#10 七つ起きして

《前回までのあらすじ》

・なんでアニメ情報誌みたいな説明?


 「悪魔って、これでほぼ出揃ったんだよな」

 あの後ラーメンを食べた後の夜、安藤はいつもの自室の机で何気なくダンタリオンに聞いてみた。

 「えぇ。いいことが悪いことかわかりませんが」

 「どうしてそんな答え?」

 「今現在、大いなる意志は反応を起こしてはくれません。なので、彼らを送り返すこともできず、私たちはひたすら彼らを止めるのが続く、ということです」

 「しかしもう使命から逃げようとしてる奴もいるから実際はもっと相手は少ない———ってことか」 

 「なので、ある意味気が楽になるってわけですね」

 「ずっとこれが続くのか……」

 (疲れるんだなこいつも……)

 ダンタリオンは彼のその精神性が、ますます分からなくなっていた。


 

 そして翌日、いつものビルでは。

 「どうすればいいのだ」

 バアルが珍しく頭を抱えて椅子に座っていた。

 「どうしたんです?はいココア」

 フォカロルは義務と私情半々で彼に声をかける。ココアも持っている辺り、ある種彼に親しみを持ち始めたのかもしれない。

 「最近、ダンタリオンの言い分が正しいように思えて仕方がない」

 「まぁそれは人それぞれでしょう」

 「いや、違う。大いなる意志は間違っているのなら、なぜ私に送られてくるのだ」

 「それは貴方がそういう役割だからでは?」

 「連動して、私は常に間違い続けなければならない!悪魔を運ぶ者として!そのことが、どうにも、こうにも」

 「気に食わない、と」

 「あああ恐れ多い」

 「大変ですね……」

 今度は全て私情だった。

 

 「可哀想だねぇーバアル」


 謎の声が響く。

 少年のような少女のような、中性的な声。

 それは昨日彼らにあのことを伝えた声と同じものであった。

 そして今度は、その姿も見せているようだった。


 「「アスタロト!」」

 ———そう呼ばれたその者は、おかっぱ頭に小柄な体躯と、一見少女のように見えた。が、その貧相な身体に、その鋭い目つきは、そう思わせることをはばからせていた。

 そのコートにショートパンツ、さらにタイツを下に履いている、という服装もまた、それを増長させていた。

 「やぁやぁお二人がた。他の者たちは?」

 「暇ができたら来る」

 「暇ができたら!暇ができたらと言ってるのかい?」

 「何がおかしい」

 「いや、君のその態度の割には、妙にゆるいなぁと思ってね」

 「何が」

 「一貫してないのさ。いちいち威厳を見せてるくせに、別に組織としては厳かな感じがない。変じゃないかい?」

 「いや、私は」

 「そっか、そろそろ休んだほうがいいんじゃない?」


 そうおかしそうに言うと、アスタロトはタロットカードをコートから出し、さらに宙にばらまいた!


 「な」

 「まずい!」


 カードたちは不思議なことに宙に規則正しく、裏向きにして並んでいた。

 しかしその位置では、アスタロトにさえ何が何の札なのかはわかっていなさそうだった。

 そしてアスタロトは少し悩む。


 (止められないんですか)

 (奴の能力は発動すれば選ぶまで永久不変、奴の不運を願うしかない)


 アスタロトが宙のカードを自分のところまで引き寄せた。

 カードをめくってみてみるや否や、何やらとても残念そうな顔つきをした。

 「やりましたか?」

 「いや」

 「え」

 しかしその残念そうな顔は、少し相手への煽りを含んでいたのだ———アスタロトはカードをめくって彼らに見せた。


 「そ、それは『悪魔』!!!」

 「え?何が、何?」

 「安心しなよ、見ればわかるからさ」

 そうすると、アスタロトはそのカードをバアルに向かって放つ。

 カードは瞬間的な速さのためバアルは把握できず———それは彼の額に刺さった!

 「大丈夫ですか!」

 「まずいことになった」

 「え?」

 するとフォカロルは声を上げた。カードにバアルから出たオーラのようなものが吸い取られていくのだ。

 そしてオーラが出なくなったからか、カードはアスタロトの手元に戻っていった。

 「はい終わり〜君ももうおしまいだね」

 「ど……どういうことですか⁈」

 「じゃあ見せてあげようか」

 そう言うとアスタロトは、今度は一枚だけカードを取り出した。

 絵柄は『魔術師』だった。

 すると、カードが瞬時に穴のように変化し、アスタロトはそこから制服姿の少女を引っ張り上げた。

 

