第4話 基礎能力を底上げするには

 九級から上の魔物の霊核の中に、たまに基礎能力や技能が入っている。

 技能は簡単には出ないが、基礎能力は比較的に出やすく、どちらも出す魔物が判っている。

 魔物の生命力を吸収する他に、基礎能力の自分に必要な部分を狙って上げられる。

 必要じゃない部分でも、取れたら上げておけば損にはならない。

 この長栄の森の浅層だと、敏捷を落とす九級の幼児サイズのリスが一番出やすい。


 帰って来てから五級のジジの鎧を収納したら、七級の皮なら加工出来るようになった。 

 キハダトカゲの皮で鎧を自分で作って、ジジババにリスのいる処まで連れて行ってもらった。   

 九級でも樹上を跳び回るリスは、少し奥にいる。

 八級の藪野干の群れが本気で出てくるようになる。

 夕香の両親は、獲物の横取りにたまたま二つの群れが来てしまった。

 長引くと更に他の群れが寄って来る。

 ジジババは三十匹くらいなら一人で蹴散らせるが、牽制の軽い波状攻撃を受け続ければ霊気が尽きる。

 夕香の父親は討伐人だったが、母親が採集人だった。防御しているだけでは囲みから抜け出せもしない。


「必ず斥候を出してやがるから、こっちが見つけたらそいつをやっちまえばいいんだが、別のもんを獲ってると群れが来やがるから、一旦下がるしかねえ。野干蹴散らせねえと、意外にこの辺りは儲からねえんだ」


