#09 奴隷になろうよ

《前回までのあらすじ》

・すごく真面目な窮地だ。


 「いよいよ諸君に言いたい」

 バアルがいつもの部屋で、悪魔たちに向かって、真剣な声色で言う。

 しかしその手にはマシュマロを刺した串があった。

 ビフロンス以外のメンバーはいた。

 当の彼はというと、『精神を磨耗した』といってどこかに去っていった。

 「……久しぶりに顔出したのに、なに?」

 マルコシアスもいた。平日の昼なのだがいいのだろうか。

 バアルはそばにある溶かしたチョコレートにマシュマロをくぐらながら言う。

 「いよいよ我々は新たな仲間を失った」

 「それがどうしたのよ」

 グレモリーはキョトンとしている。

 そもそもあんま興味もないだろうが。

 くぐらせたマシュマロを口に運び、咀嚼しながらバアルは言う。

 「つまり、これからは一回負けた者が毎回毎回ローテーションで襲っていくということだ」

 「……それで何十話も続けていくと?」

 レラジェは訝しんだ。

 「そうだ、アンアンアンだ」

 もうすでにバナナを刺した串を持っていた。

 「アンパンマンでしょ?」

 フォカロルは恥ずかしそうであった。

 毎夜そうなのかもしれない。

 「この作品終わっちまうよ!そんなの!」

 ブネは頭を抱えた。

 自分はそんなバリエーションのある方ではないからだ。

 「各々新ネタを用意するように」

 「芸人でも毎回新ネタはねぇよ⁈」

 マルコシアスは突っ込んだ。

 娘とよく見ているのかもしれない。


 「あれー?でも、そこにもう一人いるじゃないですか」


 少年のような声が聞こえた。

 声の主の姿はどこにもない。

 しかし、疑いを抱かせるには十分であった。

 「……今の、事実っすか?」

 ブネはバアルを見つめる。

 バアルはいつも通り仏頂面であったが、しかし目が少し泳いでいた。

 スロットの速度を調節するのだ、ブネにはその細かな違いがすぐにわかった。

 「出せ!」

 ブネはバアルに掴みかかった!

 もはや上下関係はどこにいったのだろうか?

 「みんな行くぞ!」

 「「「「よし!」」」」

 残りの四人も全員バアルに飛びかかった!

 無惨にチョコレートマウンテンが倒れる!

 バアルもその場に倒れた!


 「待て、貴様ら、そんな感じだったか」


 「あんたが腑抜けたんだろ!」

 フォカロルが馬乗りになって言った!

 「今もこれ、チョコレートマウンテンなんかやりながらする話かよ!」

 鬱憤が爆発しているようだった。

 「つい」

 「バカチン!」

 ビンタがバアルの頬を襲う!

 バアルは気を失ったようだった。

 しかし右手には球状のオーラが表れていた。

 「大分風を纏わせましたね」

 「それくらいしていいさ」

 「さて……誰かいい人は……」


 すると、ドアがノックされた。

 「ピザ屋のものですけど〜」

 「あ、どうぞ」

 「こちらデザートピザの〜」


 緩そうな糸目の女の子だった。

 制服が割と似合っている。

 

 フォカロルはすかさず、バアルの体を持ち上げて、右手をかざした!


 「あ、あえ、お、お会計……」

 ピザ屋の子はその場に倒れた。

 その瞬間、ピザを差し出していたのでしっかり受け取っておく。

 「さて……」

 「にしてもさっきの声はなんだ?」

 ブネは疑問を言った。

 「……どこかで聞いたことのあるような、ないような……」

 「声そのものが幼かったわよ」


 「……若い悪魔か?」


 マルコシアスは明確に発音した。

 「ここ最近で、何体生まれた?」

 「……大いなる意志には、アクセスできない。ダンタリオンに聞くくらいしか」

 フォカロルは、そう答えた。

 「めんどくせーなー……」

 とマルコシアスがあくび混じりに言う———


 ———その瞬間、何やら肩に手が置かれた。


 「何がめんどくさい、言ってみろ」


 そこにいたのは……先ほどのピザ屋の子であった。

 その時点で………あまり温厚な方ではないことがわかった。


 「悪魔が、そんなこと言うと思うのか?」


 「その言い方……パ、パイモン……」


 ((((やらかした!))))

 全員一致していた。


 「あいかわらずお前らはその調子か」

 パイモンはどこからか椅子を持ってきて、まるで自分が主人かのように、ふんぞりかえって座った。

 「……」

 それ以外は全員正座させられていた。

 それほど、威圧的なオーラを放っているのだ。

 「悪魔たるもの、常に使命を第一に、しかし世界に影響を与えないよう動くことを考えるべきだ」

 「「「「「はい」」」」」

 「しかし私のこの格好、お前らはたるんでいる。使命の執行者としての自覚がないように見られる」

 沈黙。

 ぐうの音も出ない。

 

 「な、なんだこの空気は」


 バアルは目を覚ました。

 そして目をガン開きにした。


 「や、やったな!貴様ら!」

 「いい度胸だなバアル」

 パイモンは椅子から腰を上げ、バアルの方に近づいていく。

 そしてその顔を踏みつける!

