(3)

「で、結局、草原の民は……本物の王女様と……『勇士の中の勇士タルカン・バートル』だっけ?……草原の民の英雄を結婚させたいの?」

 隣国の王子様と、この国の第1王女の結婚の話は……偽物の王子様に続いて本物まで死んでしまったせいで、白紙に戻った。

 ラートリー達も、草原の民達も、草原に戻る事になった。

 そして、ラートリー達が、草原に戻る前日、ラートリーとその妹とアスラン……そして草原の民達は、第2王女に昼食に呼ばれ……。

「第1王女のミトラ殿下と勇士の中の勇士タルカン・バートルが結婚?」

 草原の民達は……笑いを堪えるので必死だった。

「えっ? どうなって……?」

 第2王女と……第1王女のフリをしてるウチのお嬢様は顔を見合せ……2人とも「どうなってんだ?」的な表情だ。

「結婚なんて出来る訳ないだろ。その2人はなんだから……。自分自身と結婚は出来ない」

 ラートリーは大笑いしながら、そう言った。

「ちょ……ちょっと待ちなさい。お姉様は……病弱だったので……」

「ああ、子供の頃に喘息気味だったので、空気のいい草原で治療する事になり……半年しない内に健康になった」

「はぁ?」

「健康にも程が有るぐらいに健康になったぞ。自分より齢も上で体も大きい男の子を数人まとめて、あっさりブチのめせる程にな……」

「ちょ……ちょっと待ちなさい……何を言って……?」

「今や夏至の祭ナーダムの武芸大会で3年連続全種目優勝だ……文字通り……『アスランの中のアスラン』だな」

「ちょ……ちょっと待ってよ、アスランって……まさか……」

 ボクは……思わず、そう訊いた。

「アスランは東方の言葉で獅子ライオンの意味だ。草原の民の夏至の祭ナーダムの武芸大会の優勝者の意味も有る」

「じゃ……じゃあ……病弱なお姉様を御守りする姫騎士になるって私の夢は……」

「残念でしたな……殿下。無意味な夢です」

「じゃ……ちょっと待って……まさか……本物の王女様は……」

 ポリポリ……。

 自称「アスラン」は……照れ臭そうな表情で自分の頬っぺたを掻いている。

「改めて、ご紹介いたします。この国の第1王女ミトラ殿下。この度、草原の民の部族長会議クリルタイより正式に『勇士の中の勇士タルカン・バートル』の称号を授けられた方でもあります」

 ラートリーは芝居がかった調子で、自称「アスラン」の方に指先を向け……。

「うそよ……」

 えっ?

 周囲の空気が一気に凍り付いたような……。

 そんな……嫌な……感じが……。

「そんなの……嘘に決ってる……。そんながさつな女が……私のお姉様の筈が無い」

 第2王女の口から出るのは……地獄の底から響いているような声。

 そして……。

「そいつは……偽物よ……。本当の私のお姉様は……」

 ぎゅっ……。

「あ……あの……」

 第2王女は……第1王女の身代わりの筈のウチのお嬢様の腕を握り……。

「この方こそが……私の本当のお姉様……そいつは……偽物よ……」

 え……えっと……ちょ……ちょっと待って……。

「その偽物を……私のお姉様だと言い張るのなら……」


……「身代わり偽王女とその侍女」第2部「今度は戦争だ‼(仮題)」に続く?

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身代わり偽王女とその侍女──ところで本物はどこ行った?── @HasumiChouji

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