第3話 報告

 ということで、私たち兄妹の前に、優雅に座っておられるルイス殿下。


 いつもとかわらず、美しいお顔は無表情。

 が、心なしか、ほんの少し雰囲気がやわらかいような気もする。

 

「ルイス、今日はどうした? なんかご機嫌のようだが」


 え、ご機嫌!? 


 このほんの少しやわらかいように見えなくもない程度の状態が、ご機嫌!?

 どんだけ、表情筋が動かないの?


 が、さすが、幼馴染で親友のマーク兄様。

 このわずかな表情を見分けられるなんて、すごいわね!


「二人に報告がある。今日から俺は公爵となった」

と、ルイス殿下が言った。


「「……」」


 一瞬、部屋が静寂につつまれた。

 が、その直後、マーク兄様が叫んだ。


「はあ!? いきなりすぎて、意味がわからん! なにがどうなって、そうなるんだ? ちゃんと説明しろ!」


「本日、第二王子を返上し、ロバートソン公爵家の養子となり、そのままロバートソン公爵を継いだ。ゆえに、ルイス・ロバートソン公爵となった」

と、ルイス殿下は無表情のまま淡々と説明した。


「王子を返上して、公爵? なんで!? ルイスは、それでいいのかっ?」


 マーク兄様が絶叫している。

 無表情のルイス殿下との温度差が激しい。


「ああ。俺が望んだことだ」


 冷静に答えるルイス殿下。


「ローラ嬢のことでか?」

と、マーク兄様が聞いた。


「ローラ嬢?」

と、ルイス殿下が問い返す。


 ん? マーク兄様、あの女性の名前、間違えてるんじゃない?

 私は黙っていられず、つい口をはさんだ。


「婚約解消を私に告げた時、一緒におられた、ピンク色の髪をした女性のことです」


 ルイス殿下は無表情のまま、言い放った。


「ああ。あの女、そんな名前なのか」


「はあ!?」


 思わず、私は貴族令嬢とは思えない声量で叫んでしまった。

 が、仕方ないわよね。

 だって、おかしいでしょ。なんなの、この人?


「好きな女性なのに、名前も知らないんですか?」


 他人事ながら、イライラしながら聞いてしまう。


「好きではないからな」

と、即答したルイス殿下。


 思いもかけない答えが返ってきて、私の思考はとまってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る