新作:掌編「リンゴに似たバナナ」


「お前はほんとにさあ……クズみたいな奴だな……」


「……みたいな?」


 ということは、少なくとも、クズではないということになる。


 リンゴみたいなバナナだな、と言われたら……リンゴではないから――、でも、リンゴにすごく似ている、ということは伝わった。

 でも、それそのものではない。

 これは落ち込むのが正解か? それとも、名詞が出てきたのだから、出てきたそれでは絶対にない、という証拠の喜ぶべきなのか?


 リンゴではない、と言われたら、メロンかもしれないしブドウかもしれないけれど、リンゴでは絶対にない――と解釈もできる。自分はバナナなのだ。

 でも、他のフルーツである可能性も、なくはない……だって言われていないから。


 自分はバナナであるという前提に、真実であるという証拠はまだない。


 だけどリンゴ『みたい』、なら、めちゃくちゃ似ているけど別のものである、と証拠を出されてしまった……。

 そこで、「いいえ私はリンゴです」とは、ここまではっきりと言われたら言えない。


 否定もできない。


 だから私は――リンゴでは、絶対にない。



 …了

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