#08 神秘を圧縮

《前回までのあらすじ》

・こいつ無敵か⁈


 ———ドームが割れ、異形の影が姿を見せた。

 骨が重なりに重なったような容姿をしている。元の引きこもり少年のような痩せたイメージではなく、マッシブなイメージである。

 「なんだありゃ⁈」

 「あれこそ悪魔の真の姿……それを可能にするのが神秘圧縮!」

 「どういうメカニズムなんだ?」

 「自分自身のデータを無理やり圧縮して、空いたとこに自分のデータを派生させたものを、これもまたギチギチに書き込むんです。そうすることにより、普段の三倍ほどの能力を行使できるようになる、ということです!」

 「オーバーワークってわけか」

 「なのでそんな持つわけではありません……すぐガタがくるので」

 「耐え忍べばいいのか?」

 「ええ、はい」

 「簡単な話だ」

 (イキ過ぎた性欲は、ここまで人を変えるのか……)

 ダンタリオンはなんかノリの違う安藤に、何か恐怖を感じた。

 

 「いくぜ!殺戮の王!」

 すると、ビフロンスは右手に掴んだ骨を変形させ、杖のようなものを作り出した。

 その杖を地面に叩きつける。

 破片は、一直線に安藤に向かっていく……。

 

 すると、破片が鋭い棘の形を持って、いしをもったように彼のチンポに突き刺さっていく!


 「ぐあぁぁぁぁぁ!」

 「嘘!」

 ダンタリオンは驚くしかなかった。

 ———これを実行する気持ちはわかるが、ここまでするとは。


 「クックック、ご自慢のモノを傷つけられた気持ちはどうだい?」

 ビフロンスはハイにそう問いかける。

 そうでもしなきゃやってられない。

 「……俺はお前に感謝してるんだ……復活させてくれたからな……」

 「なに?」

 「だからなるべく傷つけやしないつもりだったが……こうまでしちゃあ貸借りなしだ、俺も全力でやらせてもらうぜ」

 (全力どころか、最近力出してたっけ……)

 ダンタリオンはその態度に困惑する。

 最近まともに戦ってないのに?

 

 黒い煙が、安藤の周囲に立ち込めた!


 「えぇっ⁈」

 「我は孤高———」

 そのまま詠唱を始める。

 「身体に通う 赤き血も 何も求めず ただ凍る

  愛を求めて殺すまで 老若男女殺すまで

  しかし湿らず 我の身は ただ荒涼と乾くまま

  やがて蠢く赤き血は 黒き淀みと成り果てる

  ただ殺し 永遠に殺し 海となす

  故に孤高 故に修羅

  我を称えよ———殺戮のグラシャ=ラボラス


 (なんで詠唱が可能なんだ……中のあいつが、許可したのか⁈)

 ダンタリオンは彼の中の悪魔に、理由を求め続けるしかなかった。

 もっと早く動け。


 そして煙は凝縮していき……そして固まったドームが割れた!

 

 そこにいたのは、異形であった。

 角を生やして真っ黒な体をしている。が、のっぺらぼうな状態であり、顔がない代わりなのか全身を真っ赤なラインが走っている。

 筋肉は必要最低限なだけついているように見えた。

 これこそ、殺戮の王として、最適な姿なのだろう。

 

 「かかってこいよ、小骨野郎」

 そう安藤は挑発する。

 「あぁ……言われなくてもなァ!」

 ビフロンスの足元がどんどん盛り上がっていき、やがて彼は宙に浮く。

 彼の足元は、巨大なゾンビの頭へと変わっていたからだ。

 ほぼ肉塊のような姿をしており、ところどころに埋め込まれたように、顔面がちらほら現れている。

 「いつかのチンポのほうがデカかったぞ」

 (ここでする返答なのか……?)

 「いけ!我が最高傑作よ!」

 ゾンビが何本もの触手を安藤にけしかける!

 

 しかし、瞬間で触手は全て切られてしまった。


 「終わりだ」

 安藤は全速力で拳を握りゾンビに向かい———そして貫いた———が、しかし———。


 ゾンビは滅びるどころか、空いた穴を修復していたのだった。

 「……なるほど、一人だけじゃないんだな」

 ビフロンスは不敵な笑みを浮かべる。

 「あぁそうだとも……こいつの中には俺がストックしていた10000人の命が入っている!今ので9999人にはなったが……しかし、このまんまだと神秘圧縮は解けちまうなぁ!」

 「……」

 (すごく真面目な窮地だ)

 「……手も足もでねぇか!遂に俺の勝ちだなグラシャ=ラボラス!俺の方が、正しかったんだよ!」

 「……生憎、今計算は終わった」

 「何?」

 「五秒間だけだ」

 「どういう意味だ、おい」

 

 安藤は巨大なゾンビに向かう!


 すると、ゾンビを謎の図形が覆った!

 その線は、安藤に入るものと同じだった。

 「「じゅ、術式!」」

 「———刹那緋色地獄アンダルシア


 するとその瞬間、ゾンビの周囲に透けた安藤が何千人も現れて———

 ———各々ゾンビを殺した。

 その直後に透けた彼らは消滅した。


 「これで一人だ」


 そうつまらなそうに言う安藤は飛び———


 カカト落としで、巨大なゾンビを両断した!


 あたりに黒いものが撒き散らされる。おそらく血液の成れの果てであろう。


 「計算とはこのことか……自分の思考をさらに世界に存在する体として考え、その思考の複雑かつ膨大な計算量を、神秘圧縮で増やした部分で賄う……そして、瞬間自分の殺害シミュレーションを術式の範囲に起こし……『殺した』という事実を、存在してないのに、存在していることにしやがった」

 「終わりか?」

 安藤はつまらなさそうに言い放つ。

 「くそ、くそ、クソォッ………」

 ビフロンスは四つん這いになり、悔しそうに両腕を地面に振り下ろし続けるしかなかった。

 そして両者から白い蒸気が放出される。神秘圧縮が解かれたのだ。


 そこにいたのは———情けなく悔し涙を流すビフロンス、そして———ギンギンに勃起した安藤であった。


 「まだ治ってなかったんですか⁈」

 

 「俺は諦めねぇからな……」

 ビフロンスは、そう打ちひしがれた様子でつぶやき、去っていった。

 「安藤さん……」

 「どうやら興奮しすぎていた気がする」

 「自覚があった」

 「……にしても結局教えてもらってないんだけど」

 「ほら!早く!相川さんのとこに帰る!」


 病室に帰ると、相川はまだへたり込んだままであった。

 「起きろ」

 安藤が肩を叩くと、相川は目を覚ました。

 「ん、んん、あ、安藤。私何してたんだ」

 「寝てたのさ。疲れてたんだろ」

 「そうか……いや、なんでお前立ってる⁈」

 「治った」

 「病み上がりなのにそんな……まぁいいか、おめでとう」

 「ありがとう」

 二人は見つめ合う。

 そこに二人しかいないかのように。

 あの時から、二人の世界は、変わってなんかいないのだ……。


 (あいつ、ポケットに手突っ込んで押さえ込んでる⁈)

 ダンタリオンは見逃さなかった。

 

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