第26話 おじさんパーティーの連携プレイ



 揺れるたき火の炎。そこから現れたのは――



「サラマンダー!?」



火蜥蜴サラマンダー】は、火属性のモンスターでドラゴンの亜種とも言われている。山のように大きなドラゴンと比べたら体も小さくて、成長しても犬くらいの大きさだ。

 知性も動物並みで、口から出せる炎も小規模。銅等級の冒険者でも対処できるレベルだ。厄介なのは――



「シュルシュルシュル……」



 案の定、炎の中から数十匹の【火蜥蜴サラマンダー】が姿を現した。得物をもとめて炎の舌を揺らしている。


火蜥蜴サラマンダー】は、魔法使いの召喚に応じて無限湧きする。

 召喚の媒体となるエレメント。今回の場合はたき火の炎がある限り、いくら倒そうがおかわりが召喚されるだろう。



「どうしてサラマンダーが……」


「分析はあとだ。おい、リリム起きろ! 朝ごはんだぞ!」


「ふえあっ!? もうメシの時間か!?」



 大声をあげてリリムに呼びかけると、馬車の中でアホっぽい叫び声が聞こえた。



「起きたな。敵襲だ。馬車はおまえが護れ。護れなかったらメシ抜きだ」


「任せろり!」



 何度かクエストをこなしているウチに冒険者としての心構えができていた。

 文句も垂れずに威勢の良い返事が聞こえてくる。馬車はこれで安全だろう。




「シャーーーーッ!!!!」




 サラマンダーは容赦なく俺たちに襲いかかってくる。

 俺は無銘でサラマンダーを切り捨て、エリカに声をかけた。



「たき火を消してくれ!」


「【アイスバインド】!」



 エリカが杖を振って、生み出した氷でたき火を消化する。

 これで追加召喚はなくなった。馬車はリリムに任せてある。



「残りの敵を頼めるか?」


「お任せください。タクトさんは?」


「召喚士をとっちめてくる!」



 サラマンダーを召喚した魔法使いは、野営を見下ろせる位置で隠れているはず。

 けれど、周囲に隠れられそうな場所はない。それなら答えはひとつ。



「上だ!」



 俺は上空を睨みつける。



「……っ!」



 案の定、敵は空にいた。

 背中にコウモリの羽がついた人型の魔物――【レッサーデーモン】だ。

 浮遊魔法で滞空しながら戦場を見下ろしていたのだろう。



「はぐれデーモンか?」



 【レッサーデーモン】は、魔法を操る悪魔族のモンスターだ。

 悪魔族はモンスターの中でも知性と位が高く、魔王軍に属していた。その証拠に頭部に二本の角が生えている。

 魔王はすでに退治されている。主を失った”はぐれ者”が腹を空かせて人間を襲ってもおかしくはないが……。




「【サンダーボルト】……!」


「雷魔法かっ!?」



 【レッサーデーモン】は空の上から雷を放ち、俺を狙い撃ちにした。

 雷よけとなる巨木も大岩もない荒野だ。雷光が俺の頭上に降り注ぎ――。



「相棒、ちょっと我慢しろよな!」



 俺は咄嗟の判断で無銘を地面に突き刺すと、大きくその場を飛び退いて落雷を回避した。無銘は魔力を帯びている。これくらいの魔法では破壊されないだろう。



「お返しだ!」



 俺は無銘を再び握ると【スラッシュ】を放った。

 ブーストされた剣風が闇夜を切り裂き、上空にいる【レッサーデーモン】を狙い撃つ。



「……っ!!」



 ブーストスラッシュの有効攻撃範囲は、およそ50メートル。

 いまから回避行動を取っても遅い。



「ギャアアアアアッ!」



 超高速の剣風が【レッサーデーモン】を襲い、相手は金切り声を上げながら地面に落下した。



「グギ、ギギギギギ……」



 ブーストスラッシュを受けてもなお、レッサーデーモンは立ち上がった。



「伊達に悪魔族じゃないか……」



 俺は無銘を構えてレッサーデーモンと対峙する。

 悪魔族とはいえ致命傷は負っているはずだ。肩から腰にかけてナナメにパックリと傷が開いている。

 しかし、血は一滴も流れていない。代わりに黒い霧のようなものが傷口から漏れていた。



「タクト……っ!」

「タクトさん……っ!」



 デーモンの様子を窺っていると、リリムとエリカがやって来た。

 エリカはレッサーデーモンの姿を見て、納得したような表情を浮かべる。



「サラマンダーを召喚していたのは、レッサーデーモンだったんですね」


「こいつらは配下の魔物を召喚して自分は遠距離から魔法で攻撃してくる。セオリー通りの戦い方だったよ。だから対処は楽だった」


「いえ、すごいです……。下級とはいえ悪魔族のモンスターを一人で追い詰めるなんて。本当なら中盤のクエストで戦うような敵なのに」



 エリカが感心したような声をあげる隣で、リリムは驚きと怒りが入り交じったような大声を上げる。



「レッサーデーモンだと? パパ上の部下ではないか!」


「ここで俺を止めるか? おまえにはその権利がある」



 魔王の娘であるリリムにとって、悪魔族のモンスターは身内に近しい存在だ。

 ここで俺たちと敵対するのも自然な流れだろう。

 しかし、リリムは首を横に振った。



「弱き者が強き者の糧になるのは自然の定め。魔王の配下とて例外ではない。なにより……」



 リリムは頭につけていたカチューシャを外して、二本の角をあらわにする。



「この角を見ろ、たわけが! 魔王の娘であるワシさまに刃向かった罪は重い」



【ブラッディソード】を鞘から引き抜いて、レッサーデーモンに突撃するリリム。



「せめてもの手向けだ。ワシさまの力の一部となるがいい!」



 ――――ザシュッ!



 真紅の刃が閃き、レッサーデーモンを切り伏せた。


 【ブラッディソード】は魔力を吸収する効果を持つ。

 刀身についたレッサーデーモンの血が魔力に転換されて吸収されるが……。



「なんだっ!? レッサーデーモンが溶け出したぞ!?」

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