 そして右手をかざす。

 やがて痙攣がはじまった。


 「え?そ……それは!!!」

 「そう!バアルの能力さ!どうやらボクはすごく運が良かったみたいだありがとう!君の不運に感謝するよ!」

 アスタロトはおかしくておかしくてしょうがないみたいだった。

 「クソッ!」

 バアルはダン、と地団駄を踏んだ。そこまで彼が取り乱しているのは初めてである。


 「ふぁ〜あ、……何よこれ、下品な体ね」

 そう制服姿の少女が起き上がりながらそう吐いた。

 確かにその少女は、身長の低さの割に女性らしい部分の際立ち具合が凄まじかった。

 「……バアル、にフォカロル、アスタロト」

 「……サタン⁈なんで⁈」

 「こっちが聞きたいわよそんなこと!」

 「ボクは七つの大罪のデータのキーだけは持ってたんだ———まぁ、君のおかげで完成したけどね」

 「これから、何をするつもりだ」


 「……ボクはこの世界が物語だと思っている」


 「チュウニズムか」

 「思想じゃないですそれ」

 「話を聞くとグラシャ=ラボラスも奔走しているそうじゃないか———あたかも主人公みたいにさ」

 「話?誰から聞いた」

 「まぁ協力者とも言っておこう。さて。物語を面白くするのはなんだと思う?」

 「キャラクター?」

 「ギャグですかね」

 「恋愛よ」

 「バアルが一番近かったね、そう。人間さ。人間の醜さ美しさを余すところなく描くことで、物語は深みを増していく。そして人の心に残っていくのさ」

 「だから、七つの大罪を呼んだのか」

 「そういうことさ。まぁ君にはどうしょうもないことなんだけどね」

 「貴様!」

 「おおっとぉ、能力を失った君にあるのは格闘能力くらいだけど……君はボクの能力を全部は知らないだろう?」

 「……」

 

 「すいませーん遅くなりました」

 マルコシアスが入ってきた。

 「申し訳ございません」

 レラジェも入ってきた。

 「全然出なかった」

 ブネも入ってきた。

 「抜けなかったわ」

 グレモリーも入ってきた

 「暑い」

 パイモンも入ってきた。

 

 「……また俺乗り遅れてる⁈」

 ビフロンスも帰ってきた。


 「すごく苦しいわよ」

 サタンがそう潰されながら言った。

 部屋はおしくらまんじゅう状態になっていた。空き部屋を利用しているからか、そんな広い部屋ではないのだ。


 「君たちに残念なお知らせだ」

 アスタロトが悲しそうに言う。

 「今回で終わり?」

 マルコシアスが悪気なく言う。

 「いいや。まぁ君たちが終わりという意味では、正しいかもね」

 「どういうことだよ」

 「君たちにの王は能力をボクに奪われてしまった」

 「え」

 「なぬ」

 「あぁん」

 「うそぉ」

 「む」

 「乗り遅れてた」

 誰が言っているのか、みんなで予想してみよう。


 「さらにそこにはサタンがいるだろう」

 「ハロー」

 サタンが小さく手を振る。

 「初めて見たなー七つの大罪」

 ブネが物珍しそうに言った。

 「と、いうことで君たちはもう仕事を果たす必要はない」

 「……では、これからどうすればよいのですか」

 レラジェが問う。

 「さぁ?普通に人として生きればいいんじゃない?」

 「そうか、そうしようみんな」

 マルコシアスが手を上げた。


 「俺は外回りに」

 「私は現場に」

 「俺もスーパーに」

 「わたしは小学校に」

 「私も授業に」

 「俺も配信に」


 マルコシアス、レラジェ、ブネ、グレモリー、パイモン、ビフロンスは続々と部屋から出ていった。


 「なんの葛藤もないわね」

 サタンは少しどうかと思った。

 「さてバアル。君も、もうどうしょうもないんだ……普通に生きてみたらどうだい?」

 「そんなこと/」

 瞬間、肩にフォカロルの手が、優しく乗せられた。

 「今では対抗できません。ここは一旦退きましょう」

 「しかし」

 「貴方を失ったら、均衡は崩れます。どうかしっかり考えてください」

 

 しばしの沈黙の後、フォカロルを連れバアルは部屋から出ていった。

 寂しい足取りであった。


 

 そしてその少し後安藤は。

 「まさか、ブラジルがあんな爆発してるとは」

 「ピラニア食べれませんね」

 なぜかアマゾンに向かおうとしていた。

 「ヒラメみたいだからって言うから、養殖しようと思ってたのに」

 「帰りヒラメ買いましょう」


 「面白そうな話じゃないか」

 

 「あ……アスタロト!」

 「な、なんだ、地獄少女か?」

 「そうなる気はあるんですね」

 目の前にはおかっぱで、コートにショートパンツにタイツを履いた悪魔がいた。

 「もう悪魔終わったって聞いたぞ」

 「いや……前に72体悪魔がいると言いましたね、あれは厳密には嘘です」

 「嘘ついたのか⁈」

 「近代、人間が発達する中で、これまでの悪魔では対処できないような取るべきバランスが発生しました。なので大いなる意志は、それ以上の悪魔を作ることになったんです」

 「じゃあなんで言わなかったんだ」

 「彼らは皆凶暴なんです。なので出るとしても5年に一回ほど……だったはずなんですけど」

 「ひとつ、教えてあげよう。ボクは大いなる意志に降ろされたんじゃない」

 

 「「なに!」」


 「おっと、それ以上は教えないよ?大切なことだからね」

 「俺はあまり女は殴らない主義なんだが……まさかそうしないといけない瞬間がくるとはな」

 「かかってきなよ、殺戮の王」

 安藤は久しぶりに能力に接続し、そして高速移動して彼女の前に現れた!


