第16話 面 11月16日

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「あの遠くに見えるのが魔王城だ」

「すごい、ここからでも見えます」

「相変わらずデカいなあ」


 魔王城に向かう馬車の中で話し声が聞こえる。

 声の主は一人の少女と二人の生首である


「そうであろう。古き時代からある由緒正しい城だ」

 魔王の生首ヴァ―ルは自慢げに語る。

「まあ俺が少しばかり壊したけどな」

 勇者の生首アレックスイタズラが成功したような顔をした。

「だから門の右半分が無いんですね」

 少女クレアがおかしそうに笑う。



          2


 魔王城に向かう一行は、長い道のりの果てに城が見えるところまでやってきた。

 バレアーの伝言通り、ここまで魔王側から接触することは無かった。

 城が見える距離まで近づいても、接触してくる気配はない。


「しかし本当に何もないとはな……」

 ヴァ―ルは周囲を警戒しながら、仲間たちに話しかける。

「ああ、俺たちをどうこうする気はないのかもしれないが……。

 食事を用意すると言っていたから、毒でも盛るつもりなのかもな」

「私もそれが不安ですね。

 解毒魔法は使えますが、解毒できない毒もありますからね」

 アレックスの言葉に、クレアは不安そうになる。


「そこは気にしなくても良い。

 アイストは、無類の料理好きでな。

 もはや信仰と言っていいほど、料理を崇拝している。

 毒を盛るなど許さぬであろう」

「なるほど。それで料理を用意すると言ったんだな。

 じゃあ、たらふく食うか」

「……だからと言って、本当に気にせず食えるのはお前くらいだな」

 ヴァ―ルはアレックスの食い気にあきれたのだった。



           3


 城が見え始めてから一時間。

 まだ一行は城には到着していなかった。


「まだ着きませんね。

 えっと、本当に近づいているんですよね?」」

「気持ちは分かる。

 あんだけ大きいと距離感がおかしくなるんだよな。

 俺も魔術かなんかだと疑ったぞ」

 アレックスは、同感だと言わんばかりに頷く。


「人間の城も大きいのでしょうか?」

 クレアの質問にアレックスは苦虫を嚙みつぶしたような顔をした。

「あー、期待するのはやめた方がいい。

 大きいのは大きいんだが、見ない方がいい奴だ」

「分かったぞ。金銀財宝で悪趣味に装飾しておるでのあろう」

「……よく知ってるな」

「……冗談のつもりだったのだがな」

 クレアは背中に気まずい空気が流れているのを感じ、話を変えることに決めた。


「あっ、だいぶ近づいてきましたよ。

 近づいてみると大きいだけじゃなくて、彫刻などもあるんですね」

「その通りだクレアよ。門とは顔でもある。

 チャチなものでは話にならんのでな」

 ヴァ―ルはクレアの話題に乗り得意げに話す。


「そうだな。人間の城にもあったぞ。価値は分からなかったが……」

「アレックスよ。話を戻すでない」

「いじけないで下さいよ」

 いじけるアレックスをなだめつつも、クレアは馬車を進める。


 そしてもう一度門を見た時、クレアは誰かが立っていることに気づいた。

「アレックス様、ヴァ―ル様、門のところに人がいます」

「二人いるな。バレアーと……誰だ?」

「アイストだ」

 ヴァ―ルは言葉に、アレックスとクレアは思わず振り向く。


「今代の魔王が直にお出迎え、といういことか。

 敵意を全く感じないのも不気味だな」

「とりあえず大丈夫なのでしょうか?」

「そうだな。ここで襲うということもあるまい。

 大丈夫であろう。

 今のところはな……」

「気にしすぎてもしたかない。

 ようやく、やつのツラが拝めるな」

 少しも敵意のかけらもない魔王たちに不気味さを感じながら、一行は城へと向かうのであった。

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勇者の生首と魔王の生首 ハクセキレイ @hakusekirei13

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