救い、そして消した
「ハッハッハッハッ――」
しまった。
気づかない内に、森の奥へ入り過ぎた。
「お嬢ちゃん、待ちなって!」
「大丈夫だからさッ!!」
背後からはみすぼらしく汚れた鎧を着た、醜い兵士たちが走ってきてる。
言葉こそ荒くないので、一見すると森に迷い込んでしまった敗残兵に見えるけど、一緒に居た数人の女の人が酷い有様になっていた。
たぶん、何度も何度も殴られたんだろう。
服は乱れ破れて、殴られた顔は赤黒く腫れ上がり、流れ出した血は汚く乾いていた。
『早く逃げないと』
考えたと同時だった。
潰れた顔の女の人と、目が合ってしまったのだ。
「あっ」
「あ”っ……」
そう呟いてしまった。
私も。その女の人も。
そしたらすぐに、この追いかけっこが始まった。
相手は鎧を着ていて、こちらはこの森に慣れている。
そう考え、なんとか木々に紛れながら逃げていたけど、そんな小手先の逃走に訓練された兵士が騙されるわけもなく、距離はあっさりと覆され――。
「捕まえたっ!」
「キャァッ!?」
ガッ、と髪の毛を掴まれて、そのまま引き倒されてしまった。
逆さに映る兵士の顔は、まるでゴブリンのように醜悪に歪んでいた。
村長が言っていた。
『長く人里から離れざるを得なかった敗残兵は、獣へと変化していることがある』と。
見た目も、吐く息も、体臭も、その全てが獣どころか、モンスターだった。
「たっ、たすけ――たす――」
必死に助けを要望にも歯の根が合わないため、まともに声を出すこともできない。
『逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ』そう必死で考えても、恐怖で体が全く動かない。
『誰か、助けてっ!』
□
「その子から、手を放せ」
少女の髪の毛を握り、地面に引きずり落としている男に銃口を向け、静かに言い放つ。
「なんだぁ、お
「通りすがりのもんさ」
突然の来訪者に、男の怒気が増し、それに触発された周りの野盗の殺気も大きくなっていく。
「不用意に動かない方がいいぞ。こちらの方が早く動ける」
銃口は少女の髪を握る男に向けたまま、しかし
拳銃があるような世界ではないが、似たような武器があるのか、それとも魔法を警戒してか、男は少女の髪の毛から手を離した。
「こっちへおいで」
そういうと、少女は震える脚で躓きながらも俺へと向かい歩き出した。
一歩、二歩、三歩、と歩いてくる。
四歩目が地面につこうとした瞬間、腰に手を回そうとしていた男が動いた。
「シ――」
ガンガンガンガン
相手が何かをするより早く引き金を引き、弾丸を飛ばす。
一瞬、瞬きすら必要ないほどの刹那の間で、野盗の上半身、しゃがんでいた奴はほぼ全身が消え去った。
「えっ」
「後ろを向くな。走れッ!」
PTSDを考慮し、少女から死体が見えないように俺が視界を防ぎ、そして村の方へ向かい走らせる。
村までの距離で熱源反応はなく、代わりに、今の発砲音を聞いた野盗の集団が何名かこちらへ向かって走り出した。
〈第一村人は殺したの?〉
こちらも負けじと、野盗の集団に向かい走り出した時に、ルッカからそんなことを言われた。
〈野盗だよ。動くなって言ったのに、動いたからやったまでさ〉
〈あら怖い〉
〈それより、さっき助けた女の子の方は?〉
拳銃はホルスターにしまい、今は刀に手をかけたまま走っている。
野盗の動向に注視しているせいで、女の子まで手が回らない。
〈大丈夫よ。村に向かって全速力で走ってる〉
「よかった」と安堵の息を吐こうとすると、「残念、コケたわ」と心配になる報告をルッカがしてくる。
なんて心をざわつかせる奴だ。
いや、ありがたいけど。
トントントン、と生い茂る木々を抜け、走る。
十数秒も経たない内に、俺の耳に野盗たち鎧の擦れる音が耳に入る。
マップに表示される熱源反応と、こちらの飛距離を確認し、樹の上へと飛び上がる。
そして、空へと大きくジャンプした。
「ガラムス様、もう少しであいつら――」
何か話していた。
たぶん、さっき俺が殺した奴らがどの辺りまで進んでいるか、隊長格に説明していたのかもしれない。
着地すると同時にそいつを一刀両断し、振り上げざまに一人、振り返る間に一人、そして正面を向いた瞬間に一人、胴断ちをする。
〈お上手。早いわね〉
〈ありがとう〉
切られた奴らの血が噴き出す前に、再び飛び上がり駆け出す。
そして本隊――とはいうものの、すでに6人殺しているので残り12人と少なくなっている。
その中で要救助者は2名だった。
ドン!
なんの技術も要らない。
ただただ自らの質量を使っただけの衝突で、野盗4人をまとめて吹き飛ばす。
すぐさま刀を抜いて一人二人と続けざまに切り落とす。
「デァァァァア!!!!」
カン――
野盗の一人が背中から斬りかかる。
しかし、簡単に手で止める。
何の技術もない、力だけで切り落とさなければいけない鉄塊では、俺が来ている
「マジかよ」
間抜けな声を残し、野盗は首を斬り落とされた。
一瞬である。
どのくらい強かったのか、どのくらい栄華を誇ったのか分からない野盗の群れは、一瞬にして死体の山と化した。
「大丈夫か?」
残された、唯一の生き残りの2人に声をかける。
死んだような眼をした2人は、俺をちらりと見た後、野盗を見る。
そして言った。
――殺して――と。
「そうか」
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