#15 仰天チェンジ そうじゃない

《前回までのあらすじ》

・スケベ大学って何⁈


 「どうしよう」

 #13からそのまんま地続きで朝が来た!

 「知りませんよ」

 しかしいつもと違う。

 場所が安藤のリビングだからだろうか。初めて出てきた。

 「安藤できたぞ!」

 そう相川がベーコンエッグを持ってきた……まともな料理作れたんだ、という疑問はさておき、そもそも『なぜか朝から家にいて、しかも首輪をつけている』のである。

 「なんで家にいるの?」

 「今日は土曜だし、私犬だし」

 「犬だから家にいるのか」

 「だめか?」

 すごく目をうるうるさせている!

 犬かもしれない!

 「いやぁ……」

 「猫に変えたら一人暮らしのOLの限界妄想のようだ」

 「冷めるぞ」

 「「いただきます」」


 「わたしは明日の食材を買ってくる」

 と言ってあの後さっさと出ていった。

 「どうしよう……」

 「もうやっちゃいなよ」

 「嫌だ!まだ!何も片付いていない!」

 「まぁそれはそれは」

 「そもそも!アスタロトとか七つの大罪とか何者なのか聞いてないぞ」

 「……ん〜」

 ダンタリオンが唇を噛みすごく悩ましそうな表情をする!

 「なんねその顔」

 「……アスタロトは別として、なんだろう、多分製法は同じなんですけど、七つの大罪は性質とか微妙に違うんですよね」

 「性質?」

 「……なんでしょうね……?もはや私も自分の感覚で語ってるので、説明できません」

 「そんな違うもんかなぁ」

 「まぁ大いなる意志に悪魔は誰も干渉できないので、調べようもないですけど」

 「バアルは違うのか」

 「あれは直接指示を受けられるだけで、彼からは大してなにもできないんですよ」

 「それであの態度」

 「ムカつくでしょ」

 「……で、その謎の存在については」

 「わかりません!多分私が感知できない時点で、出てこないと話にならない!」

 「えぇ」

 「ひとまずは、アスタロトを止めましょう」

 「あいつめんどくさいんだよな」

 「それ」


 「ふんふふ〜ん♪」

 相川はご機嫌である。

 いつものようなノリで動けば安藤の家に留まる権利を得れたのだ。偶然であったが本人にとってはとても喜ばしいことであろう。

 (うまくいけばこのまんま……ふふふ)

 彼女の中で練られていく幾星霜の計画!

 安藤の身が気になるところである。


 「———やぁ、アスモデウス」

 

 しかしそう上手くいかないのが現実というものである……どんなときも備えを。


 「———アスタロト」

 相川の表情が切り替わる。右手には日本刀が現れる。臨戦態勢である。

 「そんな怖い顔をしないでくれよ……僕は君のためにやってきたんだからさ」

 「何だと?」

 「襲いにくるならダンタリオンのところに行くはずだろう?」

 「……たしかに……なら」


 相川の眼前にタロットカードが現れる!


 「な……あぁ」

 相川は動けなくなっている!どうやらタロットカードの効果にかかってしまっているようだ!

 「『吊られた男(ハングドマン)』……一方の力をもう一方の性質に移すことができる」

 「……なにをする気だ⁈」

 「君を覚醒させる」

 「……?」

 相川は気を失いかけている。まるで一旦その人格が沈んでいってしまうかのように。

 「安心しな……あくまで君だ、ただ少し別の面ってだけさ」

 「……別……」

 相川はその場に倒れた!

 「手間取らせたな……アスモデウス。しっかりその分働いてもらうよ」


 一方その頃安藤は!

 「なんか遅い気がしてきたぞ」

 「様子見にいってみます?」

 

 しかしドアが開かれた!

 

 「相川!遅かったじゃ……」

 しかし安藤は気づいた。

 

 その相川の目も、表情も、仕草も、全てこれまで見てきた彼女のものとは全く違うことに。

 相川は基本姿勢良く、真剣な様子で常にいるような人物であった……このようにどこか甘えたげに、とろけたような表情を常にしているような人物ではない。

 「……お前、何者だ」

 「おかしい」

 「どこがだ」

 「アスモデウスが持つ気配はこんなものではない……何か、別!……七つの大罪!」

 「なんだと⁈」

 

 「やぁやぁやぁ驚いてくれてるみたいだね」

 「「アスタロト!」」

 アスタロトはニヤケ面を浮かべながら相川の肩に手を置いた……まるで彼女は自分のものとでも言いたげに。

 「お前、何をした?」

 「そうカッカするなよ。手品の種明かしはもっとワクワクしながら聞くものだろう?」

 「ならば聞こうじゃないか」


 「ボクは、大いなる意志に干渉している」


 「「な⁈」」

 「大いなる意志には誰も干渉できないんじゃなかったのか⁈」

 「おかしい!ありえない!ありえへん世界!」

 「それでボクは少し名義を弄っていてね……ある悪魔と登録する名前を変えておいたのさ」

 「口座をいじったのか」

 「市民名簿ですよ」

 

