18 異常性 上

 路地裏をしばらく進むと霧の様な、湯気のような物が濃くなっていき、それが晴れた頃には視界に入る光景は打って変わっている。

 例えるならばやたら広々とした神社の境内とでも言うべきだろうか。

 あちこちに点在する池は、その水質が温泉となっているのか湯気が立ち込めている。


「成程、確かに温泉の神様が住んで良そうな空間だね」


「異空間みたいな所に足を踏み入れるのは二度目ですけど、流石にこの前の奴みたいな不気味さは無いですね」


 霞の言葉に相槌を入れながら考える。

 というより、考えざるを得なかった。

 霞の事を。


 ……なにせ現状移シ湯ノ神以上に霞に対して意識が向いているのは否定できない事実なのだから。


「……」


 仮にだ。

 秋葉が渡してくれたような札を始めとした道具を使う事が専門家のやり方で、霞のような超能力を使う事がそのやり方から外れているのだとしても、ただ主流ではないやり方をしているというだけでは、秋葉達はああいう反応はしないのではないかと思う。


 本流の専門家からすれば大した事の無い技術を胸を張って使っていて、そうしたプライドを守ってやる為になんてパターンも一瞬考えはしたが、道具の一つも使わずにこの場で活動できているという事実は。

 本来荒事が伴う場合武器の類いを使用するのが主流だとして、徒手空拳で怪異と渡り合っていたという実績は、決して大した事無いなんて事は無い筈だ。


 それを、道具無しでこの場を歩いている霞に対し、神妙な面持ちを向けている秋葉は理解している筈だ。


 では一体何が彼らをそうさせているのか。


「……」


(いや……いい加減、目を反らすのにも限界があるか)


 ……実を言うともうある程度の目星は付いている。


 この場に突入する前の段階では困惑が強かった事もありそこまで到達できなかったが、それでもこの場に足を踏み入れているにも関わらず霞の事を考えているような今、あの地点よりは確かに先には進めていて。

 進んだ上で、その考えを否定して別の可能性を探っていた訳だ。


 自分が辿り着いた仮説は、可能であるならば否定したいような物だったから。



 おそらく秋葉は霞の言動に対し……今使っている力に対し、異常性を見出している。

 いや、黒幻霞という人間にというべきなのかもしれない。

 他ならぬ怪異の専門家がだ。

 きっと秋葉達からすれば霞のやっている事は怪異の専門家を、人間を逸脱していると感じるのではないだろか?



 そしてそんな推測ができるという事は……自分自身がそちら側の考えに寄っているが故のものだろう。

 秋葉達のやり方を。他のやり方を知り現在進行形でその身で体感した今、黒幻霞という人間が振るう力が受け入れがたくなってきた。



 秋葉達の札についてはある程度説明が付くのだ。


 きっとこれは色々な怪異が起こす現象を利用した結果生まれている代物。

 具体的にどういう怪異をどういう風に利用して、なんて事は分からないし実際の所その説が正しいのかどうかも分からない訳だが、怪異という存在が起こす現象の転用、あくまで変換して利用しているのだとすれば、人間の範疇を超えないが故に怪異の存在を認知している自分からすれば無い話ではないと思える。

 とにかく今の自分からすれば比較的現実味があるのだ。


 では霞のソレはどうだ。

 軽く説明を聞いた限りでは怪異の専門家が使う超能力の様なものといったふわふわした情報しかこの手に無い。

 霞が感覚派で説明下手という事で流していたが、実はそれ以上に説明しようがない力だったのではないだろうか。

 言えば怪異という超常現象を起こす何かを利用せず、最初から最後まで自分の手で力を生み出す。

 

 ……まるで無から有を生み出しているような事をしている。


 秋葉達の存在を知るまでは、怪異の専門家とはそういうものであるという認識であったが……この二つを見比べた今、彼女が見せてきた力からは異常性がこびり付いて消えない。


 ……つまり考えられる仮説が一つ。

 安易に秋葉達が踏み込めない理由も含めて仮説が一つ。


 霞がここ最近ではなく遥かに昔から、何かしらの強力な怪異に憑かれている可能性だ。

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怪異怪域 怪異探偵の助手、白瀬真の怪異譚 山外大河 @yamasototaiga

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