 「お、お、おぉぉぉぉ」

 「貴様の一存である側面もあるだろう?」

 「やめろ、ぐりぐりするなぁ」

 

 (((((草)))))

 5人はひとつになった。

 「さて……ここまで腑抜けになったお前らを、叩き直そうじゃないか」

 「え?」

 レラジェが少しうわ言を言った。

 

 その瞬間、パイモンに背中をムチで強打された!


 「ぐぉ!」

 「鳴くな豚!」

 

 「俺会社戻らなきゃ……」

 マルコシアスはそう小声で囁いてその間に逃げようとした。


 が、ドアに手をかけたその時に、同じようにムチで背中を強打された!


 「おぉん!」

 「ここに来ている時点で、会社に戻る資格はない!」

 「あぁん!私もお仕置きしてぇ!」

 グレモリーが物欲しそうにパイモンを見つめる。

 「お前は打たないでおく」

 「あぁ!放置プレイ!」

 「……顔だけは……勘弁してください」

 フォカロルは土下座した。


 「お前は勘弁してやろう」


 「お、俺も……」

 ブネも土下座する。


 「豚が喚くな!」

 「ピギィ!」


 「「「「いや、お前はだめでしょう」」」」


 「何故⁈」



 一方その頃安藤は。

 「安藤〜ラーメンの無料券もらった〜」

 「まじで」

 「ラッキーですね」

 休日の道で相川に会っていた。

 みんな私服である。相川はTシャツに短パン、相川はノースリーブのブラウスにジーンズを身につけていた。

 「何してたんだ」

 「ちんぽ」

 「さんぽ」

 「……行けるのか?」

 相川はすごい顔をしていた。

 「行くさ」

 「そっか!その先なんだ」

 可愛らしい笑顔になった。

 口調の割に顔はコロコロ変わる。

 「へーそんなんあったんだ」

 「豚骨の店なんだけど、お前どうするんだ?こってりとあっさり選べるけど」

 「白濁どろどろこってり」

 「へ〜意外だな」

 (こいつ絶対全然違うもの思ってるな……)

 ダンタリオンは勘づいた。

 

 「グラシャ=ラボラス」

 すると前方から妙に厳しい声が聞こえた。

 ひたすらに、相手を制することのみが声色に含まれている、そんな声である。

 

 「なんだなんだ」

 「ワッ!」

 相川は目を塞いだ。


 目の前にはボンテージ姿に着替えたパイモン……そして全身をボンテージで固めたこれまで出てきた悪魔たちがいたからだ!


 「パイモン!貴方まで出てきましたか……」

 「みんな痴女になっちゃった」

 「痴女か⁈痴女なのか⁈」

 ダンタリオンは、すね毛が多いマルコシアスを指差して言う。

 「いや……待て!あれをみろ!」

 相川は右手で顔を隠した状態で、左手で端っこを指差した。

 左利きなのだろう。右手で顔を隠せてはおらず、ガン見していることがよくわかる。

 

 そこにいたのは、一人だけブリーフのみを身につけ、目隠しをしボールギグを口につける、ブネの姿であった!


 「似合ってますね」

 「インスタでバズるよ」

 「そうなのか?」


 すると、ムチが地面に叩きつけられた!

 「茶番はそこまでだグラシャ=ラボラス。特に問題行動も見られない状況での使命の妨害、なんとも許し難い」

 ダンタリオンは真っ赤になっている。怒り新党のようだ。

 「それは!こんなに悪魔がいること自体がおかしい……」

 「黙れダンタリオン。貴様に信仰心がないことはわかっていたが……まさかここまでとはな」

 「ぐぬぬ……」

 「とにかく!そこのオーバーロードもあわせて、お前たちにはお仕置きをせねばな!」

 「受けなきゃ……」

 「貴方は反抗する意志を持ってください」

 「……理解し難いな、悪魔」

 相川が久しぶりに炎を発生させ、そこから刀を取り出した。

 そのままパイモンに切り掛かる!


 しかし、それをレラジェ、フォカロル、マルコシアスが手足を使って阻止した!


 「なっ……」

 「行け!総攻撃!」

 そうパイモンが命令すると、三人は相川に向かっていく!

 そして相川を取り押さえた!

 「なんで攻撃しないんですか!」

 「……必要以上に傷つけたくない」

 「そうか……悪魔に対する、さまざまな心情の変化があったんだな」

 「なんでアニメ情報誌みたいな説明?」

 

 そのまま彼女をうつ伏せに倒し、そのままジーンズを下ろした!

