21 名称不明 魂の商人 違和感の正体

(冷静に考えろ。俺は一体何に引っ掛かっている)


 心中で呟きながら、視線を目の前で始まった人外レベルの殴り合いから、受け取った一万円札へと落とす。

 この一万円が偽札である事を証明するのが、状況を打破する鍵。

 そんな一つの可能性に辿り着く間に感じた引っ掛かり。


(この一万円札そのものに対してか? ……いや、違う。黒幻さんの言う通り、普通の一万円札にしか見えない)


 では、それ以外。

 それを探る為に、再び視線を正面の戦いへと向ける。


 まさしく非現実的な異能バトル。

 霞の防戦一方ではあるが、辛うじて戦いにはなっている。

 それでも双方ともに常識的な域を遥かに超える動きを見せ、自分のような一般人に立ち入らせる隙を与えない。


 そんな戦いは片方のビジュアルが骸骨なのも相まって、余計に非現実的さを増長させる。



 ……そう、非現実的なのだ。



(そうだ……あの非現実の塊みたいな骸骨の怪異は、一体どうやってこの一万円札を手に入れたんだ?)


 思考して確信する。

 これがその引っ掛かり。


 引っ掛かっていたのは一万円札そのものではなく、その出所。


 そう、あまりにもおかしいのだ。


 当然の事ながら、あのなりで人間としての生活を営んでいるとは思えない。

 人間社会はアレを受け入れられるようにはできていない。


 そしてそれをしないのであれば紙幣の流通する……経済の流れにあの怪異は存在しない筈で。

 その手元に日本銀行券は回ってこない筈で。


 故に真っ当な手段で五万円を。

 これまでの被害者の人数を考えると数十万円を、あの怪異が所持している事そのものに違和感があるのだ。


 ……そう考えると、やるべき事は定まった。


 その違和感を辿り、この一万円札があの怪異が作り出した偽札であると状況証拠から立証し突き付ける。


(……図らずも、探偵事務所らしい展開になってきたな)


 それができればこちらの勝ちだ。

 ……それができれば。


(できるかどうかじゃねえ……やるんだ、白瀬真)


 立証する事も、突き付ける事も至難の業だけども。

 それでも。

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