第5話 第5戦 MOTEGI

 モビィリティリゾートMOTEGIの8月後半は、暑い日を迎えていた。残暑とは思えない真夏の暑さである。今日の最高気温は35度の予報がでている。

 Q1はいつものとおり山木がうけもっている。サクセスウエィトが響いていて、Q2に残るベスト8に入れなかった。朱里の出番はなかった。

 チームの雰囲気はよくなかった。2戦連続でのノーポイントがやはり影響している。MOTEGIのコースレコードをもっている山木が一番に不満を言うところだが、新人の女性ドライバー相手に言ってもしかたないと思い、だまっているからだ。

 決勝は10位スタート。今回は朱里がスタートドライバーだ。後半、山木が追い上げる作戦だ。朱里にはポジションキープが厳命されていた。監督の館山から

「勝負はするな。守れなければ来年の契約はない」

 と言われている。3戦連続でミスをすれば無理もない判断だと朱里も父も思っていた。

 スタートは慎重に行き過ぎたせいで、11位にさがった。チーム無線で

「そのポジションをキープしろ」

 と指示がはいる。

 10周目、GT300のマシンに追いついた。10位のマシンがてこずっている。ヘアピンでGT300のマシンをやっと抜いた。朱里も続いた。裏ストレートでスリップについた。90度コーナーで抜けるかもしれないと思ったが、ここは無理はしない。後ろにつくだけにした。すると、前のマシンは後ろからのプレッシャーに負けたのか、90度コーナーで左のグラベルにコースアウトしていった。これで10位にもどることができた。

 22周目、第5コーナーで9位のマシンに追いつくことができた。つづくS字でぴったし後ろにつく。ストレートでは離されるが、コーナーでは追いつくことができる。マシンの状態は決して悪くない。すると次のV字コーナーで前のマシンがオーバーランした。そこを朱里がインから抜いていく。勝負したわけではない。相手がミスをしただけなのだ。これで9位。

 25周目、またもや前のマシンに追いつく。90度コーナーで相手がミスをして、朱里の前になったのだ。ビクトリーコーナーで後ろにつく。メインストレートで離されるかと思いきや、スリップにつけた。先ほどのミスが響いているか、マシントラブルかもしれない。

 26周目、第3コーナーで前のマシンがコースアウトしていった。スピンをして後輪が右のグラベルにはまっている。マシンの半分はコース上だ。ここでSCボードが出された。セーフティカーが入る。

 28周目、メインストレートでGT500とGT300に分かれて整列する。朱里は8番目のポジションにいる。これで規定の1時間を経過する。レース再開とともに、ドライバー交代だ。

 29周目、レース再開とともに朱里はピットに入る。他のどのチームよりも早いピットインだ。残り34周。山木の渾身の走りが始まる。昨日のQ1落ちがよほどショックだったのだろう。コースレコード保持者としての意地なのかもしれない。

 34周目、全車がドライバー交代を果たし、順位が確定してきた。山木は7位にあがっている。ピットインのタイミングがよかったのだ。

 40周目、山木は90度コーナーで勝負をかけ、アウトに出て、ブレーキング競争をしかけた。インのマシンはブレーキを遅らせたが、適正なラインがとれず、立ち上がりで山木が抜いていった。これで6位。

 50周目、S字で追いついたマシンにV字コーナーで勝負をかける。GT300のマシンに道をふさがれ、前のマシンがアウトにふくらんだすきに、GT300のマシンのインに突っ込み、コースぎりぎりで抜いていった。まさに神技だ。朱里ではできないドライヴィングだ。これで5位。

 60周目、残り3周。山木の前にいるのはマリアである。前回のレースで相棒の山上がミスをしたので、サクセスウエィトは52kgと山木よりも軽い。山木はマリアの走りを観察している。さすがF1のリザーブドライバーだ。なかなかスキを見せない。だが、V字コーナーでのブレーキが早い。これだけの高速での鋭角カーブは世界を見てもなかなかないのである。

 63周目、ファイナルラップ。S字でマリアの後ろにつき、プレッシャーをかける。マリアは早めにブレーキをかけ、インをおさえる。山木はアウトに出てブレーキを遅らせ、マリアの前に出る。そして、アウトからマシンをかぶせる。マシン1台分のコースはあけてある。マリアは理想のラインがとれず、立ち上がりでにぶった。朱里は

「やったー!」

と歓声をあげた。山木は4位でフィニッシュした。表彰台にはのれなかったが、予選10位からのスタートでは上々の結果だった。ピットにも明るい笑顔がもどってきていた。

 山木がピットにもどってきて、マシンから降りると真っ先に、朱里が近づき、山木に抱きついた。

「山木さん、すごーい!」

と、心から喜んでいた。ピットのメンバーは拍手をしていたが、野島父だけは複雑な顔をしていた。

 レースの結果は次のとおりである。次戦はサクセスウエィトがポイント×1kgとなり、ハンディは少なくなる。

 1位 T社 №36 工藤・高山組  60P 

 2位 N社 №14 樋口・伊藤組  45P      

 3位 H社 №7  高橋・大木組  37P

 4位 T社 №11 山木・野島組  43P

 5位 N社 №3  山上・マリア組 35P

 6位 H社 №5  飯田・リリア組 42P

 7位 H社 №1  野沢・玉木組  54P         

 8位 H社 №17 米山・前田組  25P  

 山木・朱里組はランキング4位につけているが、トップのチームとは17ポイント。残り2戦で追いつけないポイントではない。サクセスウエィトは山木・朱里組チームの方が軽いのでチャンスはある。希望がでてきたのだ。

 次戦は、大分オートポリス。朱里にとっては初のコースだが、今日の粘りの走りで手ごたえは感じている。ポジションキープをする自信がある。山木は絶好調。上位に食い込むチャンスなのだ。

 

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