 彼女の尻が露わになる。

 「なっ⁈」

 相川はさすがに焦っていた。話が違う!殴れ!


 「な……なんてことを……」

 「前屈みになるな!」

 「いやぁっ、見ないでぇっ」

 すごく情けない声を上げながら、両手で顔を抑える。

 「じゃあ見ないけど見たと言ってくれ」

 「ほんと性癖歪んでますね!」


 よく見ると、瞬間的に両手の拘束を外していた。

 それらは全てレラジェによって行われたことである———百合好きの彼によるなら、何かわかってのことであろう。

 

 だがしかしお仕置きしないということではない。


 「痛っ!」

 レラジェは手袋をつけた状態で相川の尻を叩く!叩く!


 「やめろぉー!」

 安藤が止めに向かう!

 しかし、前方に謎の影が現れる……!


 「あ」

 目の前にいたのは、バアルその人であった。

 瞬間激しい蹴りが安藤を襲う!

 見事に腹をとらえる!

 「ぐお!」

 「……全ては大いなる意志のままに……」

 「洗脳されてんの⁈されてないの⁈」

 そのまま激しいラッシュが続く!続く!

 「ぐぇぇぇぇぇぇぇ」

 「安藤さん!」


 (私はいくら叩かれてもいい……だが……安藤だけは……安藤だけは……!)

 すると、相川の目の前に、謎の人物が現れた。

 正確にはそれは目の前ではない……彼女の意識に問いかけているのだが、それは高次情報のため、脳は無理やり、他者として、その場にいるように、認識するのである。

 根暗そうな、ボサボサの髪に痩せぼそった身体。そして、その全てを舐め回すような卑屈な目が、彼女を見据えていた。

 「こ……困ってるみたいですね、陽奈ちゃん……えへ、えへへ」

 「アスモデウス……!」

 「だって、あんなに強い陽奈ちゃんも、安藤さんの前だとふ、ふにゃふにゃなんですもん」

 「何⁈」

 「気づいてないんだ。せ、生徒会長やってる時も、勉強してる時も、寝る時だって、ず、ずっと安藤さんのこと、考えてるの」

 「そんな……私は、別に……」

 「力あげますよ。と、とっておきの力」

 「なぜあんなにボロボロにしたのに、そんなことが言える」

 「だって、い、今のあなた、すごく、ふにゃふにゃに溶けてるんだもの」

 「そんなはずは!」

 「じ、自分に正直になってくださいよ」

 そういうと、アスモデウスは消えた。


 「あばばばばばばば」

 安藤は殴られすぎてラズベリーみたいな顔面になっていた!

 「いたたたたたたた」

 相川も叩かれ続けていた!レラジェは当然かもしれないが熱が入っている!

 「……貴様ぁぁぁぁぁ!」

 

 相川の身体から火花が現れ始める!

 そして相川の身体は燃えた!

 「アァァァァァ」

 レラジェは声を上げながら真っ黒になっていく!

 そのまま立ち上がり、パイモンの元に向かっていく!

 「次は貴様だ、パイモン」

 「よかろう。来るが良い」

 そう言うとパイモンは他の悪魔たちを引かせた。一対一には応じるタイプのようだ。

 「いくぞアスモデウス———」

 そうけたたましく叫んだその瞬間———


 相川が刀を振り下ろし、その瞬間辺りが爆散した。


 「フーッ、フーッ……」

 相川は刀をたずさえそこに立っている。だが、周囲はみな真っ黒になっている。

 熱を操れる炎の力は相変わらずのようだった。

 (神秘圧縮させるために、し、出力を少し上げただけなんだけどなぁ……)

 アスモデウスは中でそう思うしかなかった。

 彼女の潜在能力は高すぎたのだ。

 普段どれほど力を抑えているのか、と言う話だ。

 (もし……もし『あの力』が出てしまったら、こ、この子はどうなるんだろう)

 アスモデウスは恐ろしくなった。


 「な、何がどうなってる?」

 安藤は真っ黒なまま立ち上がった。どうやらさほどダメージを食らったわけでもないようだ。

 「あ……相川さんがぶっ放したみたいです」

 「なら仕方ない」

 「男をみせた」

 

 「な、なんだこれは」

 バアルは二重の意味で目が覚めたようだった。

 その他のメンバーたちも起きていく。

 そして最後にパイモンが起きた。

 ボンテージは他の者と違い完全に燃え尽きて、一糸纏わぬ姿になっている。だが、そこで最も堂々と、仁王立ちしているのもまた彼女であった。


 「す、すまない……」

 「いや、私の負けだ。ここまで全力を出して敵に向かい合う覚悟、あっぱれだ」

 そう言うと踵を返して、どこかに去っていった。

 その先では夕陽が燃えるように、大地を照らしていた。

 「ついに痴女完全体になった」

 「究極体でしょう」

 「ラーメンは?」

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