 「まずボクは七つの大罪だ」


 「えっ⁈」

 「ファッ⁈」


 「そしてアスモデウスと立場を入れ替えておいた」


 「うそ⁈」

 「えぇ⁈」


 「そのくせアスモデウスには二つの機能をぶちこんでおいた。72の悪魔と、七つの大罪の機能」

 

 「あばば」

 「おっぶぇ!」


 「だからボクはある種大いなる意志からは離れた存在……君たちの同類だったってわけさ」


 「あ……あ……」

 「しゅごしゅぎるのぉぉぉぉ!」


 「ふざけてる場合かよ」

 「「すみませんね」」

 「七つの大罪も把握しきれていなかったろう?ダンタリオン」

 「彼女の罪は……なんなんですか」

 

 「私の目を見て、わからない?春樹」

 「ハルキ!」

 「スキップ進化!」

 「この目を、よく見て。私の思い、私の鼓動」

 「トゥンクトゥンクトゥンク」

 「言わんでええねん」

 

 すると、安藤に何かが刺された!


 「何⁈胸に、針⁈」

 「相川さんの能力じゃない!」

 

 その瞬間。

 安藤の身体は爆発した!


 「えぇ〜⁈」

 「これでわかるでしょ?私は、あなたの知っている私じゃない。あなたの知らない、見せなかった私。これまでと同じような言葉じゃ、なびかないから」

 「私私私……小林私じゃねぇんだからよ」

 安藤は黒焦げながらも元気である!

 「生きてた」

 「どういうメカニズムかだけ、教えてくれよ」

 「性欲を熱エネルギーに変換したの」

 「そりゃ爆発するわ」

 「安藤さんキラーじゃないですか?」


 「そういうことさ!さぁダンタリオン、ここから何がわかる?」

 「……色欲か……いや待てよ?色欲は別の悪魔だったはず」

 「悪魔の名前を言ってみなよ」

 「ヤルダバオト……」


 「そんな悪魔は存在しねぇ〜!」

 アスタロトの顔がすごいことになっている!性格が、悪い!

 「嘘よー!嘘っ!嘘っ!」

 取り乱すダンタリオン!昼ドラに出てきてもおかしくない髪の荒れようである。

 「最初から、全てはボクの手にあったのさ」

 「そんなことが……」  

 「そういうこと。春樹、寝室に行こ」

 「どういう手順……?」

 「手順?テジュン?韓国人のことかな、韓国人は結婚したら週八でセックスするらしいけど……」

 「へ、ヘイトスピーチ!」

 「愛憎って言うでしょ?何かへの憎しみは、何かへの愛を同じくらい持ってることの証明ってわけ」

 「さっきから言葉遊びしかしてねぇ!」

 「じゃあ言葉がいらない分、体で証明してよ」

 そういうと相川は上着をばっと脱いで下着姿になった!ばるんとたわわな果実が揺れる!眼前で見ると迫力がすごい!

 「あ、あ、あぁ」

 「怯えてもやめないよ、春樹の体の全てを、私が包み込んであげるから」

 「なんて恐ろしい」

 「……見ものかもしれない」

 さらにスカートに手をかける!

 そしたら一気に下着まで脱げてしまった!

 相川の秘唇までくっきりと見える!なんか湿ってる!怖い!怖い!

 「ボボボボボボ」

 「泡吹いた」

 「大丈夫かいこれ」

 「可哀想に、はじめてだもんね。安心して、私も初めてだから……」

 すると相川は唇を重ね、泡を吸い取った!

 じゅぼぼじゅぼぼと音がする。激しい吸収、それもう凌辱。

 「それじゃ、春樹。勇気を出してね」

 「「おお、お、おお———!」」


 すると黒い煙が安藤を包む!


 「まさかこれは!」

 「中のグラシャ=ラボラスか!」

 「……邪魔しないでよ」

 相川は再び針を刺そうとする……束を掴んでいる!百本以上ある!大丈夫なのか⁈

 「私たちのこと何も知らないで!」

 相川が腕を振り下ろす———!


 しかし瞬間ドームを形成して割れ、そのまま安藤が瞬時に消え去った!


 「「ワッ!」」


 「———飛んだね」


 そう相川は苦笑いを浮かべながら、黒い煙を同じく放出する!

 「———我は炎」

 「はじめてみる!」

 「ボクも!」

 「小鳥さえずる 花園も 我の前では灰に帰す

  香りも届かず 独りただ 乾いた雌蕊を 持て余す

  ああ誰か この永遠に燃ゆる身を 摘んで愛でてはくれまいか

  口笛を吹き 笑み浮かべ 我はただただ歩くのみ 

  我を引き抜き すりつぶし 無惨に捨ててもかまわない

  ただ愛を 我のこの身に 壊すほど

  故に我を独りだけ あなたのその目に焼きつけて

  我を称えよ———炎のアスモデウス

 そしてドームが形成され割れる!


