(2)

「どうします? このままじゃ……あの阿呆王子と結婚する事に……」

「大丈夫、私は、あの方を信じています。何か良いお考えが有る筈です」

 どうやら……お嬢様は、王宮に来た夜にラートリー達に助けられた時から……ずっとラートリーの事を好になってしまったらしい。

 そして、ボク達は隣国の王子と一緒に、王宮のうまやの前にやって来ていた。

「一番、良い馬を頼む」

「……と言われましても……どのような馬がお望みでしょうか?」

 厩の番人は困ったような表情。

「足の速いヤツ。短距離向きの……」

「それでしたら……」

「待て、その見事な白馬だが……」

「あ……あの……それは……ちょっと……」

「ん? まさか見掛け倒しなのか?」

「いえ……体力も有りますし、足も速いのですが……」

「その馬は暴れ馬だ。貴方には乗り込なせん」

 その時、ラートリーの冷い声。

「もう少し大人しい馬を選んだ方がいい」

「全く、イチイチうるさい小娘だ。よし、試合では、これを使わせてもらうぞ」

「本当に良いのか? 試合は一般庶民も見物するんだぞ。王都の民の前で貴方が落馬なんぞしたら……貴方1人の問題では無くなるぞ。貴方の国が軽く見られる事になっても良いのか?」

「うるさいな。何様のつもりだ? でしゃばるな。この馬にする」

「大使殿……」

「えっ?」

 いきなり、ラートリーに声をかけられた隣国の大使は……困惑気味。

「貴方が証人だ。貴国の王子殿下は……御自分の意志でこの馬を選ばれた。私は危険性を指摘し、然るべき忠告をしたにも拘わらずな」

「ま……王子、いけません、その馬はッ‼」

 何かに気付いたらしい隣国の大使。

 でも、王子様は……。

「うるさい。お前まで言うか? この馬にす……」

 そして、颯爽と馬に飛び乗……。

 えっと……。

 まだ、始まってないよ。

 なのに、王子様と不釣り合いな、もの凄く立派そうに見える白い馬は……いきなり駆け出して……。

 ああああ……。

「うわああああ〜ッ‼」

 悲鳴が轟いた。

 とは言っても……一番大きいのは……王子様の悲鳴だったけど。

 ま……マズいよ、これ……。

 王子様は落馬したけど……片足があぶみに引っ掛かったまま……。

 暴走する馬に引き摺られ……。

 しかも、王子様の首が明らかに変な方向に曲って……。

 ああああ……。

「あの国の……他の王位継承者候補は、あいつよりマシだと良いがな……」

 ラートリーの声だけが呑気そうだった。

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