その小娘はカフェの店主であるはずなのに、全く働こうとしない怠け者です
国の機関によって公式にカフェダンジョン『神処』が公表されてしまったせいで、今日もそこそこに来客があります。今日のエントランスは『シャワーズランプ』の方ですので、
そんな店内の隅っこの席に座って、自分の店なのに働きもせずにテーブルの上に置いた
勿論、勉強嫌いなこの小娘が授業動画を見ている筈もなく、そこに映っているのは『神処』の第一層へと先程潜っていった
「
なんでそんな事をしなくてはならないのですか。既に政府へ自動共有されている美登のダンジョンレコードにアクセスしているではありませんか。
本当に現代の文明というのは子供に対して害悪が過ぎます。
「いや、教育ママかよ」
『
『いや、育ちがどうとかで神格は変わらないってば』
そんな事はありません。神とて己の在り方を変えて善神となるのは可能なのです。
「自分で決めるから悪神にもなっちゃえるけどねー」
善を為しなさい、善を。
『悪神は排除されちゃうからね。てか、あたしだって悪いことはしてないよ』
悪を見て見ぬ振りするのは悪行ですよ。
「だーれが悪よ。わたしがいつどんな悪事働いたのか言って見なさいよ」
怠惰って言葉知っていますか。あとプライバシーの侵害も。
「……わたしはー、えらいダンジョンマスターだからー、中に入ってきた
口先ばっかりで思ってもない言い訳をするのではありません。仕事するのも嫌で、勉強なんて以ての外で、退屈凌ぎのドキュメンタリー感覚で見ているってバレているのですからね。
「だって! みんながコメントくれなくて神霊を産み出せないんだもん! わたしの仕事なくて暇じゃん!」
あそこでせっせとウェイトレスしている嵐が目に入らないのですか。飲み物も淹れられなくて食べ物も作れないとしても、接客は出来るでしょうが。
なんならケーキとかは出来上がってるものを冷蔵庫から出すだけでしょうが。
「美登ももう何度か通ったからレモハニへの道はばっちりだね、うんうん。また
話を逸らすにしてももっと上手に出来ないのですか。美登だって第一層の野生動物がどれも温厚で手出ししなければ向こうから立ち去ってくれるともう理解しているのです。
「ちゃんと初めにそう言ったのに、やっとだよ。これだから人の子は素直に話聞いてくれなくて困っちゃうね」
安心してください、貴女程ではありません。
「それにしてもあの刃金、いつも同じ子だね。美登のことが気に入ってるのかな。テイムできるかもって教えてあげた方がいい?」
あの刃金の個体は一つ前の前世が人の親でしたから、その時の娘と重ねているのかもしれませんね。ところでどんなに脱線させようとしたってわたしは記録と記憶の神格ですよ、話に流されて本題を忘れるとお思いですか?
「世界に命を満たしたわたしのどこが悪だとでも!?」
開き直るのではありません、このバカ小娘! やった事を誇るのではなくこれからの志で胸を張りなさい!
「いいことしてるもん! 美登だってギルドへ持ってくアイテムを貰いにレモハニに通ってるんでしょ? その第一層がこんなにも安全で気楽に歩けるのは、わたしのお陰なんだから!」
それを言ったら貴女がポンと神薬の一つでも来る度に渡してあげればいいだけでしょうが。必要ない苦労をさせる神の何処が善だというのですか。
「甘やかせばいいってものじゃないのよ、特に人間ってやつはね。付け上がるのが種族単位で染み付いた病気なんだもの」
鏡要ります?
「え、やっと納得してくれた? 良かった、やっぱ声が聞こえないと面白味に欠けるからさ」
灯理、ちょっとこっちに来てこの小娘の頭ぶん殴っていただけますか。お礼は何でもしますので。
「ちょっと、告げ口とかいくない! いくないよ!」
まだ灯理から受けた本気の折檻による痛みが堪えているのでしょう、小娘はびくびくと怯えた顔をして必死に自分の頭を守ろうと両手で抱えています。
「そこのド阿呆母娘、こっちは忙しいんだからじゃれ合いはそっちだけで済ませろ。あと
そんな、わたしまで灯理に睨まれてしまったではないですか!
わたしは至って正論を述べただけですのに!
「わ、わかってるよ、あとでちゃんとやるよ、今は美登が心配だから後回しにしてるだけだもん、本当だよ」
「……取りあえず邪魔しなきゃ今はそれでいい」
ふぅ……灯理は釘を刺すだけで納得してくれたようでまた接客に戻っていきました。
というか、彼、他の二人の三倍くらい働いているのに顔色一つ変えていませんが、本当にハイスペックでストイックですね。とても人間をベースにした肉体と精神とは思えません。
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