 そこにいたのは、大理石でできたマネキンのような存在であった。しかしドレスを着込んでいる。まるで燃えているように真っ赤。というか実際に燃えている。オーラ状らしい。マネキンのようとは言ったが、しかしところどころに綺麗な彫刻が施されている。しかし華奢なのかといえばそうではなく、肩などはしっかり鎧のような構造がある。

 柔軟も剛健も持ち合わせたような———そんな姿。


 そのまんま相川は飛んでいく!律儀にドアを通っていきました。


 「双眼鏡あります?」

 「ちょうど二個ある」



 「……何がなんだかわからんが、中の人がこんなことするくらいにはやばいってこったな!」

 安藤は気づいたら上空を飛行していた。

 まさかこんな能力あるとは全く知らなかったわけである。

 「あんたのことも、全然知らねぇな」

 ———しかし反応は何もない。

 「本当に無口だな!あんた!」


 「おしゃべりな子が好きなの?」

 気づいたら相川が隣り合って飛行している!

 「し、神秘圧縮!」

 「私、今みたいになって全部理解したの。もしかしたら中の人の情報も全部表に出てきたってことなのかもしれない。だからもう、なんでもできる!」

 そのまんま相川は安藤の前で立ち止まり、周囲に針を生成した!

 「私の愛、ぜんぶわかってもらうから」

 「なんの!」

 針がびゅんびゅん飛んでくる!ざっと数えて針千本!

 しかし安藤もただ負けはしない!それを的確に避け、時に弾く!

 「侮ってたかも」

 「そうだろうよ!」

 

 相川の身体に図形が刻まれていく!

 

 「とっとと目を覚ませ!相川!」

 無数の透けた安藤が、相川の周囲を取り囲む!

 「———刹那緋色地獄アンダルシア———!」

 そして彼らが相川を襲う———!


 ———しかし、相川は無傷だった。


 「何⁈」

 「女の子は、いくつも爪を持つものなの」

 見ると透けた安藤たちの脳天に針が刺さっている……まさか瞬時に計算したとでも言うのだろうか⁈

 「今度は私の番だね」


 相川が瞬時に安藤の眼前にくる!

 近すぎて身動きが取れない!

 「鉄血処女ネカサナイトソード

 相川の手にぶっとい針みたいな剣が現れた!なんか引いて回す玉が柄に埋まってる!

 「ブレーザー⁈」

 彼女が柄のレバーのようなものを引くと、玉が振動し始める!

 「バイブだろそれ!」

 「私の愛を、今度こそ、じっくりじっくり、受け取ってっ!」

 安藤にぶすりと刺さる!まるであの日のように。

 「アァァァァァ!イグ!イグ!」

 安藤の身体はひたすら燃える!それも普段の相川の火力の何十倍もあることが、火球を形成していることからよくわかる!まるで地球を滅ぼした時のように!

 「そりゃそうだよ。私の愛の塊なんだから、安藤を悦ばせる力に決まってる」

 突き刺したまま落ちていく!

 「私たち星みたいだね、春樹!」

 「イグゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」



 「見て!流れ星よ!」

 サタンはいつもの部屋から流れ星を見つけた。

 「……なんか変な声が聞こえないか」

 西宮はいぶかしむ。賢いからね。

 「気のせいだろうマモン」

 「んがぁ」

 「願い事しましょ、そうしましょ」

 四人みんなで手を合わせる!

 (美味しいものが食べられますように)

 (世界に平和が訪れますように)

 (のどぐろが安く手に入りますように)

 (カッコイイ名言が言えますように)

 星は願いと愛を乗せて落ちていく。

 星がどうしているのかは知らせずに。


 そしてそのまんま地面に着弾した!

 空き地でよかったと本当に思えるほどのクレーターがそこにはできていた……怖い!怖すぎる!

 「安藤さん!」

 「さすがに大丈夫か!」

 ダンタリオンとアスタロトが駆けつけた!敵じゃないのか!

 安藤はその場に仰向けで力なく倒れている……本当に生気のない表情である。初めての敗北である。

 相川は、先ほどのなんか恥ずかしい姿で立っている。どこか小馬鹿にしたような笑みを浮かべている。多分いたずらごごろ。

 「アヘアヘイグイグオ゛ホォ」

 「駄目だ……性欲が全身にまわってる」

 「どういう意味だよそれ」

 「どう?春樹、私の愛」

 「……75点……」

 「「採点はするんだ」」

 「それじゃ私今日は帰るね」

 「……家にいるんじゃなかったのか」

 「女の子はね、見せたくないものがたくさんあるの」

 そうして相川は帰って行った……あの格好のまま。捕まらないのか⁈

 「……生理?」

 「「ノンデリ!」」

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