拾壱話 ニシュウメ

——私とうつけ者で、他のプレイヤーの注意を引いている隙に、楓さんは私が指定した場所へと向かって欲しい。


……その夜。ホテルの屋上に行くと、柵にもたれて夜風にあたっている楓の姿があった。


「博士さんでしたか。」


「…部屋にいないと思ったらこんな所にいたのか。後さ…ここまで無言で気配も消して来たのに何で分かるのかな?」


楓は振り返り、博士を見つめた。


「何となくです。…それに生物である限り、完全に気配を消す事は不可能ですから。」


「あはっ。それもそっか…隣、いいかな?」


「構いませんよ。」


楓の隣に行く。


「いや〜…夜風が寒いね。」


「そうですか。てっきり…私に何か聞きたい事があってここに来たのだと思っていました。」


「…っ。」


目的をすぐに言い当てられて、珍しく言葉に詰まっていると、楓はそれを気にせずに外の景色を眺める。


「綺麗…ですね。都会にはまともに行った事がなかったのでこういう景色はとても新鮮で、私が口を出すのは失礼かもしれませんが…とてもよく出来ています…高い場所は苦手ではありますが。」


「…それはありがとう…かな?制作者冥利に尽きるよ…序盤だけだけど。」


「うつけさんはどうしましたか?」


「今はぐっすり部屋で寝てるよ。精神が図太いというか何というか…私が見るにまるで普段からこういう状況に慣れているようだったな。」


「…きっと、今まで命懸けの生活をしてきたのでしょう。体の動きの一つとっても、紛れもなく強者であると見て取れたので。」


「そうかな?生憎、私はそういうのに疎くてね……でも君の方が強いのだろう?」


楓は答えなかった。


「……まあいいか。場も少しは温まった所で本題に移ろう。」


「そうですね。」


「単刀直入に聞くけど、楓さん…君の、」


「分かっています。私の目的…それは——」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「——おい、博士ェ!いい加減に起きやがれ!!」

「……ぁ。」


どうやら気を失っていたらしい。全身が酷く痛む。うつけ者に体を抱かれながら走っているのが分かって段々と、ここまでにあった事を思い出していき……結論に至る。


「そうか…失敗、したのか。」

「!起きやがったか、クソ。無理に俺様を庇いやがって、ここで死んだらマジで許さねえからな!!!」


この状況に至った理由は言ってしまえば、シンプルだ。



作戦開始の一日前、私とうつけ者で所定のポイントに到着した時に、他のプレイヤー達に奇襲された。


事前に配置していた私の分身の反応が無かったという時点で気づくべきだったのだ。


その違和感に気づいた時にはもう遅かったけど。


あのうつけ者でも、武器も持たずに唐突に四方八方から攻められたら反応が遅れて…殺されていただろう。何せ、あの場には少なく見積もっても600人以上いたのだから。


だから私が動いた。うつけ者がこの状況を理解し動く為の時間を稼ぐために。


その結果、全身に無数の矢とか剣とかがグサグサと刺さって内臓を掻き回される事になったのは、だから仕方のない事なのだ…そこで私の意識がなくなったからその先の事は知らない。


——だが、大体理解した。


「…君は、逃げる事なんてしないと思っていたよ。」

「ああん!?何言ってんだオメェ。逃げるのも戦略の内だぜ?人間生きてりゃ、何度だって殺し合う事ができるからなぁっ!」


後ろから追って来る内の1人を、走りながらもインベントリから十文字槍を取り出して左手だけで相手を見ずに腹を突き刺し、引き抜く。


「あ、がぁ…!?」


「悪りいが今は付き合ってる暇はねえんだ…舌噛むなよ、博士!!!」


「…善処する。」


思いっきりジャンプし、建物の上に飛び乗った衝撃で私の意識はまた失う事になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


目を覚ますと、アパートの近くで倒れていた。確かナツサさんと話をして、それでーーー


「……。」


起き上がり、辺りを見渡す。


「ナツサさん。」


その無惨な死体を見ても、何も感情も沸かなかった事に少し驚いた。


「…やらなくちゃ。」


何をするのかはいまいち思い出せないし、分からない。でも体が…魂がそれを覚えていた。自然とアパートの敷地外に出る。


「死体ばっかり。」


所々と死体がある道を歩いていくと、大勢のプレイヤー達が惨たらしく真っ赤になって死んでいた。おそらくあの大男の仕業なのだろう。


「……。」


暫く立ち止まっていると、数えて10名のプレイヤーがこっちにやってきた。


「っ、これは…おい、お前!」


「…?僕ですか?」


「な、何だ…はっ、コイツ固有スキル持ちだ!」


「本当か!…だが情報では二人組と聞いていた筈だが…」


「そんなのはどうでもいい、お前達の固有スキル持ちのせいで…ここで殺してやる!!」


10人中5人が、各々が武器を持って僕に襲いかかってきた。僕にはまだやるべき事があるというのに。


(全員殺すのも手だけど後々面倒そうだし、優先度は低いかな。う〜ん…とりあえず、)


「邪魔。」

「…ごっえ…?」


一番早くきていた男の腹に向けて蹴りを放つ。

素早く貫通した右足を引き抜いて、迫り来る斧や鎌の刃先をそれぞれ片手で掴み破壊、二人を無力化した。


「「…な」」

「次。」


後方から飛んで来る矢を即座に手刀で破壊しながら、接近する。


「く、来るな!?」


そのままアッパーを繰り出し、顎を砕きダウンさせた。その後ろで刃が折れた音が聞こえ振り返る。


「何で、刺さらなっ…!」

「最後。」


混乱する女性の足を払い、転ばせて左足で腹を踏みつけ動けなくして、離れた所にいる残りの5人を見つめた。


「…っ、殺さないでくれ。俺たちは…」


「僕は誰も殺してないんですけど…あっ、そうだ。地図を出してくれませんか?」


「…は、え?地図??」


「持ってるでしょう?」


「持っては…いるが…」


「僕は持ってないので…少し貸してくれませんか?ついでにペンとか。」


「……そうしたら、そこの女性を解放してくれるのか?」


「え、はい。全然いいですよ。」


「なら地図を貸す。だが、俺たちに近づくな。」


「分かりました。」


怯える人達に僕は微笑み、気絶した女性から足を離した。


「では…地図を……」

「その女性からも離れてくれ。」

「はい。」


すぐに承諾して女性からも距離を取ると、すぐに地図とペンが投げられてそれをキャッチした。


「…えっと、確か……ここだっけ?」


ペンで地図上にマーキングをして、それを投げ返した。驚きながらも男がそれを上手くキャッチした。


「うわっ…と。」


「ここから6日後。そのポイントにこの惨状を作り出した首謀者が来ます。」


「…何故分かる?」


(実は未来の情報を知ってるんです…とか言えないし、仮に言った所でまともに信じてもらえないんだろうな。)


「えっと、何となく…です。その内…放送があるでしょうから、判断はそちらに任せます。」


少し距離が遠くて聞こえにくかったけど、どうやら皆で何かを話している様だった。


「では先にやる事があるので…終わったらまた会えるのかな?…まあいいか。ではお騒がせしました。」


「っ、待て!」


「すいませんが待てません。また時間があったら会いましょう。」


そう言って僕は駆け出す。


「やっぱり時間の無駄だったかな?でも…これでいいや。」


(今はそんな事に構ってられない。まずは、やるべき事をしっかり果たさないと。よく覚えてないけど…確かに頼まれたんだ…)



「姉さんを……殺す事を。ならその期待に応えなくっちゃ。」



1人走りながらやまねは呟く。それを聞く者は誰もいなかった。

























































































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