第6話 無表情に隠された心

「あの……、私のひとりごとで、大変なことになって申し訳ありません。でも、何故、ルイス殿下が王子を辞める決断をされるんですか?」

と、私は聞いた。


「アリスが嫌がることをさせたくない」


 ルイス殿下は無表情のまま答えた。


 なんだか、確固たる強い意志が目に感じられるような気がする。

 よくよく見れば、無表情の中にも変化があるんだわ。


 ……と感心してる場合じゃないわね。


「じゃあ、婚約解消だけしてくだされば良かったのでは?」

と、私が聞く。


「それは嫌だ」


 すぐさま、ルイス殿下が答えた。


 ますます意味がわからなくなった。

 マーク兄様は理解したようで、あきれはてたようにルイス殿下を見た。


「ルイスは有能なくせに、なんだ、この変すぎる筋書きは? びっくりするほど、不器用だな? ほら、自分の言葉でしっかり説明しろ。アリスは、まだ何もわかっていないぞ」

と、ルイス殿下に言った。


 確かに。混乱してきただけだもの。


「アリスが王子妃になるのが嫌と知り、王子を辞めることにした。が、父に言っても、認めてくれない。だったら、認めざるをえないことをしでかそうと思った。俺の評判が落ちることを」


 は……? 


「ちょうどその頃、ピンク色の髪をした変な女がまとわりつきだした。調べさせると、男爵の養女になった女で、高位貴族の男に近づく、評判の悪い女だった。が、そこでひらめいた」


 もう、嫌な予感しかないわよね。


「アリスと婚約を解消し、こんな評判の悪い女と婚約したいと言いだしたら、父も王子を辞めさせると思い、すぐに行動に移した」


 うん、すごい発想ね。


「うっとうしかったが、まとわりついてくる女を追い払わずにいた。すると、すぐに噂がひろまった。俺が変な女を連れていると」


 まあ、私も、ピンク色の髪をした女性とルイス殿下が親密になっているという噂は耳にしていたもんね。

 そして、それを聞いた私は期待に胸が高鳴ったわ。すみません……。


「噂も広まり、もういい頃だと思い、アリスに婚約解消を告げた。すぐに、父の耳に入り、呼びつけられた。俺は王子を辞められないなら、あのピンクの女を王子妃にすると言った。父はグダグダ言っていたが、やっと王子を辞めさせてくれることになった。が、条件として、跡継ぎのいない公爵を継ぐことを言い渡された。今日、全てが完了し、王子を辞められたため、アリスに再度婚約を申し込みに来た」


 なんというか、すごい行動力ね……。


「ルイス……。変な方向に突っ走りすぎだろ?」

と、マーク兄様。


 が、ふと根本的におかしいことに気がついた。


「でも、私のことに興味がないですよね。なんで王子を辞めてまで、私と婚約したいんですか?」


 私の言葉にマーク兄様は盛大にため息をつき、ルイス殿下は固まった。


 あれ? なんか変な質問したかしら?

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