第4話 意味がわかりません

 茫然とする私に代わって、マーク兄様が質問した。


「ちょっと、整理させろ。つまり、ルイスは、ローラ嬢を好きになったから、アリスと婚約を解消したんじゃないのか?」


「ああ。目的は婚約解消。そのために、あの女を利用させてもらっただけだ」


 ルイス殿下の答えに、思わず私は言った。


「利用? でも、ルイス殿下の腕にぶらさがっていましたよね?」


 衝撃的な場面だったので、こだわってしまう。


「そうだったか? 利用させてもらうので、多少のことは放置していた」

と、美しい顔は無表情に答えた。


 え? まったく理解できないんですが……。 


「それに、あの時、アリスしか見ていなかったから覚えていない」

と、真剣なまなざしが、私をじっと見てくる。


 なんか、心が落ち着かない。

 苦手意識が強くて、まじまじと見たことはなかったからか、温度がある目にとまどってしまう。

 この人、人間だったのね? みたいな感じ……。


 マーク兄様が、はあーっとため息をついた。


「ルイス。圧倒的に表情が足りないのに、言葉もたりない。俺が口をだすのもどうかと思って我慢してきたが、鈍いアリスには何も伝わってないぞ。言いたいことがあるなら、ちゃんと言え!」


 鈍い? 私が? 全く話の意味が見えないけれど……。


 兄の言葉に、ルイス殿下はうなずいた。そして、私に向かって言った。


「では、単刀直入に言う。アリス、婚約してくれ」


「……」


 思わず、絶句した。

 この人は一体、何を言っているのかしら?


 マーク兄様が、すごい勢いで椅子を蹴って、立ち上がった。


「あ!? 婚約解消して、今度は婚約だと? そんなこと納得できるか!? ちゃんと説明しろ! 俺が納得いく答えじゃなかったら、おまえとは縁を切る。妹を泣かせる奴は許せないからな!」


 あの……、全く、泣いてませんよ、マーク兄様。


「俺もアリスを泣かせる奴は許せない」

と、冷静に言うルイス殿下。


 はい!? それ、会話がおかしいわよね? 

 マーク兄様の質問を受けてないし。


 ルイス殿下って、頭はものすごく良いらしいけれど、不思議ね。残念な感じの人に見えてきたわ。


「おい、ルイス! なめてんのか!? 早く説明しろ!」

と、非常にガラが悪くなってきたマーク兄様。


 ルイス殿下は、そんな怒り狂ったマーク兄様を冷静に見つめ返している。


 混沌としたこの空気。

 どうでもいいから、この場から逃げたいんですが……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る