第6章 開示2

「キスをして口を離した後に『もうやめちゃうの?』と言いたげなハルヒの上目遣い」

「む」

「あのハルヒがキスのおねだりだと」

 

「胸に手を当てると、今度は逆に恥ずかしげにうつむくハルヒ」

「まさかあの恥知らずがそんな」

「おお……信じられん」

 

「首筋に唇を当てると口から漏れるのは、切なげな熱く湿ったハルヒの吐息」

「くっ……反則すぎだぜ、それは」

「お、おいもうその辺で…」

 

「体を重ね、そして眉を寄せ、俺の胸に必死にしがみつくハルヒ」

「テメェこの野郎! 俺のハルヒに!」

「そのバカを押さえろ!」

「つ、続きだ!早く!」

 

「白い艶やかな裸の上に俺のYシャツを羽織るハルヒ」

「なっ」

「ハルヒの裸Yシャツだと……」


「そのまま俺の胸にもたれ、かすかに、しかし確かにハルヒは囁く」

「何て……言うんだ?」

「『キョン、愛してる』」

「……」

「……」

「……」


 鼻血でてんぞ、お前ら。さっさと拭け。


「「「………………お前もな」」」

「…………」







 ちり紙で鼻下を拭い、俺は周りの『俺たち』を見た。

 壁に向かって一人笑うやつ。天を仰いで神に祈りを捧げるやつ。気の抜けた顔で、肯き合いながら、ニマニマと奇怪な笑みを浮かべるやつ。どいつもこいつも実に不気味な事この上ない。何たるマヌケ面だ。

 そうか、俺はいつもこんな顔で朝比奈さんのことを見てたのか。自戒せねばなるまい。


「いやーホントお前ら聞いてくれて助かったよ。こんな惚気話、誰にも話せるわけ無いじゃねえか。正直苦しくてなぁ。で、ちょうど思い出したのがこの時間に集合してるお前らの事だ」

「……お前、まさかこの惚気話を言う為だけに、ここに来たのか?」

「実はそうなんだ」


 今すぐ腹を切れ。


「いや礼を言うのはこっちだぜ」

「まったくだ」

「ああ、俺たちの輝ける未来を指し示してくれたんだからな」


 近い将来、深刻な精神病にかかることが判明したわけだが。



 涼宮ハルヒ。

 お前はマルチな才能を持つウルトラスーパーデラックス女子高生だ。

 だがお前にはただ2つ、映画監督と男選びの才能が決定的に欠けている。


「お前はいい加減に素直になれって」

「明日になればこいつもわかるさ」

「そうさ。ハルヒ断ちをいっぺん経験すればな」

「ハルヒ断ちとはいい表現だな、ハハハ」

「ハハハ」

「じゃあそろそろお開きってことで」

「おっとその前に、せっかく揃ったんだ。俺たちの確約された栄光の未来を祝して、一本締めで締めようじゃないか」

「いいねえ」


 やらんでいい、帰れ!

 

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