第18話 蠍の火

 空中ブランコの後はホクのファイヤーショーだ。


 上半身裸で腰蓑を巻いたホクが、先端に火のついたファイヤーナイフと呼ばれる、両端にナイフのついた長い二本の木の棒を持って現れる。


 太鼓の音色の際立つ、どこかの部族の伝統的な祭りの儀式を思わせる速いテンポの音楽に合わせ、ホクは一度自分を鼓舞するように2本の棒を両手で高く掲げて一声吠えると、両手に持った火の棒を手首にスナップを効かせ高速で回してみせた。ホクが中腰になり宙に弧を描くように腕を動かす。車輪のように高速で回る二つの赤い炎が空を飛び回る。


 やがてホクの動きは激しくなり、舞台の端から端へ、炎を振り回しながら飛び跳ねたり力強く地面を踏みしめたり、身を翻したりひながら舞い始めた。それに合わせて音楽も激しくなっていく。まるで意志を持つように宙を駆け回り続ける赤い炎の輪は、イタチに追われ、必死に逃げる蠍を思わせる。


 やがてホクはアリーナの中央に仰向けになりブリッジの姿勢をしたあと、2本の棒を何度か背中の下に通してみせた。


 立ち上がりゆっくりとした動きで舞うと、棒の1本を5メートルほど上に放り投げキャッチした。送られる拍手や歓声にニコリともせず、今度は2本の棒を空中に放る。くるくる回って落ちてきた火の棒は、綺麗にホクの大きな手の中に収まった。


「いいぞ、ホク!」とエントランス奥から声をかける。


 やがて音楽がゆっくりと悲しげなものに変わると、ホクは地に膝をつき、極限の集中の中祈るように両腕をゆっくりと動かして炎を操ったあと、両腕を広げて悲しげに空を仰いだ。


 井戸に落ち、二度と地上に出られない蠍の悲しみを表現しているのだと分かった。


 やがて彼は腰につけていた油差しに口をつけると炎を口元に持ってきて顔を天井に向け、助けを求めるように真っ赤な激しい炎を吹いた。立ち上がり、もう一度火を吹く。何度も何度も繰り返し火を吹き続ける。


 生きたかった蠍の強い願いと悲しみ、そして今も消えずに燃え続ける火ーー。全ての想いがそこにあった。

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