 野干はジジババに任せて、頭より上の気配を探る。

 リスがいたら小石散弾を連射。皮が駄目になるのだが、霊核が目的なので構わない。

 技能も基礎能力も、一人で倒さないと得られない。

 実力がないのに貰った核で上げさせないためだろう。


 リス七匹で敏捷玉一つ。キハダトカゲが四匹、ツタヘビが二匹獲れたので、かなりの儲け。

 リスと爬虫類の区別がつく。二級違う所為か。


「せめて、芳莉が十三になるまでいてくれると助かるが」

「俺だって、ジジババじゃなかったらこんなに稼げない。国の養成所も十五からだし」

「そいつぁ、お互い好都合か」


 急がない方がいいと思う。行った先で絡んで来た大人を瞬殺出来る訳じゃなし。

 ここならジジババの孫で、石刀せきとうの蒼隼で通っている。

 ボロいリスの皮はそのまま売ると買い叩かれるので、サンダルにする。

 風合いがいいのでちょっと上物。

 普段履きなら一匹から二足分取れるが、贅沢に一匹分で一足、甲革と踵のある横が開いている靴みたいなのを作った。

 余った革は修理用に取っておく。


 ジジはあれば履くみたいな反応だったが、女性陣が喜ぶ。

 シンデレラの靴はリス皮の誤訳だったなんて、全く使えない知識が残っていた。

 夕香にやったら、神殿の女性神官が欲しがるので、卸値で卸した。只な訳はない。

 買い取り値は普通、小売値の十分の一から五分の一。

 流通経費、在庫管理費、店舗維持費、売買の人件費等を考えたら、妥当だと思う。

 RPGみたいに、何でも半額、無限買い取りなんてありえない。


 敏捷を五個吸収したら機敏になったので、野干の斥候を倒させてもらう。そこそこ索敵が出る。

 礫はまとめて持ちやすいように、六角柱の先を尖らせた鉛筆型にした。

 使い捨ての棒手裏剣。意味もなく一握り一ダースになる太さにする。

 リス用は穴が開かない方がいいので、正二十面体の礫。それでも痛むけど。


「これ職人に作ってくれって頼んだら、金取られるよな。おめえなら拾った石でいいんんだ」

「ああ、投げ捨てだから、砂漠の砂を使う必要もない。レイ叔母の分も作っておく。いくらあっても錆びたり腐ったりもしないし」

「おう、職人が一人身内にいるってのが、こんなに楽だとは思わなかったぜ。他人に頼みゃ何しても金取られるからな」

「連れまわしてもらってるからだよ。商売出来る人と比べちゃいけない」

「たまにおめえ、ませてるってより、俺より年上なんじゃねえかって気がするんだよな」

「なんだそりゃ」


 ジジは結構鋭い。野生の勘みたいなのか。


 石鉛筆の一ダースまとめ投げで牽制すれば、野干一匹なら確実に倒せた。

 斥候でなくても索敵持ちはいるので、十三匹目で索敵が手に入った。

 技能玉でも全体の能力と霊力量が上がる。

 野干が狩っている七級の小型の羚羊や猪を狩る準備として、群れを減らしておいた。

 羚羊は頭突きが打撃二割り増しの強打になるので、打撃の技能玉が出る。


 小型とは言っても体重十桶超なので、一人で倒すのは無理。

 ジジババはどっちも一人で倒せる。

 この辺りに来ると、碧梨アオナシと呼ばれている、外面ピーマン内心キウイの蔓植物がある。

 美味しいカラスウリかも。無理に地球の物に当て嵌めなくてもいいが。


「採集持ちがここまで来れりゃ、結構稼げるんだが」

「キハダ皮の鎧付けたら、夕香を連れて来れるか」

「ああ、おめえがもうちっと強くなってりゃ、いいだろ」

「能力玉出すので倒せそうなのは、防御のツタヘビか」

「そろそろ一人でやれるだろう。初撃はおめえが取れるんだし」

「うん、やらせてもらう」


 ジジババなら瞬殺の処を、少しお時間を頂く事になる。

 見つけたら武器を両手持ちの笹穂槍に替えて、棒手裏剣を投げ付けて落として、振り下ろしの威力で叩くみたいに斬りつける。

 槍が痛むが、自分で直せる。

 九匹でやっと出た。

 帰りに地面を意識すると、ネズミとは別のものがいるのが判る。


「なんかいるから、ちょっと攻撃する」

「おう」


 棒手裏剣の束を投げると何かが逃げ、ジジに撃ち殺された。

 猟犬みたいに走って取りに行く。


「藪ウズラだぜ」


 ヘッドショットで頭が吹っ飛んだ、ニワトリより少し大きな黒茶斑の鳥を逆さまに下げて、ジジが戻って来た。


「そっち入れとけ」

「うん」


 血が流れ出ているのを収納する。そんな事はないんだけど、中が血塗れになりそうで嫌だ。


「今日からウズラ食べ放題だね。次はあたしがやるよ」


 ババが乗り気になるが、誰が料理するんだ。

 話を聞くと、宿の食堂に持ち込みで調理してもらうようだ。

 若い頃からの惰性で今の安宿に住んでいるが、食堂は安いだけなので、もう利用していない。

 そんな不義理をしていてもやってくれるのかと思ったが、ガラを上げればやってくれるのだそうだ。


 夕香を神殿に迎えに行っている間に、料理は出来ていた。

 メインは骨付きモモと胸肉のステーキの食べ比べ。

 食べ切れなければ収納して、おやつにでもすればいいので、全員大き目のアヒルくらいの鳥肉ほぼ半身。

 ヘビ肉よりくせがなくてコクがある。ツタヘビはラムくらいのくせがある。

 豪勢な食事をしながら、今後の予定を話し合った。もう何度も言っているのだけど。


「夕香は授かれるなら、錬成と鑑定か」

「うん。宝飾は材料が細かいから」


 金属の塊を見つけると収納してあるのだけど、適性がないのか精製が出来なくて、鉱石としか判らない。

 戦闘をメインにしている所為か、採集も生えないので、植物も知らないと収納しても名前すら判らない。


「碧隼がリスめっけられるなら、芳莉は射撃と強撃が貰えりゃ安泰だ」

「その辺りは、もう変わらないね。あとは頂けるかどうかだよ」

「ソウは、なんかこれが欲しいってのはねえのか」

「夕香が十二になる前に、毛長鼬ケナガイタチから跳躍を取れたらと、思っているんだが」


 フェレットじゃなく、胴長のウルヴァリンが太い枝の間を飛び回っている。


「どうしても跳躍じゃねえといけねえのか」

「いや、もう一つと思っただけ」

「じゃ、狂蹴鳥の斬撃でどうだ。出なくても肉も皮も鼬よりは高く売れら」


 イタチより見つけ易く、実入りも良いのだが。


「俺は武人じゃないから、あれはイタチより手強いんだよな」


 ヒクイドリより一回り大きい軍鶏みたいな狂蹴鳥は、少し飛べるので空中で方向転換が出来る上に、爪から斬撃の気が伸びて、当たり判定が大きい。

 それに、斬撃の技能が霊核ではなく、爪に入る場合もある。

 斬撃入りの爪で作った狂蹴鳥の小刀は、サイドアームとしては良い物なのだけど。


「おめえは武人とそんなにゃ変わらねえ。危なかったらすけるから、まずやってみねえか。十三になってねえのに機敏持ちの職人なんざ、いねえぜ」

「ジジババが一緒なら、七級を恐れることもないか」


 現実では臆病なくらいで丁度良いのだが、出来る事をしないのも将来をつまらない物にする。

 四級を獲れないといけない銃職人になるつもりなら、それなりの挑戦はしてもいいと思う。

 狂蹴鳥狩りをするなら東門に居続けになるので、夕香の移動許可を神殿に申請した。

 何があるか判らないので、十五歳になるまでは、孤児扱いで神殿と関わっていた方がいい。

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