第7話 混乱してます

「鈍いとは思ってたけど、ここまで聞いてもわからないアリスもすごいな? 

ほら、ルイスも落ち込むな」

と、マーク兄様。


 え、また落ち込んでるの? 見た目は、美しい無表情のままだけれど。


 じっと観察してみる。

 あ、瞳がなんか訴えかけてきている気がするわ!


 なんだろう? なにかしら……?

 クイズみたいで、もやもやするわね。


 思わず、マーク兄様を見た。通訳をお願い!

 私の意図が伝わったみたい。


「二人とも、言葉を使え。会話をしろ。俺を通そうとするな……」

と、マーク兄様が面倒そうに言った。


 マーク兄様に仕切ってもらったら、早いのに。

 なんて思いながらも、美しい無表情の顔に目をむける。


 と、ルイス殿下の瞳が強く輝いた。

 なんだか覚悟を決めたように見えた。


 今から何か言うのかしら? 

 知りあって8年。初めて、ルイス殿下に興味がわいてきたわ。


 すると、ルイス殿下は私をしっかりと見つめてきた。

 そして、口を開いた。


「俺はアリスが好きだ。愛してる。アリスと結婚するためなら、何でもするつもりだ」


「「……」」


 その場が静まり返った。

 頭が言葉を理解できない。言われたことが何度も頭をまわる……。

 そして、つながった。

 

「えええええ!!!」


 思わず、絶叫してしまった私。


「8年もしゃべらなかったのに、しゃべったら、ド直球すぎてびっくりしたわ。

振り幅がすごいな……」


 マーク兄様が、あきれた声で言った。


「嘘でしょ……?」


 思わず、つぶやいた私。


「嘘ではない。俺は、アリスに嘘はつかない」

 

 ルイス殿下が、真剣な口調で即座に否定した。


「あ、いえ、すみません……。でも、全く、そんな気配もなかったから、信じられなくて……」

 

 混乱したまま、私が口走った。


 すると、ルイス殿下の頬がうっすらと赤くなった。

 それだけで、無表情の美貌が、あたたかみのある無表情の美貌に変化した。


 すごいわね、美形って。

 いろんな無表情を表現できる可能性があるなんて……。


 と、どうでもいいことに思考が逃げてしまう。


 ルイス殿下は、あたたかみのある無表情のまま、私の視線をとらえた。

 なんだか、心臓がバクバクしてきた。


「アリスに初めて会った時、好きになった。父に頼み込んで、婚約をとりつけた。8年間、月一回のお茶会が、俺の至福の時だった」


 え……? あの、修行のようなお茶会が? 

 それに、初めて会った時って、私が号泣した時よね?


 ブハッと、マーク兄様がふきだした。


「ルイス、重すぎるだろ。なんか、おもしろいな……」

と、大笑いしている。

 

 結局、頭が混乱しすぎて、思考がとまってしまった私。


「いろいろ、考えさせてください」


 なんとか、それだけ言って、逃げるように部屋へ戻っていった。

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