これは、確かにSFである。
けれどもこれは、ミステリーでもある。
そしてこれはある意味で、「人間」というものに言及したものである。
あまり多くを語ればネタバレになる、というより、何をどう語ってもネタバレになるように思う。
ステルはプラットフォームを降りた。
まさにこの言葉にすべてが詰まっていると言えよう。なぜこのタイトルであるのか、なぜこう書いたのか。
最後に見れば分かる。ああ、これ以外のタイトルはない、と。
この作品にはずっと、音楽が流れている。
どこか悲しく、けれど背中を押すような曲が。
もう一度言おう。だから、ステルはプラットフォームを降りた、なのだ。
この言葉の意味こそが、この作品だ。
ぜひご一読ください。
作中に登場するショスタコーヴィチ『交響曲第5番』。
この曲への「正当な批判に対する一人のソビエト芸術家の実際的かつ創造的な回答である」という批評に対し、ショスタコーヴィチ自身が「私を喜ばせた」と表明している。そのため欧米では「正当な批判に対する、ある芸術家の創造的回答」という一文が、副題のように宣伝されたという。(日本では『革命』という副題で呼ばれることが多いですね)
本作には、『SFというジャンルに対する、ある小説家の独創的回答』と、本家へのオマージュをこめた副題を贈りたくなる。それほどまでに、独創性に満ちた物語だと思う。
『唯一の交響楽団』に入団するため集う登場人物たち。
奏でるはショスタコーヴィチ『交響曲第5番』。
一堂に会した楽団員と指揮者であるステル対峙する総連の場面では、吹奏楽時代のヒリヒリした空気を思い出して少し胃が痛くなったりもした。この物語では音楽が、そして音が重要な役割を果たしている。
楽団を描いた物語なのかと思いきや、それだけではないことが序盤で明かされる。楽団に入った二人は音楽家ではなく、世界の秩序を守る執行官だったのだ……と、ここまでの展開ですでに、ご飯三杯くらい食べられそうな濃厚な味付けだ。けれども、こんなもので食傷している場合ではない。ここから物語は……いや、世界は二転三転していくのだから。
わたしは、企みに満ちた物語が好きだ。この物語は企みに満ちている。
もしもあなたが本作の世界に飛び込むかどうか迷っているのなら、思い切ってダイブすることをオススメする。予想だにしない地平へと連れ去られる感覚を、ぜひあなたにも味わっていただきたい。
突然現れた『仮想世界』から、それを出現させた張本人〈ドリフター〉を強制退去させる仕事を請け負う巡理(めぐり)と十朗(じゅうろう)。今回の仕事でチーム解散を決めているふたりだけど、何やらいつもと違う様相を呈している。無事このミッションをクリアすることはできるのか?
と、あらすじをざっくりまとめるとこんな感じの当作品。細かい内容はぜひ作品ページをご覧ください。しっかり魅力的に紹介されていますので!
ジャンルはSFですが、タグにある通りミステリ&ファンタジーも存分に楽しめる内容となっています。ただミステリ感が強いので、ここで何かに言及すればどこかに引っかかりそう。伏線がみっちり張り巡らされていて、どこまで書いてOKか正直わかりません。
SF(スコシフシギ)な展開は終盤になるにつれドキドキが止まらず、「じゅ、十朗ー!」と叫びそうになります。あっ、ハピエンなのでそこはご安心くださいね(あらすじに記載あり)
序章と終章の印象がこんなにもガラリと変わり、そして違和感なく溶け込んでいく展開は素晴らしいの一言。ラストまで読めば、次は「あの人」に焦点をあてて読み返したくなる。全く違う世界が浮かび上がり、楽しむことができるはずです。
難しい言葉がそれほど使われているわけではない、それでいて重みを感じる文章。でも不思議と軽やかで心地よい読み応え。「重いの?軽いの?どっちだよ!」って思うでしょう?読めばわかります、ぜひ味わってみてくださいね。うふふ。
一度知ったらクセになる世界、一緒に飛び込んでみませんか。