第19話 綱渡り

 ホクが拍手に包まれて退場すると、今度はクリーの綱渡りが始まる。上空15Mに張り巡らされた14.5Mのロープ。その5メートル下一面には落下用ネットが張られていて、そのすぐ下に星屑を散らしたような透明な巨大トランポリンが張り巡らされている。赤、青、緑、黄、橙などの小さな星の集合体が輝きを放つその上を、まるで天の川の上を歩く無謀な旅人のように1人の女性が渡ってゆく。


 150センチほどの身長しかないクリーがカンスーと呼ばれる長い木の棒を持ち、バランスをとりながらゆっくりとロープの上を渡る様は綱渡りをする子どものように観えなくもない。客席は彼女の命運を固唾を飲んで見守っている。空中ブランコと同じくらいの命懸けの曲芸とあり、テントには緊張感が漂っている。半分ほどまでは順調だったが、途中で身体が大きくよろけて落ちそうになって客席からどよめきが上がる。


 クリーの小さな身体は一度落下しかけ棒を下に落としたが、すんでのところでロープを片手で掴み、腕の力と平衡感覚をフルに使って再びグラグラ揺れるロープの上に戻ると、ゆっくりと立ち上がりまた歩き出した。観客も、舞台裏で観ていたパフォーマー一同もホッと胸を撫で下ろしたのが分かった。


 最後まで渡り終えたクリーは、宙に浮かぶ半月型の台から笑顔で礼をした。

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