間の方も消耗してしまった。


「俺たちは顔が分かっているからそのまま入れるが、マモルは金が要る。持っているか?」

「問題ない。少ないが手持ちはある」


 そういい、サイドバックから取り出したのはくすんだ銀貨だ。

 事前に調べた、流通している貨幣から平均的な損耗度合いを調べ作った――つまり贋金にせがねだ。

 万が一に備え、殺した野盗たちからも金を回収しておくんだったと今さらながらに思う。


「オードウェルか。今回は早いな」


 門兵の許可を取るために並んでいると、やっと俺たちの番が回ってきた。

 2人居るうちの、2人とも揃いの金属の胸当てをしている。

 太ももは革の鎧に、腰にはショートソードを帯びている。

 これらも事前に調べていた通りの、小規模な町の門兵といったいでたちだった。


「あぁ、腕っぷしが強い奴が町に来てな。ここアリーダに来るのを手伝ってもらったんだ」


 オードウェルから紹介を受けると、俺は一歩前へ出た。


「昨日から、彼らに世話になっている。入場料はここで払えば良いのか?」

「あぁ、そうだ。銀貨5枚で1か月。それ以上に滞在する場合は、さらに――といった具合だ」

「分かった」


 金を払おうとすると止められ、その代わり、対応してくれた門兵は近くのドアを荒く叩くと、その中から別の兵士が現れた。


「初めてアリーダに来たそうだ。対応してくれ」

「分かった」


 「入んな」と別室に案内される。


「オードウェル。ここまでありがとう」

「途中、どうなるかと思ったが、助かったよ」

「帰りは大丈夫か?」

「帰りは、馴染みの冒険者に頼むから、問題ないさ」

「そうか」


 ガシッ、と握手をすると、オードウェルたちの馬車はそれまで通り、ギシギシと音を立てながら町の中へと入っていった。


「すまない。待たせたな」


 律儀にドアを開いたまま待っていてくれた兵士に礼を言い、案内された別室へと入っていく。


「お前は、オードウェルたちと同じ村から来たのか?」


 兵士は椅子に座るなり問うてきた。


「いや、旅をしている最中に、野盗に襲われている子供を助けた。ここへは、その腕を見込まれて、護衛として共に来ただけだ」

「そうか」


 兵士は、顔の前を指ではじくようなポーズをとった。

 多分、ヘルメットを脱げってことだろう。

 嫌過ぎるが、人相が割れていない奴を町に入れるほど、管理は甘くないだろう。

 金を払えば通してくれなくもなさそうだけど、ここで目立つのは良くないと考え、素直にシールドを開けた。


「――若いな。幾つだ?」

「19だ。ところで、俺くらいの年齢の奴が冒険者になろうとするのは、問題があるか?」


 小さな羊皮紙にガリガリとペンで俺の身体的特徴を書きながら、再び俺を見る。


「いいや、問題ない。この町で有名な悪ガキは13でなったし、俺が知っている中で最年長は60歳でなった」


 「幅広いな」と感想を言おうとしたら、兵士は「どちらも、初日で死んだがな」と笑った。

 これから冒険者になる人間に笑えない話をするのは、こういったところに詰めている兵士のさがだろうか。

 「もういいか?」と兵士に断りを入れ、シールドを元に戻す。


アリーダでの仕事は、冒険者で良いのか?」

「そうだ。それくらいしか、やることもないしな」

「違いない」


 兵士は笑いながら、俺から銀貨5枚を受け取る。


「ようこそ、アリーダへ。短い期間かもしれないが、犯罪をしない間は歓迎する」

「ありがとう」


 ガシッ、と力強く握手をすると、互いに立ち上がった。


「冒険者ギルドは、この道を真っ直ぐ行った左の建物だ。その辺りで一番、大きくて騒がしいのがそうだから迷いはしないだろう」

「重ねて、礼を言う」

「なんの」


 初めに対応してくれた2人の門兵にも挨拶を交わし、俺は兵士に教えられた通りを、バイクを引きながら進んでいく。


〈上手に潜りこめたじゃない〉

〈任せろい〉


 ホロディスプレイに表示されているルッカの軽口に、こちらも併せて答える。


〈ルッカが作ってくれた銀貨、疑われなかったな〉

〈当たり前でしょ。疑われる物を作る方が難しいわ〉


 製造するにあたり、材料の種類は同じだが混合比は細かく変えてある。

 加工にも注意を払い、歪みやくすみも細かく変えてあるので、一つとして同じものはないこだわりようだ。

 おかげで、当分の間は働かなくても食っていけるだけの金が俺には持たされている。


〈こっちは問題なく行けそうだけど、そっちはどんな状況だ?〉


 この2日で、俺は近隣の住民にコンタクトを取り、村の中へ潜入することができた。

 と同時に野盗ではあるが戦力分析も済ませ、そして村人との友好関係を築きながら、新しい町へと入ることができた。

 自慢じゃないが、結構、良い道筋を来ていると思う。


〈私も、問題なくやっているわ。狭いながらも楽しい我が家を目指して、白い家を建てているの〉

〈……白い家?〉


 〈ほら〉とルッカが見せてきたのは、基礎と一部、壁が出来上がった合板製の家とその完成図だった。

 なんというか、非常に牧歌的な家だ。

 犬も居そうな感じ――と言うか、これこそ俺が読んでいる本に出てくるような、古い時代の一軒家そのものだった。


〈これはいったい、どういう……〉

〈住む家が必要でしょ? それに貴方、「住むならこういう家が良いなぁ~」って言っていたじゃない〉


 「そんなこと言ったか?」と不思議に思い記憶を漁ると、それほど深くないところから記憶がひょっこりと出てきた。

 確かに言った。

 薄っすらとある、救難ポッドに乗る前の記憶では、俺は両親と共に郊外の一軒家に住んでいたはずだ。


 ルッカの見せてくれた完成図とは全く違う、もう少し近代的な家だったが、宇宙コロニアル船イニシスタの狭い部屋に辟易としていた時に、つい口からこぼれてしまった記憶があった。