 するとアスタロトも、どこかからタロットカードを出す!そしてそれらはバラバラになり、宙に浮いた!


 「な」

 「気をつけてください!ブネと同じタイプです!」

 「ランダム性の代わりに可能な範囲がやたら広いってか!」

 「そーいうこと」


 アスタロトの手には、『月』のカードが握られていた。


 「紙切れ一枚で何ができんだよ!」

 安藤は拳を彼女に向かって放った———


 ———だが、その瞬間壁が発生し、安藤の攻撃は弾かれるどころか、安藤は吹っ飛ばされてしまった!


 そのままその辺の壁に激突する!

 「ぐお!」

 「安藤さん!」


 「安藤!」

 すると、見覚えのある人影が安藤の目の前に現れた。

 そう。みんなご存じ相川さんである。


 「任せておけ……私の力で守ってみせる!」

 「ちょっと待って?」

 そして刀を振り下ろし———


 その瞬間、安藤たちだけが爆炎に包まれた。


 前回のよりも強いのか、安藤と相川はもはや燃えカスが積もっただけのような見た目でそこにいた。わかりやすく言えば、砂のお城状態である。

 「これが『月』。大体の攻撃を跳ね返す無敵の防御壁……」

 「貫通スキルさえあれば……」

 「ゲームじゃないんですから」

 スマホは無事だったようだ。

 「安藤……すまない……」

 そう言って相川である灰の山は安藤である灰の山にすり寄った。

 「やめて!混ざる!」

 

 「まぁ精々怯えてなよ。いずれこの世界も君達もぐちゃぐちゃになる」

 「「私たちはひとつだ」」

 「もうそうなってない?」

 既にアスタロトは歩き出していた。



 一方再び例のビル。

 「おおさすがサタン、仕事が早いね」

 「言われた通り連れてきたわよ、ギラギラしたの」

 そこにはいつものように———だいぶ状況は変わったのだが———金髪の高校生がそこで寝かせられていた。

 整っている部類の顔であった。安藤とは大違いである。

 「マモンを降ろすのに、なんで指定したのよ」

 「彼は強欲の悪魔だからね———高校生くらいの人間は、欲望にまみれている。三大欲求はおろか、『何者かになりたい』とかいう浅いぼんやりしたものまでね」

 「ふーん」

 サタンにはあまりピンと来ないようだった。


 高校生の額に、手をかざす。


 そして痙攣が始まる。


 「さぁ……目覚めろ!」

 そして、のっそりと、身体を起こした。

 何故だか顔は下を向いたままである。

 「……どうしたのよ」

 「おい、顔を上げてくれ」


 アスタロトは彼の顔を見上げようと、下にかがんだ。


 その瞬間、彼はアスタロトの頬をつかんだ。

 「むぐっ」

 「うわっ」


 そしてそのまま、立ち上がりながら彼女を無理やり立たせる。


 「……お前がやったのか」

 彼は、何やら確かめているようだった。

 「……だったら、なんだよ」

 「その力貰うぞ」

 すると、彼の手にコインが現れた。

 妙に装飾が彫られている上、何やら血管のようなものが通っている。

 「お、おい、離せっ」

 どうやら相当強い力で頬を掴まれているらしく、アスタロトは身動きが取れない。

 そのコインをアスタロトの額に近づける。すると、自動販売機のように、そこにコインの投入口が現れた。

 

 そして、コインが投入された。


 「な、何がなんなのよ」

 サタンは何が何だかわかっていないようだ。

 「これでお前は俺のものだ」

 そう言うと途端に手を離す。アスタロトは反動で前に倒れる。

 「お前……マモンじゃないな?」

 「あぁ?んだそれ」

 「……やってくれたな」

 「反抗するならしてみろ」

 「やらせてもらう!」


 アスタロトはタロットカードを出す———


 「許可しない」


 ———が、即座に彼女のコートの中に戻っていった。


 「……無理ってわけか」

 アスタロトは少し諦めた表情を見せる。

 「あ、あんたオーバーロード、ってわけ?」

 「なんだそれ、俺は俺だ」

 そのまま、彼はバアルの座っていた椅子に腰掛けた。

 

 「君の名前を、教えてくれるかい?」

 アスタロトは笑っている。

 予期せぬ展開を喜んでこそいるものの、自分の思い描いていた予想が覆されたことへのちょっとした苛立ちも見えた。


 「西宮。西宮光来」


 そう、つまらなさそうにその男は言った。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る