第6話 日本ペンクラブ「読書バリアフリーとは何か」 【動画】

 我ながらどんどんマニアックな方向に突き進んでいる自覚はあるけれど、その一方でこれが自分だな、と久しぶりに再発見した。


 市川沙央さんの『ハンチバック』をようやく本で読む。と同時に、色々記事を漁っていたところに見つけた、日本ペンクラブ主催の市川さんとの対談とシンポジウム動画を発見したので、隙間を縫って見終わった。



  2023年11月20日(月)

  読書バリアフリーとは何か――読書を取り巻く「壁」を壊すために

  【字幕準備中】

  https://www.youtube.com/watch?v=bQq1FQ9ynAY



 正直に言う。ものすごい面白かった。

 

 前半の市川沙央さんと日本ペンクラブ会長の桐野夏生さんとの対談。司会に日本ペンクラブ言論表現委員会委員長の金平茂紀さんが入られ、三者対談のようになっている。


 そもそもこの対談のきっかけについては、日本ペンクラブ言論表現委員会の副委員長であり、月刊『創』編集長の篠田博之さんが記事として書かれている。



  「芥川賞・市川沙央さんの衝撃の告発にペンクラブなどが取り組み!

  11月20日に桐野夏生会長と公開トーク」

  月刊『創』編集長 篠田博之

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/1be2c0d0188e28e95f45cbc0be7bb601783db58c



 カクヨムの人たちはペンクラブには馴染みがあるのだろうか?

 私は日本ペンクラブはほとんど名前を聞いたことあるレベルで、あまり馴染みは無い。今回はじめてサイトをみて、国際P.E.N の成り立ちや歴代会長のメッセージなども読んでみた。よかったら。



 日本ペンクラブとは

 https://japanpen.or.jp/about/

 


 内容についてはざっと。実は最初の面白みは、現役の作家が中心となって読書バリアフリーについてのシンポジウムを開いたという点だ。


 というのも、今まで私が関わったり見聞きした中では、読書バリアフリー、つまりはほとんどデジタル化と同義である議論に、現役の作家が中心となって話を進めるというのをあまり見たことがなかったからだ。


 ただし、ここ数年キャッチアップができていなかったので、今回現状を知ることができたのもありがたいシンポジウム動画だった。

 

 そしてペンクラブの会長である桐野さんですら『ハンチバック』は「衝撃」とおっしゃっていたことも印象的だった。ここあたりはぜひ私の文章なんて読まずに動画を見てもらったほうがいいと思う。


 市川さんご自身は障害者の代表にはなれないと別のインタビューでもはっきり言われていたけれど、明らかに一種の代表として質問をしているなと思う部分もあった。

 

 コロナという時代の急変もあるだろうけれど、それをきっかけとして書かれた『ハンチバック』が、読書バリアフリーの進展にブーストを掛けたように感じるのも引き込まれた。


 後半のシンポジウムは図書館と出版の人たちが車座になって現状を話していたけれど、どれだけ日本は進んでいなかったという話から、コロナで進み始めたかという話が中心となった。


 そう考えるとコロナは読書バリアフリーを進展させる環境作りに貢献したことになる。特に大学は図書館が閉鎖して学生が参考資料にアクセスできないという事態を招いた。ここから急速にデジタルテキストが進むけれど、それでも学部による差も大きいとか。


 読み書きに対する何らかのハードルを持つ人達が、人文学部や法学部ではどうしても紙の教科書が中心となり、それらをデジタル化してもらう仕組みはあるものの、それを受け取るのに半年かかり、受け取ったときには講義はもう終わっているというのは驚いた。


 そして福祉学科が比較的そこをカバーしているため、本当に学びたい学部があったとしてもアクセスできない状況で選ぶことのできない進路が存在することも改めて知った。


 これらが来年、法改正により「合理的配慮の義務化」からすべての大学が一気に動き出すという話はもちろん良いことではあるけれど、改めて市川さんが授賞会見で口にした「どうしてそれが2023年にもなって初めてなのか」という問いかけは、かなり厳しいものでもある。


 我が子が小学生で一人一台タブレット配布となったのも、コロナによって前倒しがされた。けれど。アメリカでは2000年にはすでに一部にしろ小学校で一人一台ノートパソコンを使った授業を始めている学校があった。


 それを考えれば、周回遅れどころの話ではない。20年遅れの話なのだ。ここまで来るともう怠慢としか言いようがなくなるのだけれど、いかに無関心だったかというのを数字で見る事ができる後半のシンポジウムで、しかしこれでようやく進展するぞと意気込む専門家たちの姿を見て、幕末のアメリカとの条約締結のために初めて渡米した侍たちの意気込みみたいなものを感じたりする。


 いきなり鎖国状況になったコロナ禍で、再び開国した世界は今戦争に突き進み、日本はどこに向かうんだろうなと、他人事ではなく考える。そうやって自分事として引き受けなければならないと突き動かされる対談であり、シンポジウムだった。


 記者たちも参加していたので、これらが今後どこかで記事なるかもしれない。そこあたりも適時追っていければなと思う。

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