〈あっ、あぁ、ありがとう。思い出したよ〉

〈まだボケるには早いわよ〉


 まさか、あんな他愛もない愚痴をしっかり聞いていて、それを叶えようとしてくれているとは微塵も思っていなかった。

 ありがたい反面、仕事のリソースを割き過ぎていいないか心配になってくる。


基地ベースの進捗状況は?〉

〈地盤調査の途中よ。終わったところから堀を作っているけど、手が足りないわね〉

〈遅れが生じそうなら、俺の名前を出して追加の機械を送ってもらうように連絡を入れてくれ〉

〈分かったわ。ありがとう〉

〈なんの、なんの〉


 最後に、航空写真に基地ベースの完成図を重ねたデータが転送されてきて、その基地ベースの大きさを見て少しだけ引いた。

 ルカが引いた青写真なので、予定の期間内に終わる大きさなんだろうけど、この基地ベースの大きさはだと、運営にとてつもない人数が必要になりそうだ。


『見なかったことにしよう』


 甘えっぱなしになってしまうが、俺の名前で出した要求はアスクが最優先で叶えてくれるはずだ。

 だから、間に合わなそうになったら、ルッカの裁量で追加の重機を要求するだろう、と全ての作業をルッカに任せ、俺は目の前の冒険者ギルドに意識を向けた。


 一階が石造り、二階部分は木造という作りで、外見は古いがガッシリとした作りをうかがわせる。

 冒険者ギルドの出入り口付近で邪魔にならなそうな所へバイクを停め、建物の中へ入っていく。


 室内は思ったより明るく、外観以上に清潔感があった。

 中へ入ると、一同、俺の方を注目した。

 それに負けず、俺も周りを見渡す。

 雰囲気としては合同訓練前の、少しヒリついた雰囲気が感じられる。


 しかしそれ以上、何も起こらないのはほぼ全ての人間が腰や背中に帯びている、剣や斧の存在だろう。

 見た目から「人を殺せる武器」を持っている人間以外は杖を携えており、何も持っていない方が少数となっている。


「いらっしゃいませ。依頼でしょうか?」


 受付で対応してくれたのは、ネコ科を思わせる獣と人間を合わせたような獣人だった。


〈この世界独自の進化を遂げた生き物ね。できたら、サンプルが欲しいわ〉

〈それはもう少し待ってくれ……〉


 宇宙コロニアル船イニシスタでは人間しか住んでいなかったので、俺だって珍しい。

 でも、会って早々、「サンプルとして、貴女の遺伝子をください」なんてこと言ってはいけないことくらい分かっている。


「あー……、冒険者になりたいんだけど」


 後方のカメラ映像を見ると、酒場になっているギルド内に居るほぼ全員が俺の一挙手一投足を観察している。

 不躾な視線だが、新人の洗礼として受け入れるしかないだろう。


「今までどこかで依頼を受けたことはありますか?」


 そんな空気の中でも、受付嬢は顔色一つ、表情一つ変えることなく笑顔で対応している。


「いや、ない。ここが初めてだ」

「かしこまりました」


 受付嬢はバックカウンターにしまってあったボードを取り出すと、俺の前へ置いた。

 それは木製とも陶器製とも言い難い不思議な光を放っており、中央には手形が描かれている手形承認キーの様なものだった。


「こちらに手のひらを合わせてください」

「分かった」


 言われるがまま手を手形に乗せると、ポッと淡い光を放ちすぐに消えた。


「ありがとうございました」


 手を離すと、受付嬢は俺が手を置いていた部分をまじまじと見つめた。


「魔力値は30――レベル1ということになりますが、問題はないですか?」

「今まで測ったことがないから分からないんだが、普通より低いっていう理解で問題ないか?」

「そうですね。低いというより、一般的と言った方が差し支えないと思います」


 話を聞いてみると、魔力というのは誰にでも備わっているもので、その代わり量に差があるようだ。

 俺が言われた「レベル1」というのは一般的な数値で、その一般的というのがこの場合、普通の市民と同等――つまり、冒険者に不向きな魔力量らしい。


「魔力が無いと、冒険者にはなれないのか?」

「そのようなことはありません。ただし、選べる仕事が限られてきます」

「選べる仕事と言うのは?」

「戦闘系の仕事は、まず受けることができないと考えていただいて結構です。受けられる仕事の一例としては、この町の近郊で薬草摘みなどが一般的ですね」


 薬草摘みと聞き、先の村に居たシュナハを思い出した。


「それでも、身分の証明として使えるカードは発行されるだろうか?」

「冒険者ギルドのカードですか? 発行されますよ」

「では、それで頼む」

「かしこまりました。発行手数料に、銀貨20枚必要となりますが、問題ありませんか?」

「構わない」


 俺の返答を聞くと、受付嬢は再びバックカウンターを向き、ゴソゴソと探し始めた。

 その間に、バックの中から贋金を取り出しカウンターに並べて置く。


「では、カードはこちらになります」


 そういい、受付嬢はカードを手形が付いた板にスライドさせるように置くと、そのカードに模様が浮かび、そして文字になった。


「こちらが、あなたのギルドカードになりま――」


 俺に出来立てのカードを渡そうとした瞬間、カードの記載情報に不備があったのか、受付嬢はカードをマジマジと見た後、俺に視線を向け再びカードに目をやった。


「少々お待ちください」


 受付嬢は足早にバックドアからスタッフルームへと引っ込んだ。



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