第26話 女神 ケーオ・フィラメント 2
「転生をすると言ったか? 少年•黒瀬」
異世界転生宣言をした令和忍者、黒瀬カゲヒサ。女神は少しばかり怯んだようだ。
嘘だ、口だけならどうとでもなるーーー本当に言っているわけがない。
ならば、狙いは?
黒瀬カゲヒサが、自分に向けて声を張るのを見下ろすケーオ。
「俺は転生してもいい! この世から、消えてもいい、だけどーーー他はやめろ!」
他の人間はやめてくれ。
もう話は始まっているし続いている、止めるには遅いこともわかっている。
「転生してもいい―――ただしその場合、俺だけ。他の人類には手を出さないでくれ」
俺は、特別に執拗に狙われている。転生者一人より重く捉えられているだろう、そんな見込みだ。
「少年・黒瀬ーーーそりゃあ」
首を傾げる女神。命乞いか?とでも言いそうな様子だ。
トラックは発車しない。今はまだ。
「なんなんだ、なんでこんなことになる! 俺のクラスメイトも、お前らがやったんだろう!」
さらに捲し立てる黒瀬。クラスメイトはかけがえのない存在―――などと綺麗な言葉までは出てこないが。
陰気キャには慣れない黒瀬である。
いなくなった一般人、一般の生徒。
逸脱の神童、
「俺は異世界転生をしてもいい―――だが、『他』はやめて―――もらえないか!」
黒瀬は交渉に移る。移ろうとする。
炎上髪の女神はじとりと睨んで、
「そりゃあ無理だな……異世界転生課は異世界転生が目的だ、お前も目立つから重要だが」
黒瀬一人に、そこまでの価値はないというのか。
「どっ……どうしてもか?」
今さら連中の様子が変わるという期待は持てないものの、せめて情報を引き出そうと心がける黒瀬。
連中との交渉にしたいが、交渉と言っても連中の目的すら曖昧である。
もはや頭が疲弊し、それでも逃走する。
この後どうかわそうが、今日死ぬか明日死ぬか。
なぜこんなことをされているかわからない。
生き延びてきてはいるが、なぜ殺されそうになっているかわからない。
こう考えてみると、世界のどこかで起きている殺人事件と何ら変わらないようにも思えるが。
「くどいぞッ ―――少年・黒瀬!
聞いてて困る、困惑である―――いま調子に乗っているのは黒瀬カゲヒサの方。
そう言いたいらしい。
これは逆ギレじゃないのか?いや被害者
ビビるわけではないが全力の困惑はする黒瀬。
神さまとお話をしたいーーーと考えている人間はいるのかもしれないが、言っておきたい。
死ぬほど疲れるぞ。話が合わねえ。
「異世界て、つまり――どこだ!どんなのだよ! ここじゃない何処かだってんなら、説明を」
「説明は冷めるンだよ」
説明できる道理はない、言えないことの方が多い。———という
その辺りは令和忍者にも完全に理解できる感覚だ。
沈黙こそが金。
ただ、ケーオの考え方は異なるようだった。
「ネタがバレてしまっては萎えるだろう! 『この後どうなるかわかんねェ』! これの面白さがわかんねーェ男は駄目だよ! 断言するね!」
「……っ」
神は退く気はないらしい、むしろ引いているのは黒瀬だろうか。
こいつらから『駄目』呼ばわりされても意味がわからないのだが。
どうやら―――連中も訳ありらしい、理由ありきでこんなことをやっている。
そう考えるしかない、仮定するしかない。
ここまで人間を異世界に、全力で送るという意味はさっぱり理解できない。
理解に苦しむ黒瀬だが、このケーオいう女神以外にもやっているんだから―――つまり神のうちの一柱が、勝手に暴走しているのではない。
確信犯的に、なんというか、迷いがない。
神の国における犯罪とやらが人間界と違うのだろうということはよそうできるが。
女神は集団―――複数でのチームというか、組織でこれをやっている。
「止めるのは……無理だな」
それは無理、と断じる赤髪女神。
黒瀬のやっている全てを否定する。
「アタシが変えられるわけねぇ。役割だ、あと、これはお前が生まれるよりずっと古くから続いてる話だし、流れなんだよ」
なんだと?
「黒瀬―――このアタシが―――神が神に誓って言うが、異世界は実在する。だからお前が死んでも、その後がある」
「そっ……そんな言い方で、だから、それで正しいことやってるつもりかよ!」
女神は見下すような、残念がるような視線を向けた。
これ以上は言わない、と吐き捨てる。
ケーオは自分でない、すなわち神ではない存在の少年を検分していた。
―――黒瀬カゲヒサ。
「ま、そういうことでーーー。少年・黒瀬ーーーお前に手加減は出来ないのはもう知れている―――フルスロットルで行くぜ?」
ぱちん、と指を鳴らす炎上髪の女神。
〝
トラックの音量が、彼女の声量を上回った。身震いしている。
スロットルが急速に回り出した―――ついているのか?スロットル。
あの世からやってきたトラック。
タイヤの側面から火花が、飛び散り地面の上を跳ねたり、染み込んだりするオレンジ色の線を、作り出す。
線香花火を思い出した。
黒瀬は冷ややかに見ていた。
そもそも構造は人間界のものと違うのか?
まあ神の国から来たシロモノだ、どうしようもないが――― !
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