パトリックがエマに優しくする理由は?

 エマがパトリックからのエスコートの申し出を受けてから数日後。パトリックからエマ宛てに手紙が届いた。王家主催の夜会のエスコートのことで打ち合わせがしたいからランツベルク家の王都の屋敷タウンハウスに来て欲しいとのことだった。

(エスコートの打ち合わせ? 一体何をするのかしら?)

 疑問に思いつつも、エマは返事を書き日程調整をした。

 そしてエマは侍女のフリーダと護衛のマルクと共に、馬車でランツベルク辺境伯家の王都の屋敷タウンハウスに向かった。

「本日はお招きありがとうございます。エマ・ジークリンデ・フォン・リートベルクでございます」

 エマはパトリックの両親に出迎えられたので、カーテシーで礼を取った後にそう挨拶する。

「初めまして、リートベルク嬢。私はパトリックの父ジークハルト・ヒルデブラント・フォン・ランツベルクです。いきなりの息子の頼みに答えてくれてありがとうございます」

「パトリックの母のトルデリーゼ・エルフリーデ・フォン・ランツベルクでございます。歓迎いたしますわ、リートベルク嬢」

 2人ともエマに興味津々だ。そして歓迎もしている様子だった。

 ジークハルトはアッシュブロンドの髪にサファイアのような青の目で、少し甘めの顔立ちだ。トルデリーゼはサラサラとしたブロンドの髪にエメラルドのような緑の目で、彫刻のような美しさだ。パトリックのプラチナブロンドの髪とアメジストの目は先祖返りであり、顔立ちは母親似である。

 そこへパトリックがやって来る。

「エマ嬢、今日は来てくれてありがとう」

 パトリックはエマの姿を見るなりパアッと表情が明るくなった。

「パトリック様、エスコートのお申し出ありがとうございます」

 エマはふふっと微笑む。

「さあエマ嬢、こっちだよ。色々と合わせたいものがあるんだ」

(合わせたいもの?)

 不思議そうに首を傾げるエマをよそに、パトリックはエマを自室まで案内した。

「あの、パトリック様、これは一体?」

 エマはパトリックの部屋を見てアンバーの目を丸くした。

 パトリックの部屋には仕立て屋や商人やがおり、多種多様な生地やアクセサリーが並べてある状態だ。

「エマ嬢に似合うドレスとアクセサリーを選びたくてね。もちろん、費用はランツベルク家持ちで」

 そう微笑むパトリック。いつも通り落ち着いているのだが、アメジストの目はどこかワクワクした様子だった。

「そんな、パトリック様、リートベルク家にもドレスはございます。パトリック様やランツベルク家のお手を煩わせるわけにはいきません」

 エマは慌てた様子だ。

「エスコートするに当たって、エマ嬢に1番似合うドレスを仕立てたいんだけどな。駄目かな?」

 パトリックから甘い笑みでそう懇願されるエマ。

(そんな表情でお願いされてしまったら、断れないわ)

 エマの心臓が跳ねる。

「では、ありがたくお願いすることにいたします」

 エマは困ったように微笑み頷いた。

 それから、仕立て屋が持って来た生地やドレスのデザインを見て、エマが着用するドレスを決める。パトリックが作ろうとしたドレスの数が多過ぎてエマは必死で止めた。その甲斐あったのか、仕立てるドレスは5着まで抑えることが出来た。パトリックはもっとエマにプレゼントするつもりだったのだが。アクセサリーの方もパトリックがエマにプレゼントしようとした数が多過ぎてまたエマは必死に止めた。結果こちらも何とか10個まで抑えることが出来た。

 一通り決まった頃に、ランツベルク家の使用人から紅茶とお菓子の準備が出来たと知らせを受けるパトリック。

「エマ嬢、今からティータイムだ。向こうの部屋でゆっくり話そう」

「紅茶とお菓子までご用意していただけるなんて恐縮です」

 エマは肩をすくめて微笑んだ。

 そしてパトリックと共に別室に向かう途中、エマは忘れ物に気が付いたのでパトリックの部屋に戻る。その後、ティータイムの部屋へ戻ろうとするが、ランツベルク家の王都の屋敷タウンハウスは広いので少し迷ってしまった。

(えっと……このお部屋だったかしら?)

 エマは目の前の扉をノックしようとしたら瞬間、パトリックの侍従であるロルフが現れる。

「リートベルク嬢、そちらのお部屋ではございませんよ。私がご案内いたします」

「ありがとうございます。実は迷ってしまいまして」

「初めての場所ならそういうこともございますでしょう。もしまた場所がわからない等がございましたらランツベルク家の使用人に遠慮なくお尋ねください」

 エマはロルフにパトリックが待っている部屋まで案内され、無事に辿り着くことが出来た。

「ロルフさん、ありがとうございます。助かりました」

 エマは明るい笑みでロルフにお礼を言った。

「いえ、リートベルク嬢のお役に立てて光栄でございます」

 ロルフはほんの少し口角を上げた。そしてエマが部屋に入るのを見届けた後、ホッと肩を撫で下ろす。

(あの部屋をリートベルク嬢に見られずに済んでよかった。あの部屋は狂気の部屋でもある。パトリック様が大量に描いたリートベルク嬢の肖像画が飾ってあるのだから)

 ロルフはパトリックのエマへの想いに軽くため息をついた。







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 その後、紅茶とお菓子を口にしながらパトリックと談笑していると、いつの間にか日は暮れており帰る時間になった。

「パトリック様、今日は楽しい時間をありがとうございました」

 エマは太陽のように明るい笑みである。

「そう言ってもらえて僕も嬉しいよ」

 パトリックは嬉しそうにアメジストの目を細める。

「ドレスやアクセサリーも多くいただいて恐縮でございます」

 エマは少し困ったように微笑み、肩をすくめた。

「是非今度僕がエスコートする時に着用して欲しい」

「承知いたしました」

 エマはふふっと微笑んだ。

 その後、パトリックと一言二言話した後、ジークハルトとトルデリーゼにも挨拶をし、エマはランツベルク家の王都の屋敷タウンハウスを後にした。

 エマは帰りの馬車の中で少し考え事をしていた。

(……どうしてパトリック様はここまで私にプレゼントしようとしてくれたり、優しくしてくれたりするのかしら? 確かに、リートベルク領はガーメニーで1番乳製品の生産量が多いけれど)

 エマはパトリックから優しくされることに、嬉しくドキドキしつつも不思議に思うのであった。

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